50代からの「リスタート診断」あなたの最初の一歩の踏み出し方がわかる!
2025.02.20
公開日:2025年03月20日
013:宮田みゆきさん(59歳)
体より鍛えたのは心…50歳で筋トレを始めた主婦が世界トップビルダーに!
50代から新しい一歩を踏み出して、第二の人生を歩み始めた人たちを追う「わたしリスタート」。色白の普通の主婦から世界上位のボディビルダーへ。宮田みゆきさんが50代で見つけた新たな自分と、心と体を輝かせるための秘訣について伺いました。
宮田みゆきさんのリスタート・ストーリー
2024年12月、国際的なボディビルコンテスト(IFBB世界フィットネス選手権・女子フィジーク163cm以下級)で世界2位を獲得した、宮田みゆきさん。
世界のトップビルダーとなった宮田さんが、ボディビルダーを目指して筋トレを始めたのが、50歳目前の2015年のこと。それまでは2人の息子の子育てに勤しむ、普通の主婦だった。
すでにボディビルダーとして活躍していた夫のサポートのもと、猛特訓に励み、わずか4か月後のデビュー戦(東京オープンボディビル選手権大会)で優勝。その後も数々の大会で優勝を収めるなど、好成績を残してきた。
2018年から自身のジムを開設し、パーソナルトレーナーの活動もスタート。「Rパーソナルジム」を運営し、選手のみならず、指導者としての活躍の幅も広げている。
見た目も人生も180度変わった宮田さんが明かす、変革の舞台裏とは?
※宮田さんの活動は自身のインスタグラム(@alive.m.y.k)でも公開中。
舞台で見た華麗な動きに一瞬で心奪われて
――ボディビルに惹かれたきっかけは?
実は私、ボデイビルが嫌いだったんです(笑)
というのも、長男と夫がボデイビルに励むようになってから、ライバルのように張り合うようになって、たびたび衝突していました。しかも厳しい食事制限をしていたので、食事の注文が細かくて、本人たちも減量のストレスから終始イライラ。
もうこんな状態はコリゴリだと思い、嫌気がさしていたんです。
ところが、そのイメージが一気に覆る出来事が。あるとき、長男が出場するボデイビルの大会に応援に行くと、そこで女子のフィジークという大会も行われていて、見た瞬間、心を奪われました。
「私もあのステージに立ちたい! 舞台で自分を表現したい!」と思ったのが、最初のきっかけです。
――「フィジーク」とはどんな競技ですか?
「女子フィジーク」は、女性らしい筋肉美を競う競技。
予選を通過すると自分の好きな曲で振り付けして1分間で自由にポージングができる、フリーポーズの権利をもらえるのですが、選手たちの美しい身のこなしや華麗な動きを見ていたら、胸がグワっと熱くなるのを感じました。
――「チャレンジするなら今だ」と思ったタイミングは?
女子フィジークと運命的な出合いを果たしたのが、49歳のとき。その前の私は、「来年は50歳になるのか」とちょっと憂鬱で、このまま年を取って人生が終わってしまうのは嫌だなと悶々としていました。
30~40代はやんちゃな息子2人の子育てに追われて毎日が慌ただしく、自分と向き合う時間も皆無だったので、この先どう生きていいかわからなかったのです。
そんな時、初めて「これがやりたい!」と心震えるものに出合い、50歳という大きな節目に新しい一歩を踏み出そうと、大会出場を決意しました。
カロリー計算なし、トレーニングは週3回90分、が私流

――最初はどこでどう学んだのですか?
4か月後の大会に出たいと夫に伝えると、「お前が出るなら、俺が肉体改造してやる!」とコーチを買って出てくれました。
それからは鬼コーチによるスパルタ指導の日々。夫婦でジムに行くと、夫に「こんなもんもできないのか!」と叱咤され、そのたびに喧嘩が始まるので、ジムでも有名な夫婦になっちゃいました(笑)
私も負けず嫌いな性格で、勝ちたい意欲がどんどん増して、初めて出場したデビュー戦で優勝。憧れの舞台に立てた感動もひとしおでした。
――体づくりのための食事で意識したことは?
