母と父との埋まらない距離…晩年に知った母の因果応報
2023.09.142023年12月12日
【シリーズ|彼女の生き様】風吹ジュン#3
夫の不倫、まさかの離婚…60代からの私の恋愛観
私は恋愛しません。 自信があるゆえに罠にかかり、 自分もまわりも深く傷つけた人を いっぱい見てきたから
夫婦げんかも離婚もしない、
親のようにはならないと覚悟して
29歳で結婚したとき、私は、いざこざが絶えずに離婚した親の轍は踏むまいと覚悟しました。だから二人の子どもを育てながら、夫の悪事に気付いても全部許していたんです。
ところが、結婚して10年がたった頃、不倫相手に子どもができたという理由で、夫から一方的に「別れてほしい」と言われました。
おかしいかもしれませんが、そのとき私は「神様はいるんだ」と思ったんです。
今ある生活を守るために、夫に裏切られても全部許してきたけれど、心から認めていたかといえば、違います。葛藤はありました。たぶん結婚して2、3年、もしかしたら数か月もしないうちに、本当は違うって気付いていたんです。
だから「別れてほしい」と言われたとき、もうこれ以上我慢することも、言い争うこともなく、自然に別れを受け入れればいいという状況が、ありがたかったんですね。子どもたちのためにも、前へ踏み出さなければいけないと思いました。
嫌な感情や人への執着を
断ち切るために、できること
別れようと決めたものの、消化しきれない恨みや怒りの感情がありました。
「どうしてこの人とうまくいかないんだろう?」「なぜこんなに理不尽な目に遭うんだろう?」と苦悩を抱え、答えを求めて本を読み漁っていたとき、たどりついたのが、ハワイの人たちに古くから伝わる「ホ・オポノポノ」という考え方でした。
ホ・オポノポノでは、人とうまくいかなかったり、問題が起きたりするのは、潜在意識の中にある古い記憶や感情が原因と考えられています。だから問題を解決するには、人のせいにしたり争ったりするのではなく、自分の中にある記憶や感情を浄化することが大切なんですね。
具体的には「ありがとう」「ごめんなさい」「許してください」「愛しています」という4つの言葉を心の中で繰り返します。すると心の中が浄化され、嫌な感情や人への執着を断ち切ることができるから、問題を流せるのです。
この考え方が私にはとても腑に落ちて、心がとてもラクになりました。みなさんも、うまくいかない人や出来事に遭遇してしまったとき、やってみてはどうでしょうか。
子育てと仕事に追われた40代。
人に甘えることを知った
離婚してシングルマザーになった40代は、寝る間も惜しんで子育てと仕事をして、はっきり言って記憶がないくらいです。「毎日お弁当を作る」「子どもたちを送り出してから仕事に行く」という条件だけは決めて、とにかく日々を生きるのに必死でした。どうしても仕事で外泊しなくちゃいけないときは、家族ぐるみで仲良くしていた友達親子に泊まりにきてもらったりしていましたね。
そうやってギリギリの状態で子育てをしながら実感したのは、他人の力って実はすごくありがたくて、捨てたもんじゃないということ。こちらから心を開いて付き合えば、まわりにはいい人がいっぱいいて、私は人に甘えることができるようになりました。それは、ずっと一人で必死に生きてきた私にとってすごく大きな経験でした。子育てを通して、人と助け合う大切さを自然に学んだことは、今でも私の力になっています。
「私はモテる」と勘違いして、
罠にハマってはいけない
「私、恋愛ってほんとにしてこなかったし、ボーイフレンドもいらなかった」と話すと、えーって言われるんですが、私にとって恋愛は、そんなに甘いものじゃないんです。男性もほんとは弱い生き物で、自分のことで精いっぱいだったりするから、女性が「自分を一番に考えてほしい」と願い、頼ったり、甘えたりするとうまくいかないんですよね。だから私は、男性とは同等に付き合って、求め過ぎない。かわいくて不器用な生き物だと思って、面倒くさいところも、まあしょうがないなって、手のひらの上で躍らせるくらいの気持ちでいるのがちょうどいいと思っています。
年を重ねてつくづく思うのは、男の人って女性がいないとダメで、いくつになってもずっと異性を求めるものなんですね。そういう男性に声をかけられたりすると、「私はモテる」と勘違いしちゃうんだけど、その罠にはハマらない方がいい。遊ばれる覚悟で遊ぶならいいけれど、つまらない相手を選んで心を傷つけられてしまうこともありますから。恋愛を否定するわけじゃないけれど、自分の心は自分で守らないと。
女として自信のある人は、たとえ相手に妻や恋人がいても、私の方が一番と思ったり、なんなら奪ってみせると考えたりするものですが、そこにも大きな罠があります。自信があるゆえに罠にかかって、深く傷ついた人を私はいっぱい見てきました。そしてだいたい、まわりの人たちも深く傷つけることになる。その傷はずっと消えないことを知っておいた方がいいです。私は不倫をしていいのは、寂聴さんだけだと思っています。
****
結婚と離婚、男女関係の中で理不尽な状況に立たされてもなお、冷静に見つめ対処してきた風吹さん。ひと呼吸おいて、負の感情を手放す。結局、負の感情で一番傷つけるのは自分なのだから――そう話す理由には、晩年の母との会話にもあったようで……。
取材・文=五十嵐香奈 写真=鈴木宏 構成=長倉志乃
【シリーズ|彼女の生き様】
風吹ジュン《全5回》
風吹 ジュン
ふぶき じゅん
1952(昭和27)年生まれ、富山県出身。74年歌手デビュー、翌75年「寺内貫太郎一家2」で女優デビュー。数々の映画、ドラマ、舞台で活躍。91年には「無能の人」で日本アカデミー賞助演女優賞を受賞。代表作にドラマ 「前略おふくろ様」「岸辺のアルバム」「阿修羅のごとく」「半分、青い。」「やすらぎの刻~道」、映画「魂萌え!」「海街diary」など。