50代女性の体験談シリーズ:実家じまい編 #3
売る・貸す・残す――迷い続けた末に、実家を「貸す」と決めるまで
売る・貸す・残す――迷い続けた末に、実家を「貸す」と決めるまで
更新日:2026年02月09日
公開日:2026年01月21日
相続後に始まった、心と事務の同時進行
施設入居から4年後、母は他界しました。
毎月の換気と通水、庭の手入れを続けてきた家が、相続によって私のものになりました。
相続後、最初に取り組んだのは相続登記です。意外に思われるかもしれませんが、 相続登記は自分で行うことができます。住居地を管轄する法務局に問い合わせると、必要書類を丁寧に教えてもらえました。戸籍謄本の取り寄せも、すべて郵便で対応可能。
「プロに頼まなければできない」と思っていましたが、登記の手続きに資格はいりません。
登記が完了したときは、ちょっぴり達成感がありました。
一番大変だった、遺品整理というもう一つの山
一番大変だったのは、遺品整理でした。
着物、食器、バッグは、買取業者3社に依頼。業者ごとに得意分野が違うため、複数社に頼むことをおすすめします。
開封済みのお酒や香水、度が合わなくなった眼鏡も買取対象でした。雛人形はすべて並べて写真を撮り、供養には出さず、お別れ。アルバムはスマホで撮影してから処分しました。
冷蔵庫はメルカリで、テレビと洗濯機はジモティーで引き取ってもらいました。
500冊以上の本は捨てられず、自宅に持ち帰り、時間をかけて手放しました。
家の中が空になるにつれ、床や壁紙の傷みが目につきます。家をきれいに掃除することが、当時の私にとって、悲しみから抜け出す一番の方法であり、家族を守ってくれた家への供養になると思いました。


売る・貸す・残す――悩んだ末に選んだ「賃貸」
遺品整理を進め、思い出に区切りをつけていく中で、「この家を手放さず、生かしたい」と思うようになりました。
相続した空き家は、3年以内に売却すれば、条件によって3000万円の控除を受けられる制度があります。金銭面だけを考えれば、賃貸に出さず売却が正解だとわかっています。それでも、私は売れませんでした。父の「家があれば安心だ」という言葉が、頭から離れなかったから。
売却査定も受けましたが、金額が良くても買い戻すことができないという「失う感覚」のほうが大きく感じられました。
一方で、空き家のままでは維持費がかかる。だったら、維持費を賄えるように「貸したい」。そう考えるようになりました。
「貸す」と決めてから見えた、実家じまいの形
賃貸に出すと決めてから、やることは一気に増えました。
絨毯をフロアタイルに張り替え、床を補修。壁紙の張り替え、トイレ交換、障子・ふすま、給湯器、雨どい、ハウスクリーニング手入れをしていくうちに築56年の家が、少しずつ息を吹き返していくのを感じました。
お金をかけすぎず家を元気にしたい。
管理会社の不動産屋さんに手伝ってもらい 床の張り替えは自分で行い、節約できるところは自分でDIYに挑戦しました。
売る、貸す、残す。どの選択にも、メリットとデメリットがあります。
私の場合、金銭面だけを見れば、売却が最適だったかもしれません。それでも売れなかったのは、家を手放すことへ気持ちがついていかなかったからです。
親が大切にしてきた家に「ありがとう」と言う時間が、もう少し欲しかった。
相続空き家の3000万円控除が受けられるのは相続後3年。その間に決断できるとは思えず、私は賃貸に出すために勉強を始めました。相続、遺品整理、リフォーム、掃除、賃貸に出すまで――ここで、いろいろな知識が身につきました。
不思議なことに「貸す」と決めてからゆっくり 「家じまいをしよう」という気持ちが生まれました。
売却を急がなくてもいい。 誰かに使ってもらいながら、心の整理をすればいい。以前のように空き家で年間20万以上かかることもなく維持できていることで、家がまだ自分の手元にあるという安心感を持てました。
入居が決まったとき、借りてくださったのは、私と同じ世代の方でした。
「昭和のレトロ感がよかった」そう言って、この家を選んでくださいました。築56年の家のよさを、懐かしさとして受け取ってくれる人がいる。
賃貸に出してよかったと思いました。
実家問題は、50代からの「人生の整理」
実家問題は、単なる不動産の話ではなく、この資産をどう生かすかという問いになります。
私は賃貸に出しましたが単純に金銭面を考えれば相続後3年以内に売却するのが正解だったと思います。
お金、維持する体力、不動産の知識 決断のタイミング。迷いに迷って何度も壁にぶつかりながらたどり着いた実家の賃貸。心を優先した私の選択は私なりの結論です。でも、自分で考え、選び、納得している。それが私の支えになっています。
この経験が、あなたが「これでよかった」と思える選択をするための、一つの材料になれば幸いです。




