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旅のアクシデント
2019年の年末にバルカン半島を巡る10日間のツアーに一人で参加した。クロアチアとスロベニアは観光地としても有名になり過ぎているが、ツアーに含まれていたボスニア・ヘルツェコビナとセルビアという国をどうしても見てみたかったのだ。
文化も歴史も深く、一度や二度訪れたくらいでは、決して理解しきれないだろうとわかっていたのだが、それでも、一度この目で見てみたかった。
ツアー初日、セルビアのベオグラードでは、初めてスリに遭った。財布やパスポートは無事だったがメガネとハンカチがいつの間にかバッグの中から消えていてショックだった。
2日目、ボスニア・ヘルツェゴビナの首都、サラエボでは、朝から胃が痛みだし、街の薬局で片言の英語で薬を買った。幸いその薬がよく効いて、胃の痛みは2日ほどで解消した。アクシデント続きで始まったツアーだったが、私はサラエボの街を夢中で見て回った。
サラエボの現実
現在のサラエボは、ビザンチン文化、ローマ文化、ハプスブル家の文化を取り入れ、多様な顔を持つ不思議な街である。
トルコ風のお菓子を売っているお店が立ち並ぶ街角があるかと思えば、イスラム教のモスクの塔がそびえ立ち、その道の先にはまるでウィーンと見まごうような街並みが存在している。
サラエボの街角
広場には、街のシンボルの古い水飲み場がある。少し横道に入ると、金属加工をする職人さん達がいるエリアがある。
鍛造(たんぞう)の音がリズミカルに聞こえてくる。ガラスのドアから中を覗き込むと、ふと手を休めた職人さんと目が合った。「入ってきていいよ」と笑顔で手招きする職人の顔には、深いしわが刻まれていた。
店内を一回り見せてもらった後、お土産用にきれいなスプーンを数本買ったら、「一本おまけだ」とスプーンを袋に入れてくれた。言葉は通じなくても分かり合えるのが嬉しい。
また、お土産を売っている雑貨店では、最初の設定と違う言い値で売ろうとしてくる。強気で当たらないと、損をしてしまうので、気が抜けない。そんな商魂たくましい姿も苦笑いでやり過ごした。
複雑な歴史を辿ってきたこの国のことは、日本人には本当には理解できないのかもしれないと思いつつ街中を歩き回った。少し迷子になりそうなときもモスクの塔が目印になってくれるので、元の道に引き返すことができた。
日本ではあり得ないような境遇を受け入れ、敵になったり、味方になったりの歴史を繰り返してきたセルビアとボスニア・へルツェコビナ。人々は歴史の中で柔軟に生き抜いてきたことだろうと、この国の人々について思いを馳せてみたが、想像の域を出ない。
しかし、この地を実際にこの足で歩き、この目で見て、雑踏の中に立ち空気感を感じることができたことは、充実した時間だったように思う。もし叶うなら、もう少しこの街に滞在してみたかった。
この先、平和な歴史が続くことを祈りながらこの街を後にした。
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