「塔本シスコ展 シスコ・パラダイス かかずにはいられない!人生絵日記」 塔本シスコ《絵を描く私》1993年 個人蔵
「塔本シスコ展 シスコ・パラダイス かかずにはいられない!人生絵日記」 塔本シスコ《絵を描く私》1993年 個人蔵

更新日:2023年03月07日 公開日:2021年12月08日

世田谷美術館の塔本シスコとグランマモーゼス展

遅咲き女性画家2人に学ぶ人生後半からの幸せな生き方

遅咲き女性画家2人に学ぶ人生後半からの幸せな生き方

人生後半から本格的に絵を始めたという2人の女性画家・塔本シスコさんとグランマ・モーゼスさんをご存じですか? シニア女性誌の編集長も務めたコラムニストの矢部万紀子さんが、この2人の企画展を見て感じた「幸せに生きるヒント」をお伝えします。

東京の世田谷美術館の企画展を見てきました

2021年10月と11月に、東京の世田谷美術館に行きました。最初は塔本シスコ展、次はグランマ・モーゼス展を見に行ったのです。

2人の女性には共通点があります。絵を描き始めたのが人生の後半だったこと、そして長生きしたことです。こうと知っては行かないわけにはいかないじゃないですか。

女性画家・塔本シスコさんの作風は強くてユーモラス

塔本シスコ《もらったラン、もらったシクラメン》1996年 個人蔵

塔本シスコさんは1913年に熊本県で生まれました。ちなみにシスコは本名で、養父(生まれてすぐに養子になったのです)がサンフランシスコへの憧れから付けたそうです。絵を始めたのは53歳、絵を描いていた長男の影響でした。

養家の家業が傾いたことで、学校は小学校4年の途中までしか行っていません。20歳で結婚しますが、46歳の時に夫を事故で亡くしました。順風満帆な人生とは言えませんが、作品は明るさに満ちています。ハイカラでちょっと脱力した感じの「シスコ」という名前そのままに、強くてユーモラスな作風です。

⑤塔本シスコ《絵を描く私》1993年 個人蔵
塔本シスコ《絵を描く私》1993年 個人蔵

会場に入ると目に飛び込んでくるのが、「絵を描く私」という大きな作品です。ピンクの花が咲き誇り、中に大きな鳥が3羽、蝶々も飛んでいます。そこに絵筆を握るシスコさんが描かれています。年齢不詳の横顔で、まっすぐ前を見つめる大きな目と厚い唇が特徴です。

絵には素人の私ですが、遠近法といったものとは関係なく描いていることはわかります。でも、すごく説得されます。シスコさんは絵が描きたいんだ、生きているものたち(植物も動物も)と自分を描くんだ、その意志が伝わってくるからだと思います。

しかも絵の中のシスコさんが着ているワンピース(たぶん)が、柄といい袖の感じといいなんともおしゃれで、「この服、売ってたら絶対買う」と思いました。シスコさんってば、おしゃれさんなんだから。そんなふうに話しかけたくなって、作品に触れていくうちに顔が勝手にニコニコしてきます。

グランマ・モーゼスさんは「律儀」な作風

ランマ・モーゼス展
アンナ・メアリー・ロバートソン・“グランマ”・モーゼス 《シュガリング・オフ》
1955年 個人蔵(ギャラリー・セント・エティエンヌ、ニューヨーク寄託)© 2021, Grandma Moses Properties Co., NY

そして現在も世田谷美術館で開催中なのが、グランマ・モーゼス展です(2022年2月27日まで)。グランマ・モーゼスさんは1860年にアメリカの農家に生まれ、自立するために12歳から裕福な農家で働いたという人です。学校は行けたり行けなかったりだったそうで、シスコさんと重なります。27歳で同じ農家で働く男性と結婚、二人で農場を営みます。刺繍絵を作っていたのですが、リウマチで針が持てなくなり、75歳から本格的に油絵を始めます。描いたのは“古き良き”アメリカです。

庭で絵を描くグランマ・モーゼス 1946年  写真:Ifor Thomas(ギャラリー・セント・エティエンヌ、ニューヨーク寄託) © 2021, Grandma Moses Properties Co., NY
庭で絵を描くグランマ・モーゼス 1946年 
写真:Ifor Thomas(ギャラリー・セント・エティエンヌ、ニューヨーク寄託) © 2021, Grandma Moses Properties Co., NY

