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- あっさり or 濃厚? 漫画の味もお好みで
最近の漫画はデジタル作画が当たり前になりましたが、手描きの作家もがんばっています。手描きならではの作風の違いを味わってみてはいかがでしょうか。
漫画の森の中、濃いも薄いも楽しんでいます
相変わらず日差しが強いですね。日本の四季が夏と冬だけになってしまったらどうしましょう。ともあれ「読書の秋」です。
デジタル作画で、達者な絵を描く人が増えてきました。よく描きこまれた画面が多くなったようです。それはそれで面白いのですが、私は作家によって、がらりと変わる作風の違いも楽しんでいます。
あっさりと薄味の線で描かれた漫画や、これでもかと濃密に描きこまれたものなど、個性的な作品がたくさんあって、漫画の森から抜け出られない私です。
「誰でも描けそうでいて描けない」坂田靖子
あっさり代表は坂田靖子です。見出しの言葉は萩尾望都による『総特集 坂田靖子 ふしぎの森のマンガ描き』の推薦文から引用しました。
簡潔な線で、SFから英国貴族、日本や外国の怪異譚(かいいたん)、魔法使い、普通の人たちの愉快な話など、あらゆるジャンルを描く作家です。40年以上描き続け、600作品にも及びます。
人物の目を点や線だけで描いていても表情は豊かです。1ページに使っている線が数えられるくらい少なくても情景は伝わってきます。あっさりとした線は、実は不思議で奥深い世界への入り口なのです。
なかでも『バジル氏の優雅な生活』は好きな作品の一つです。プレイボーイで面白いことが好きな独身貴族バジル氏の周りには、いろいろな人が集まり素敵な事が起こります。舞台は19世紀のイギリスで、会話もしゃれていて外国のドラマを見ているようです。
『伊平次とわらわ』は、墓守の伊平次と、姫の霊がとりついた犬の「わらわ」のコンビに起こる、不思議でおかしい物語。作者の得意な「二人の掛け合い」も楽しめる作品。
衣装にじゅうたんに……びっしりと描きこまれた模様が素晴らしい
濃厚な画面なら森薫でしょう。ご本人も単行本のあとがきで、細かい模様を描くのが好きと言っています。テレビで作画風景を見ましたが、楽しそうに手早くペンを動かしていました。
『乙嫁語り』は、作者の好みとこだわりが詰まった作品です。民族衣装や装身具だけでなく建物や動物にいたるまで細かく描きこまれています。このような世界では、性別や年齢や地位によって身に着けるものに差があると思うので、きちんと描き分けているのでしょう。
物語の舞台は19世紀後半の中央アジア。カスピ海周辺に暮らす、遊牧民出身のアミル(20歳)と夫のカルルク(12歳)の二人の成長と愛情の深まりの話を中心に、何組かの夫婦の話が語られます。
部族間の利害関係がからむ婚姻の実情や、女性の暮らしぶりも興味を引きます。ロシアの介入やイギリスの思惑など、当時の国際情勢も描かれているので、歴史ものとしても面白く読めます。
『乙嫁』とは美しいお嫁さんのことのようですが、年上女房のアミルさん、当時のたしなみでしょうが、馬に乗り弓矢で狩りをし獲物をさばく女性。婚家の危機には戦い、刺しゅうなどの手仕事にもいそしみ、カルルクくんには優しい、とっても乙(おつ)なお嫁さんです。
今回の作品
『総特集 坂田靖子 ふしぎの国のマンガ描き』 坂田靖子 2016年 河出書房新社
『バジル氏の優雅な生活』 坂田靖子 白泉社文庫 全5巻 1996年
『伊平次とわらわ』坂田靖子セレクション第7・8巻 2001年 潮出版社
『塔にふる雪』坂田靖子セレクション第4巻 2000年 潮出版社
『月と博士』 坂田靖子 1986年 白泉社
『ベル デアボリカ』 坂田靖子 全4巻 2010年 朝日新聞出版
『乙嫁語り』森 薫 2018年~ 既刊13巻 KADOKAWA
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