私の場合、普通と全く違うやり方で結果を出してきたんですよね(笑)
大会を控えているときは3か月半~4か月前から減量をスタート。ズボラな性格もあってカロリー計算はせず、体重も毎日計りません。ボディビルダーの食生活にありがちな「鶏のささみとブロッコリーだけ」みたいな食事もしませんし、プロテインも一切とりません。
とにかく“彩り”を意識した、栄養バランスのいい食事を意識。朝食に一番ボリュームをもたせて、いろんな種類の野菜とお肉やお豆腐・納豆のようなタンパク質、そして炭水化物もしっかりと食べます。パンも大好きだし、朝からドーナツやスイーツを食べることも。
好きなものを我慢して食べない!ではなく食べるための調整をして楽しみます。
――体づくりのトレーニングは何をするの?
トレーニングも週3回くらいで、1回1時間半で終了。というのは、筋トレはやればやるほど筋肉がつくものでもないからです。
大会の審査では筋肉のトータルバランスや女性らしい肉体美が重要な要素になるので、肌の艶やかさやハリも大切。自分を痛めつけるような筋トレや食事制限では体がしぼんで、肉体が放つ輝きが半減してしまうので、自分の心と体が心地いいやり方を実践しています。

――大会出場までの金銭的な負担はどれぐらい?
日々のボディメイクにかかる費用は、フィットネスジムの月会費や日焼けサロン代など。最初の頃は一般のジムに通っていたので、月会費は7000~8000円といったところでしょうか。日焼けサロン代は、今は通い放題で月々1万円のサロンを利用しています。
最も額が大きいのが、大会で着用するコスチューム代。以前に出場した大会では、ストーンのついたビキニが6万円。ドレス着用の競技では衣装代に20万かかると聞きます。
それから体づくりの基礎となる食事も大切な要素の一つ。野菜やお肉、お魚など良質な食材を手に入れるとなると、結構な出費になります。野菜はなるべく安いときに、一度にまとめて購入。皮ごと切って真空のタッパーに入れて、長持ちさせるようにしています。ここは主婦の力の見せどころですね(笑)
費用はかかりますが、自分を最大限、魅力的に表現するにはどれも欠かせないもの。私はトレーナーという仕事をすることで、これらの費用をカバーできています。
ボディメイクに欠かせないのは筋トレより「心トレ」
――パーソナルトレーナーになろうと思ったきっかけは?
初めての大会で優勝後、次々と好成績をおさめる中で応援してくれる方がどんどん増えていって。ありがたいことに「みゆきさんからポージングや筋トレを学びたい!」という声が聞こえるようになりました。
私自身、スポーツインストラクター経験もあって、もともと教えることも大好き。だからトレーナーとしての活動を始めるのは自然な流れでした。
――パーソナルジムはどうやって運営していますか?
2018年に横浜でパーソナルジムを開設。2023年からは都内にある、長男が運営する「Rパーソナルジム」に拠点を移し、そこでパーソナルトレーニングを行っています。
おかげさまで生徒さんの口コミや大会での好成績のおかげで、たくさんの生徒さんが集まってくれています。年代は20代から上は70代まで、経歴もさまざま。実は女子は、40代、50代から競技を始める人も少なくありません。
家は男だらけでしたが、ジムで若い生徒さんといると、娘といる気持ちになれてちょっとうれしい(笑)。同世代とはおしゃべりが尽きません。
ただ一方では、「選手として結果を出し続けないといけない」というプレッシャーも、正直あります。そして、それ以上に私の指導者としての力量や人柄を生徒さんに信頼してもらえるか? 生徒さんたちと心の絆を結べるか? その部分こそ大事にしたいと思っています。

――チャレンジをして得た最大の教訓は?
