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- オンラインで生配信 「文蔵組落語会 甚五郎三部作」
落語が大好きなさいとうさんの落語体験記。落語を聞いて笑うことが、さいとうさんにとって元気の源なのだそう。今回は「文蔵組落語会 甚五郎三部作」のオンライン配信の寄席を臨場感たっぷりに紹介してくれました。
文蔵組落語会のオンライン会員になったきっかけ
文蔵師匠が配信をするきっかけは、3月末のことでした。まだ緊急事態宣言は発令されていませんでしたが、次々と仕事が中止になり、どうにかならないかと、後援会事務局の天野隆さん(つながり寄席代表)に、相談したことから始まりました。それなら有料配信でやりましょうとなり、収録だと緊張感がなくなるということで、生配信でとなったわけです。
4月9日に第1回目の「文蔵組落語会」が開催され、参加者70名とかなりの反響がありました。私もどんなものかと2000円払って視聴しました。その後4月は5回配信されると発表があり、しかも文蔵組の組員になれば、無料で見られると知りましたが、正直迷いました。なにせ文蔵組ですので、盃料(さかずきりょう)3000円 みかじめ料3000円と表記されているのです。果たして入会してよいものかと考えました。よからぬことが起こりそうな予感がしましたが(笑)、結局お得に見られるのだからと、思い切って組員になりました。
その後、どんどん構成員が増え、ゴールデンウィークあたりからは毎回500名前後の人々が視聴しております。他の噺家さん達も少し遅れて配信を始めましたが、文蔵組はその先駆けです。
今回の文蔵組は「甚五郎三部作 リレー落語会」です。文蔵師匠の企画で、寄席でもホール落語でも有り得ない、夢のような会が実現しました。甚五郎とは、江戸時代初期に活躍した伝説の彫刻職人・左甚五郎(ひだり・じんごろう)のこと。日光の「眠り猫」など各地に名品を残しています。その人となりを、時系列に従って描いて行くのです。それぞれ単発で高座にかけられることはありますが、3人の噺家が繋いでいくのは初めての試みでした。
「竹の水仙」橘家文蔵
天下の名工左甚五郎は江戸へ下る途中、名を隠して旅籠(はたご)に長逗留(ながとうりゅう)、朝から酒を飲んで過ごしていました。不審に思った宿のおかみさんが、亭主に宿賃の催促をするようにと頼みます。気の弱い主人は遠慮がちに話しますが、らちが明きません。
このあたりを文蔵師匠は、実に面白おかしく演じます。やがて男が無一文と知り、おとなしい主人もさすがに怒り出しますが、粗末な着物を着た男は動ぜず、竹で水仙を作り宿の玄関先に置きます。それが細川のお殿様の目に留まり、高値で売れるのです。宿のおかみさんと主人、そして甚五郎、それぞれのキャラが際立ち、大笑いをした文蔵師匠の「竹の水仙」でした。
「三井の大黒」入船亭扇辰
江戸へ出てきた甚五郎は、大工たちの仕事ぶりにケチをつけ、袋叩きに遭いますが、棟梁(とうりょう)政五郎が、仲裁に入ります。
「生まれは?」と聞かれ、「飛騨高山」と言うと、「あそこには、甚五郎という素晴らしい人がいる」と言われ、まさか私が本人ですとは言えなくなり、名前はさっき頭を殴られたので忘れたととぼけます。
政五郎に気に入られて居候となり、ぽーっとしているので、「ポンしゅう」と呼ばれるようになります。翌日から棟梁のもとで板を削る下働きを始めます。ここは所作のきれいな扇辰師匠の見せ場です。ゆっくりと間をおいて、板を鉋(かんな)で削る仕草……。何もないはずなのにかんなくずが舞うのが、私にははっきりと見えました。
江戸の大工は暮れになると、端材で生活用品を作って小遣い稼ぎをします。「ポンしゅう」も棟梁に勧められて、一心不乱に大黒の像を彫り上げ、やがてその正体が明らかになります。随所に技あり、じっくり聴かせる扇辰師匠の「三井の大黒」でした。
この噺(はなし)はすべて演じたら、1時間近くかかる大作で、オンライン生配信では、時刻はすでに21時。こうなると大変なのがアンカーの小せん師生です。
「ねずみ」柳家小せん
「これまでの左甚五郎は、かなりひどい人でしたが、ここらあたりからいい人になります」と、いい人の代表のような小せん師匠が話し始めます。この部分はリレー落語ならではの説明で、通常の「ねずみ」では語られません。
政五郎の家から、見聞を広めるため甚五郎は旅に出ます。仙台城下で鼠屋(ねずみや)という宿に落ち着きますが、そこは12才の少年と腰の立たない父とが、二人だけでやっている粗末な宿でした。甚五郎は不思議に思い、訳を聞きます。悲惨なその境遇に、思わず涙がにじみました。
その晩甚五郎は、精魂込めて小さなネズミを彫り上げます。翌朝、木のネズミをたらいに入れ、「左甚五郎作 福鼠 この鼠をご覧になりたい方は、土地の人、旅の人を問わずぜひ鼠屋にお泊りください」と書いた札を入口に掲げさせます。
噂はたちまち広がって、見物人が押し寄せ宿は大繁盛、裏の空地に建て増しをして、使用人を置くようになります。途中、たくさんの見物人が鼠屋に押し寄せると、「百人乗っても大丈夫」とクスグリを入れたりして、涙と笑いの入り混じったなんとも爽やかな小せん師匠の「ねずみ」でした。
甚五郎三部作は、こうして予定時間を大幅にオーバーして、終演となりました。聞き応え、見応え充分、至福のひと時でした。
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