ローソクや石鹸が手作りされ、煮炊きは薪、移動は馬車、そんな時代の農場の日常が描かれます。20世紀になっても、そういう時代の仕事と暮らしを愛していた。そう伝わってきます。作風をひと言で表すなら「律儀」です。季節ごとにすべきことをきちんとこなす、農家の暮らしそのままだと思いました。

とはいえユーモアも漂っていて、そこもシスコさんと重なります。点描の手法で木々や花など全体の風景を描いているのですが、そこにいる人物がユーモラスなのです。動きは写実的なのですが、顔は黒丸の目とカーブした線の口しかないのです。それがお人形のようで、不思議なおかしさと優しさが漂います。モーゼスさんってば、リアルなのにキュートなんだから。そう言いたくなって、19世紀生まれの大先輩がだいぶ身近になりました。

アンナ・メアリー・ロバートソン・“グランマ”・モーゼス 《村の結婚式》 1951年 ベニントン美術館蔵 © 2021, Grandma Moses Properties Co., NY
アンナ・メアリー・ロバートソン・“グランマ”・モーゼス 《村の結婚式》
1951年 ベニントン美術館蔵 © 2021, Grandma Moses Properties Co., NY

ところで、モーゼスさんの本名は、アンナ・メアリー・ロバートソン・モーゼスさんです。絵を描き始めて4年目にあるコレクターの目に留まり、個展が開かれるとモーゼスさんはトントン拍子で「国民的画家」となります。ついた愛称がグランマ・モーゼスで、そちらが有名になったそうです。彼女の個展が開かれたのは、1940年。あの戦争の真っ最中で、80歳の無名女性の作品を評価する。アメリカは、懐深いです。

展覧会っていいですね。作品に触れながら、画家のことをあれこれ思います。テレビや映画が与えられたストーリーに反応していくものだとしたら、展覧会は自分の中でストーリーを作っていく。そんな感じでしょうか。

死の直前まで絵を描き続けた2人のさらなる共通点

シスコさんは91歳、モーゼスさんは101歳で亡くなりました。死の直前まで作品を描いていたのは2人に共通です。なぜ2人とも長寿だったかと想像すると、多幸感かな、と思いました。

シニアには「社会とのつながり」が大切。よく言われます。画家としての評価を得れば、それは大変な「社会とのつながり」ですが、それが長寿の決め手だったかというと、そうでもないような気がします。他人の評価のためでなく、自分のために描いていた。そう思うのです。人生の後半から始めたことです。他者の目より、自分の幸せ。だと思います。

どちらの展覧会にも、温かな風が吹いていました。描く喜びが伝わって、自然に頬が緩みました。シスコ展もグランマ・モーゼス展も、全国のあちこちで開かれる予定です。近くの美術館で開かれていたら、ぜひ行ってみてください。

【塔本シスコ展】

  • 熊本市現代美術館:会期/2022年2月5日~4月10日(終了)
  • 岐阜県美術館:会期/2022年4月23日~6月26日(終了)
  • 滋賀県立美術館:会期/2022年7月9日~9月4日(終了)

【生誕160年記念 グランマ・モーゼス展 素敵な100年人生】

  • 世田谷美術館:会期/2021年11月20日~2022年2月27日(終了)
  • 東広島市立美術館:会期/2022年4月12日~5月22日(終了)
    ※詳細は各美術館のホームぺージをご確認ください。

矢部 万紀子
1961年生まれ。83年朝日新聞社に入社。「アエラ」、経済部、「週刊朝日」などで記者をし書籍編集部長。2011年から「いきいき(現ハルメク)」編集長をつとめ、17年からフリーランスに。著書に『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』(ちくま新書)『美智子さまという奇跡』『雅子さまの笑顔』(幻冬舎新書)


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矢部 万紀子
矢部 万紀子

1961年生まれ。83年朝日新聞社に入社。「アエラ」、経済部、「週刊朝日」などで記者をし書籍編集部長。2011年から「いきいき(現ハルメク)」編集長をつとめ、17年からフリーランスに。著書に『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』(ちくま新書)『美智子さまという奇跡』『雅子さまの笑顔』(幻冬舎新書)

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