俳優・風吹ジュンさんインタビュー

風吹ジュン!我慢しない妥協しないで素直に自分と向き合いたい

風吹ジュン!我慢しない妥協しないで素直に自分と向き合いたい

更新日:2025年09月09日

公開日:2025年07月19日

美しく刻まれた笑いじわ、いきいきと輝く瞳……60歳、70歳と年齢を重ねて、ますますチャーミングな魅力が増している風吹ジュンさん。仕事に子育てに無我夢中の時期を乗り越えて、「今が一番楽しい」という風吹さんに心も体も強くしなやかに生きる秘訣を伺いました。

向田邦子さん、樹木希林さん……今こそ聞いてみたいことがあるし、会いたいなと思います

pocketalbum / PIXTA

取材の当日。風吹さんはスタジオに到着するやいなや、笑顔で「こんにちは」と一人一人の目を見ながらあいさつし、まわりの空気が一瞬にして明るくなりました。

「笑顔一つ、言葉一つ交わすことで、相手の心の扉がちょっと開くでしょう。人は自分を映す鏡であって、こちらから笑うことで、相手も自然と笑顔を返してくれる。私は普段からマンションのまわりを掃除してくださっている方とか、エレベーターでばったり会った方とか、どなたにも笑顔で接するようにしています。それだけで互いに幸せな気分になれますよね。コンビニやカフェに行ったときも、『こんにちは』『いいお天気ね』と、ひと言だけでも声をかけます。

若い頃は私もすごく警戒心が強くて、周囲に壁をつくっていましたが、いろいろな経験を重ねて、年をとったことでいい意味で無防備になってきました(笑)。壁をなくしてラクに会話ができるようになった今は、すごく過ごしやすいですね」

そうにこやかに語る風吹さん。笑顔でいることは、相手に好意を示すだけではなく「自分を守る武器にもなる」と話します。

「西洋では知らない人同士でも、笑顔で声をかけ合いますよね。あれは互いに摩擦を起こさないための防衛の一つだと思うんです。私の場合、もし嫌な人がいても、けんかはせず笑顔でかわします。

眉間にしわを寄せて文句を言っても、相手と自分を傷つけるだけだから、ニコニコしながら毅然と距離をとる。笑顔でいることって実は強さの表れであり、自分を守る大事な武器にもなるんですよ」

70代を迎えた今、演じることが楽しい

39歳で離婚後、40代はシングルマザーとして寝る間も惜しんで子育てと仕事に奔走し、50代は体の不調に悩まされたという風吹さん。60代後半からようやく自分なりの仕事のペースがつかめるようになり、70代を迎えた今は「老いることでむしろ役の幅が広がって、演じることが楽しい」と顔を輝かせます。

「子育てと母の介護が重なった頃は、セリフを覚える時間も勉強する時間もとれなくて、もっと余裕があれば、もっと深く役を表現できるのに……と思っていました。今やっと余裕が持てる年代になりましたね。

私はテレビで相撲やボクシングの中継を見るのが大好きで、ドキュメンタリー番組やニュースも見ますから、エイッとテレビを消してからが集中する時間。夜中に一人で台本を読み込んでいると、あっという間に3時、4時になってしまうことも。記憶力がずいぶん落ちていて大変ですが(笑)、自分のやりたいことに時間と手間を費やせる今が一番楽しいです」

人との出会いに無駄なことは一つもない

自分のやりたいことに時間と手間を費やせる今が一番楽しいです

映画「アイミタガイ」では、黒木華(くろき・はる)さん演じる主人公の祖母役で出演した風吹さん。かけがえのない存在だった親友を失い、立ち止まってしまう主人公の背中をやさしく押す役です。

「『アイミタガイ』=『相身互い』って、耳慣れない言葉だと思いますが、お互い様とか、持ちつ持たれつという意味なんです。誰かを想ってしたことが、巡り巡って見知らぬ誰かをも救う。そんなアイミタガイの精神を孫娘に教える大事なシーンを演じました」

映画の中で主人公は、亡くなった親友と会話がしたくて、返事が来ないとわかっていてもスマホにメッセージを送り続けます。風吹さんにとって、もう一度会いたい人、話をしたい人は誰なのでしょう?

「23歳のときに出演したドラマ『寺内貫太郎一家2』の脚本家・向田邦子(むこうだ・くにこ)さん、共演の樹木希林(きき・きりん)さん、加藤治子(かとう・はるこ)さんは、私を役者の道に導いてくださった人たちで、本当に助けられました。希林さんまでいなくなっちゃって、年を重ねた今こそ会って話がしたいと思いますね。

でも実は、“あっ今、希林さんがいるな”“加藤さんがいるな”と感じるときがあって、生きる上で力をもらっている気がします」

これまでの人生を振り返って「人との出会いに無駄はない」と風吹さんは言います。

「もちろん、会わなくてもよかったと思う人は何人かいますよ。その人に出会ったことで痛い目に遭って、辛酸をなめさせられたという事実はありますが、それも後になって考えれば自分の成長に確かにつながっている。つらい経験が生き抜く強さを育んでくれたと思うから、それが無駄だとは思いません。

私は人を恨んだり、憎んだりする時間は、すごくもったいないと思うんです。昔から“人を呪わば穴二つ”と言うように、人を恨めば自分にも悪いことが返ってくるわけでしょう。結局のところ、どうしても苦手な人は見切りをつけて、自分が成長するしかない。自分の人生の責任をとれるのは自分だけですから、がまんしないで、妥協しないで、素直に自分と向き合いたいと思っています」

体を動かすことで脳もついてくる

プラナ / PIXTA

「私の人生はまだまだこれから」という風吹さん。心身をしなやかに保つには「やっぱり体を動かすことが一番」と話します。

「母が晩年、まだらですが認知症になっていったとき、『お母さん、散歩した方がいいよ』と言ったら、『年寄り扱いして!』と反発されて、どうしたら歩いてくれるだろうとずいぶん悩みました。やっぱり体を動かすことで、脳もついてくるし、五感もやる気も刺激される。

体を動かさないことには始まらないと実感したので、私はとにかく歩こうと決めて、2駅くらい先のスーパーまで歩いて買い物に行きます。帰りは買い物の荷物を持って筋トレしながらスタスタ歩く。嫌なことがあっても、歩いているうちに気分が晴れてきます。

私はまだやりたいことがいっぱいあるから、年だからなんて言っていられない。最後に後悔しないように、前に進み続けたいです」

風吹ジュンさんプロフィール

ふぶき・じゅん 1952(昭和27)年富山県生まれ。75年「寺内貫太郎一家2」で女優デビュー。91年「無能の人」で日本アカデミー賞助演女優賞を受賞。2018年、連続テレビ小説「半分、青い。」でヒロインの祖母役と語りを務める。主な出演映画に「魂萌え!」「海街diary」「浅田家!」「先生、私の隣に座っていただけませんか?」「ちひろさん」「658km、陽子の旅」「愛に乱暴」がある。

取材・文=五十嵐香奈(ハルメク編集部)、撮影=資人導、スタイリング=岡本純子、ヘアメイク=石邑麻由

※この記事は、雑誌「ハルメク」2024年12月号を再編集しています。

HALMEK up編集部
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