落語自由自在30

オンラインで生配信 「文蔵組落語会 甚五郎三部作」

公開日:2020.07.01

更新日:2020.07.06

落語が大好きなさいとうさんの落語体験記。落語を聞いて笑うことが、さいとうさんにとって元気の源なのだそう。今回は「文蔵組落語会 甚五郎三部作」のオンライン配信の寄席を臨場感たっぷりに紹介してくれました。

文蔵組落語会のオンライン会員になったきっかけ

文蔵師匠が配信をするきっかけは、3月末のことでした。まだ緊急事態宣言は発令されていませんでしたが、次々と仕事が中止になり、どうにかならないかと、後援会事務局の天野隆さん(つながり寄席代表)に、相談したことから始まりました。それなら有料配信でやりましょうとなり、収録だと緊張感がなくなるということで、生配信でとなったわけです。

4月9日に第1回目の「文蔵組落語会」が開催され、参加者70名とかなりの反響がありました。私もどんなものかと2000円払って視聴しました。その後4月は5回配信されると発表があり、しかも文蔵組の組員になれば、無料で見られると知りましたが、正直迷いました。なにせ文蔵組ですので、盃料(さかずきりょう)3000円 みかじめ料3000円と表記されているのです。果たして入会してよいものかと考えました。よからぬことが起こりそうな予感がしましたが(笑)、結局お得に見られるのだからと、思い切って組員になりました。

その後、どんどん構成員が増え、ゴールデンウィークあたりからは毎回500名前後の人々が視聴しております。他の噺家さん達も少し遅れて配信を始めましたが、文蔵組はその先駆けです。

今回の文蔵組は「甚五郎三部作 リレー落語会」です。文蔵師匠の企画で、寄席でもホール落語でも有り得ない、夢のような会が実現しました。甚五郎とは、江戸時代初期に活躍した伝説の彫刻職人・左甚五郎(ひだり・じんごろう)のこと。日光の「眠り猫」など各地に名品を残しています。その人となりを、時系列に従って描いて行くのです。それぞれ単発で高座にかけられることはありますが、3人の噺家が繋いでいくのは初めての試みでした。

 

「竹の水仙」橘家文蔵

「竹の水仙」橘家文蔵

天下の名工左甚五郎は江戸へ下る途中、名を隠して旅籠(はたご)に長逗留(ながとうりゅう)、朝から酒を飲んで過ごしていました。不審に思った宿のおかみさんが、亭主に宿賃の催促をするようにと頼みます。気の弱い主人は遠慮がちに話しますが、らちが明きません。

このあたりを文蔵師匠は、実に面白おかしく演じます。やがて男が無一文と知り、おとなしい主人もさすがに怒り出しますが、粗末な着物を着た男は動ぜず、竹で水仙を作り宿の玄関先に置きます。それが細川のお殿様の目に留まり、高値で売れるのです。宿のおかみさんと主人、そして甚五郎、それぞれのキャラが際立ち、大笑いをした文蔵師匠の「竹の水仙」でした。

 

「三井の大黒」入船亭扇辰

「三井の大黒」入船亭扇辰

江戸へ出てきた甚五郎は、大工たちの仕事ぶりにケチをつけ、袋叩きに遭いますが、棟梁(とうりょう)政五郎が、仲裁に入ります。

「生まれは?」と聞かれ、「飛騨高山」と言うと、「あそこには、甚五郎という素晴らしい人がいる」と言われ、まさか私が本人ですとは言えなくなり、名前はさっき頭を殴られたので忘れたととぼけます。

政五郎に気に入られて居候となり、ぽーっとしているので、「ポンしゅう」と呼ばれるようになります。翌日から棟梁のもとで板を削る下働きを始めます。ここは所作のきれいな扇辰師匠の見せ場です。ゆっくりと間をおいて、板を鉋(かんな)で削る仕草……。何もないはずなのにかんなくずが舞うのが、私にははっきりと見えました。

江戸の大工は暮れになると、端材で生活用品を作って小遣い稼ぎをします。「ポンしゅう」も棟梁に勧められて、一心不乱に大黒の像を彫り上げ、やがてその正体が明らかになります。随所に技あり、じっくり聴かせる扇辰師匠の「三井の大黒」でした。

この噺(はなし)はすべて演じたら、1時間近くかかる大作で、オンライン生配信では、時刻はすでに21時。こうなると大変なのがアンカーの小せん師生です。

 

「ねずみ」柳家小せん

「ねずみ」柳家小せん

「これまでの左甚五郎は、かなりひどい人でしたが、ここらあたりからいい人になります」と、いい人の代表のような小せん師匠が話し始めます。この部分はリレー落語ならではの説明で、通常の「ねずみ」では語られません。

政五郎の家から、見聞を広めるため甚五郎は旅に出ます。仙台城下で鼠屋(ねずみや)という宿に落ち着きますが、そこは12才の少年と腰の立たない父とが、二人だけでやっている粗末な宿でした。甚五郎は不思議に思い、訳を聞きます。悲惨なその境遇に、思わず涙がにじみました。

その晩甚五郎は、精魂込めて小さなネズミを彫り上げます。翌朝、木のネズミをたらいに入れ、「左甚五郎作 福鼠 この鼠をご覧になりたい方は、土地の人、旅の人を問わずぜひ鼠屋にお泊りください」と書いた札を入口に掲げさせます。

噂はたちまち広がって、見物人が押し寄せ宿は大繁盛、裏の空地に建て増しをして、使用人を置くようになります。途中、たくさんの見物人が鼠屋に押し寄せると、「百人乗っても大丈夫」とクスグリを入れたりして、涙と笑いの入り混じったなんとも爽やかな小せん師匠の「ねずみ」でした。

甚五郎三部作は、こうして予定時間を大幅にオーバーして、終演となりました。聞き応え、見応え充分、至福のひと時でした。


 

さいとうひろこ

趣味は落語鑑賞・読書・刺しゅう・気功・ロングブレス・テレビ体操。健康は食事からがモットーで、AGEフードコーディネーターと薬膳コーディネーターの資格を取得。人生健康サロンとヘルスアカデミーのメンバーとなり現在も学んでいます。人生100年時代を健康に過ごす方法と読書や落語の楽しみ方をご案内します。

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