理想の体をつくるには、筋トレだけじゃなく、「心トレ(心のトレーニング)」が大事だということ。メンタルも含めてバランスよく整っていないと、体も良い状態をつくれません。
減量中に「食べすぎちゃった~!」と泣き出す生徒さんもいますが、私は「体が欲しがっていたんだから、全然いいじゃん!」って笑って励まします。なぜなら、罪悪感がストレスを生み、体を弱らせ、余計に代謝が落ちてしまうから。まさに「責めると脂肪になる」のです。
「食べすぎちゃった」ではなく、「おいしく食べられてよかった」と、プラス言葉に変えて、また新たな気持ちで減量を再開すればいい。自分を責めず、カロリーや体重などの数字にとらわれず、毎日を楽しく笑って過ごす。そうやって心と上手に付き合う「心トレ」こそ、ボディメイクに欠かせないと経験から学びました。
――トレーナーとして日々どんな苦労が?
私が今、苦心しているのは、大会に出場する生徒さんたちの指導。1分間のフリーポーズでの曲の選定と振り付けを「先生にお願いしたい!」と頼まれることが多いんですね。
曲選びも振り付けも、その人のイメージにぴったりのものを考案しますが、私自身、生徒さんが心から気に入ってくれるもの、ステージで最高に輝けるものを提供したいというこだわりが強いので、決して手を抜けません。そこが私にとっての最大のプレッシャーでもあり、やりがいでもあります。
20代から40代、耐え忍んだ嫁姑関係が底力に

――「あの過去があるから今がある」と思えることは?
20代で結婚して以来、義両親と同居しています。40代までは、義母との関係に戸惑うことも多く、うまく気持ちを伝えられずに悩むことが多々ありました。
それでも、恨まず、憎まず、耐え続けて。そうやって長い間、自分を押し殺してきたので、心の奥にマグマのようなものが溜まっていたんじゃないかと思います。
私の負けん気や強さが生まれたのは、きっとそのおかげ。「いつかきっと!」という思いが爆発力となって、一気に花開きました。義父は他界しましたが、義母は90歳の今も健在!
でも、私がボディビルに挑戦して結果を出すようになると、だんだん応援してくれるようになり、今では「おめでとう! あなたは自分のことだけを考えてがんばって!」と優しい言葉をかけてくれるように。
不思議だけど、私の中の強さを引き出すために、義母はあえて悪者になってくれたんじゃないかと思うほどです。
――リスタートしてから最も大変だった出来事とは?
57歳で股関節の手術をしたとき。
実は、生まれつき股関節の被りが浅く、2018年頃からトレーニング中に痛み始めるようになりました。ピーク時は立ち上がるのもやっとで、5分も続けて歩けない状態。靴下もはけないほどの激痛でした。
この状態で選手生活を続けるのは限界……。でも、手術は怖いし、絶対にやりたくない。もう引退するしかないと考えていた時期は本当につらかったです。この大会を最後に引退しようと考えていた、2021年の日本ボディビル選手権では痛み止めの座薬を入れて出場し、結果3位に。
「そろそろ引退を」と考えていた矢先、生徒さんから「いい先生がいる」と大学病院を紹介され、手術を受ける気持ちになったんです。その頃は痛みがひどすぎて、藁にもすがる思いもありました。手術は無事、成功。
嘘のように痛みが消え、横断歩道の青信号の点滅時に走れたときの爽快さといったら!すべてが奇跡だと感じています。
挫折しても、そこから何度でもリスタートすればいい
――なりたい自分になるための秘訣とは
強い願望を持つこと。そして自分を味方につけること。
生徒さんの中には体重80㎏から40㎏台に落とされた方もいて、大変貌を遂げる方も少なくありません。そういう方たちに共通しているのは、強い願望があること。私も大会に出るときは毎回最高の肉体をつくり上げるべく力を注ぎますが、原動力は「こうなりたい!」という強い思いです。
だからと言って、「ジムに週5回通う」「毎日腹筋30回やる」などのように日々やることのハードルを上げすぎると続かなくなり、できない自分を責めてしまうことに。
腹筋5回でもいいので、必ず達成できるレベルまで目標を下げて、できたら自分を思いっきり褒める。自分を味方につけて、自分と二人三脚で歩んでいけば、おのずと理想に近づきます。
――1日の良いスタートを切るために心がけていることは?
