【6】サレ妻になんてなりたくない!56歳ルイコ

【最終話】涙の理由を見抜いた男“サレ妻”にならないために

【最終話】涙の理由を見抜いた男“サレ妻”にならないために

公開日:2026年03月15日

【最終話】涙の理由を見抜いた男“サレ妻”にならないために

ルイコ56歳の恋愛ルポ最終話。娘の不穏な現場を目撃し、逃げ込んだバーで出会ったのは、静かに話を聞いてくれる心理学者の男性だった。彼の言葉に導かれるように、ルイコは自分が「不倫された妻」として深く傷ついていた本心に気付いていく。

前回までのあらすじ

前回の話はコチラ。夫の不倫が終わっていないと知り、心が折れかけていたルイコ。さらに、最近様子のおかしい娘を案じていた矢先、入ったレストランで年上の男性と向き合い、涙を浮かべる娘を偶然見かけてしまう。夫の裏切りに続き、娘にまで何が起きているのか――。混乱のまま店を飛び出したルイコは、ひとり見知らぬ街のバーへと吸い込まれていく。そこである男性と出会い、席を並べることに……。

見透かされてしまった…複雑な心の中

kou / PIXTA

「世間話をぽつぽつしていると、その彼が『うちの娘、先日結婚したんです』と静かに話し始めました。『もちろん喜ばしいことなんですが、男親としては複雑な心境です』とも言っていました。

なんだか今の心境をその男性に話したくなって、『私は今、娘が不倫しているらしい現場を見てしまって』と言いました。話しているうちに、せつなくなって涙がこぼれてきちゃって」

彼は何も言わず、ハンカチを差し出した。小さく会釈して、ルイコさんはそのハンカチを使った。

「『あなたの涙は、娘さんの件とは違うことへの涙ではないですか』と彼が言ったんです。どうしてわかったんでしょうね。確かに私にとって、娘の不倫はショックでした。でも、若い女性にはありがちなことだし、娘ならきっと新たな局面を自分で切り開いていくだろうとも思っていました。

娘の向こう側にいた男、それが夫の立場なんだと思うと、胸が痛くなるようなつらさがあった。私は不倫されている妻として傷ついているんだと、それをはっきり認識したんです」

話の流れで、ルイコさんはその男性に夫の件もかいつまんで話してしまった。話しているうちに、自分の言葉でさらに自分を傷つけているような気にもなっていった。

「ただ、彼は本当に親身に耳を傾けてくれた。知らない女がそんな話をしても、愚痴をこぼしているようにしか聞こえないでしょうけど、彼は真摯に聞いてくれた。話し終わったとき、なんだか少しスッキリしました。自分がどうしたいのか、夫を許したいのか、許したくないのか、離婚したいのかしたくないのか。自分の気持ちが少し見えてきたんです」

彼は「解決の糸口が見えてきましたか」と言った。「ちょっとでも気持ちが楽になれたならいいんですが」と。ルイコさんは「占い師か心理学者の方ですか」と軽口を叩いた。すると実際に大学で心理学を教えているという。彼は照れたように「バレバレかあ」と笑った。

「なんだか、それで私もつい笑ってしまって。笑ったのは久しぶりだなと思いました」

週末はそのバーに来ていることが多いと聞き、彼女はその日は引き上げた。

深夜のワイン。娘の告白

kou / PIXTA

帰宅すると、娘が帰ってきていた。泣きはらしたような目をしている。

「大丈夫?」と尋ねると、娘はうんと答えて、「お母さん、少し飲む?」とワイングラスを掲げました。その夜は娘と二人、軽くワインを飲んで。私が何も言わないのに、娘は『彼と別れたんだ』と一言。『そう』と私は答えました。娘もそれ以上、何も言わなかった。

もしかしたら、娘は私があのイタリアンの店にいたのを知っていたのかもしれないなと、あとから思いました。私に心配をかけまいとしたんでしょう。どういう経緯かは知らないけど、娘はやはり自分でしっかり歩いていける人間になった。それは少しうれしかったですね」

「おやすみ」と自室に引き上げていく娘に、「自分をいたわりなさいね」とルイコさんは声をかけた。娘は振り返ると、にこっと笑って「お母さんもね」と言った。娘は、母が夫の不倫に苦しんでいることも把握していたのかもしれない。

バーでの逢瀬。友達以上、恋人未満!?

タカヒロ / PIXTA

ルイコさんはその後も、心理学者とときどき会っている。夫の不倫の話は、あれ以来していない。むしろ心理学の話を聞いたり、映画や美術の話で盛り上がっている。

「彼と会うのは、いつもあのバーです。バーで会って話すだけ。食事を共にしたこともないし、バーを一緒に出てどこかへ行ったこともない。彼に会うのは楽しいし、心のどこかで彼を慕っていますけど、恋愛にはならないと思う。彼はおそらく、それは避けたいと感じている。私は自分がどうしたいのかわかりません。でも、誘われて不倫関係に落ちるのは、夫と同じくらいゲスな行動だと思うんですよね。夫と同じ場所に下りたくないという気持ちが強いんです」

ただ、彼とこれ以上距離が縮まらないのは、「私が女として魅力的ではないからか」「年齢のせいか」と考えてしまうこともある。

「女は外見じゃない」と言っていた夫が、結局は若い女性を選んでいると考えると、なんだかんだ言っても外見を重視しているのだろうと思わざるを得なかった。

「しかもシングルマザーとして、おそらく健気にがんばっている自分を見せているんでしょう。大変だけどがんばっている私って。そこにグッときちゃうような単純な男だったわけですよね、うちの夫は」

“サレ妻”という言葉を見るたび、心がざわつくけれど

夫をけなせばけなすほど、その夫と離婚できない自分がみじめにもなってくると、彼女は自嘲気味に言った。共働きを続けてきたが、財産と言えるほどのものはない。夫からお金を巻き上げればすっきりするとも思えないが、夫が彼女にどのくらいお金を使っているのかは気になる。

「ネットなどで“サレ妻”という言葉を見るたび、心がざわつきます。でも私は“被害者”になりたくない。そんなレッテルは貼りたくないし、貼られたくもない。かわいそうな私という沼にずぶずぶはまれたら、もっとラクになれるのかもしれませんけど」

自立してがんばってきた自分の過去と現在を、自ら否定したくない。人生、半世紀以上生きてきたのだから、その自尊心だけは捨ててはいけないと考えている――そう語るルイコさんは、憂いを秘めたまなざしを見せた。

亀山早苗
亀山早苗

東京生まれ。明治大学卒業後、フリーランスのライターとして雑誌記事、書籍の執筆を手がける。おもな著書に『不倫の恋で苦しむ男たち』『復活不倫』『人はなぜ不倫をするのか』など。最新刊は小説『人生の秋に恋に落ちたら』。歌舞伎や落語が大好き、くまモンの熱烈ファンでもある。

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