朝からポジティブな気持ちで始めるには、「前日の夜の過ごし方」が大切!
例えば、夜遅くに甘いものやスナックを食べたくなっても、我慢できないときはお菓子を食べちゃうこともありますが(笑)、なるべく「これは明日の朝に食べよう! あと8時間後に食べられる!」と、楽しみを少し先延ばしに。すると、起きるのが待ち遠しくなります。
いい朝を迎えるには、いい夜を過ごすことから。夜はあれこれ考えずに、潔く眠ることを心がけています。
――あなたの座右の銘は?
『今を生きる』
過去の栄光に執着せず、また過去の失敗を引きずらず、ただただ、前だけ向いて日々、自分を喜ばせる事の繰り返しを!
誰もが人のため、人を喜ばせる事は常に考えていますが、あまり自分自身の事は考えたりしないもの。でも、自分が機嫌良くなる方法は自分しか知らないものです。
どのような過去にも執着せずに、自分を喜ばせるために、今からリスタートしていけばいいと思っています。
――これからチャレンジしたいことは?
いよいよ今年、60歳に。還暦を迎え、新しいステージに入るので、これまで培った経験とこれから60代になる私自身の体を使って研究しながら、「真に健康に生きる」ための情報発信をしていきたいです。
健康であり続けるためには、何事も必死にがんばっちゃいけない。
無理な運動や食事制限をせず、時には大好物のものを食べ、好きな人とお出掛けをして、自分のやりたいことをやる。そうやって人生そのものを楽しんでいくと自分のことがちょっとずつ好きになり、それが心身の健康へとつながっていくと思うのです。
そうした生き方を含めた健康への考え方を幅広い世代にお伝えするのが、これから挑戦したいことの一つです。
60代、70代でボディビルダーとして活躍している方もいらっしゃいます。私もどこまで追求できるか? 直近だと2025年8月の大会を目指しているので、春から本格的にエンジンをかけて今の私が発揮できる最高の肉体美を表現したいです。
50代のリスタートに必要な3つの備え
「年齢はただの数字」という言葉がありますが、私はあまり好きじゃない。だって、年齢は年齢ですもの(笑)。年代なりの衰えはあります。そんな自分に寄り添いつつも、ちょっとだけ背伸びして踏み出せば新しい世界が広がります。
1.目標設定は欲張らない
何か新しいことを始めるとき、「あれもこれも」とやることを増やしたり、目標をグンと高めに設定したりすると途中で挫折する可能性も。計画は立てるより達成することが大事。欲張らず、目標設定のハードルを下げると達成しやすくなります。
2.巷のブームに飛びつかない
世の中には「〇〇するだけで痩せるor幸せになる」みたいな流行りの成功法則があふれていますが、ブームはしょせんブーム。長くヒットし続けているものはありません。そうした一時的なメソッドに飛びつかず、自分の感覚を一番大事にするクセ付けを。
3.緩急をつけて続ける
「ボディメイクも人生もゴムのように」が私のモットー。ゴムは伸ばしすぎると切れてしまうように、人もがんばりすぎると燃え尽きてしまいます。ゴムが伸び縮みするように、「がんばる・緩める」を繰り返せば、やりたいことも生活習慣も続けられますよ。
取材・文:伯耆原良子 写真:菅井淳子 企画・構成=長倉志乃(HALMEK up編集部)