「種種雑多な世界」水木うららさん
2024.11.302020年11月30日
通信制 山本ふみこさんのエッセー講座第2回
エッセー作品「雨雲レーダー」中村富子さん
随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクの通信制エッセー講座第1期。参加者の作品から山本さんが選んだエッセーをご紹介します。今回募集した作品のテーマは「雲」です。中村富子さんの作品「雨雲レーダー」と山本ふみこさんの講評です。
雨雲レーダー
昭和30年代の話である。
私は小学校の低学年。その年の夏、泳げるようになりたいと、水泳教室に通い始めた。市電に乗って約30分、いやその前に、市電の駅までは家から徒歩15分位かかるのだった。
初めての進級試験の日。
雲行きが悪く雨が降りそうだった。しかも大雨になるようだ。母が行くのを反対した。1人で通っていたこともあるが、教室といってもそこは、当時屋外で、しかも1番下のクラスは、疏水から引いた水の中で練習するのである。足元は板張りでぬるぬるしていた。はっきりとは覚えていないが、私は母の反対を押し切って行き進級し、傘を持っていたものの、雨でびしょびしょに濡れて帰って来た、と記憶している。
あれから60年近くが経とうとしている。
今年の梅雨は期間が長いうえに、降水量も多かった。洪水が多かった。それも何十年ぶりという大洪水だ。(被災地の方々にはお見舞い申し上げます。そして、1日も早く復旧されることを、祈念致します。)
又コロナ自粛の中、外へ出て気分転換もしないといけないし、健康のため歩かないといけないから、この大雨の中、いつ歩くか考えていた。ほら、私は子どもの時分から大雨がくるとわかっていながら、母の反対を押しきって歩きだすような性分でもあるのだから。
さてそこで登場するのが雨雲レーダーである。
大人になった私は、毎朝自宅周辺のレーダーの予測をスマホで見て、何時何分頃ウオーキングに出るか決めるのだ。それに合わせて午前又は午後の予定が決定する。大雨の日でも3~40分の小雨を狙っていた。そしてそれが当たるのが楽しかった。又この文明の機器を使えるのも嬉しかったし、有難かった。
しかしながら、そんな都合の良いことが長く続くわけがない。
さあ今だ!と出かけようとすると、玄関のピンポーン!が鳴る。電話のリリーン!が鳴る。
そして、レーダーの予測が正確なだけに、私の予定はいみじくも崩れ去るのである。
そうこうしているうちに、梅雨が去り、猛烈に熱い夏がやって来た。
今度はこのレーダーをどう利用しよう……。
註1 市電
京都市内の路面電車、昭和53年に全廃された。
註2 疏水
琵琶湖から京都市内に引かれた水路
山本ふみこさんからひとこと
わくわくしながら、それでいてしみじみ読ませていただきました。途中の(被災地の方方にはお見舞い申し上げます……)のくだりも、とてもいいなあ、と思いました。
通信制 山本ふみこさんのエッセー講座とは
全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は毎月1回出されるテーマについて書き、講師で随筆家の山本ふみこさんから添削やアドバイスを受けられます。講座の受講期間は半年間。
次回の参加者の募集は、2020年12月10日(木)に雑誌「ハルメク」の誌上とハルメク旅と講座サイトで開始予定。募集開始のご案内は、ハルメクWEBメールマガジンでもお送りします。ご登録は、こちらから。
青木奈緖さんと山本ふみこさんの対談イベントの参加者募集中!
山本ふみこさんと、明治の文豪・幸田露伴から続く作家の家で育ったエッセイストの青木奈緖さん。ハルメクのエッセー講座の講師を務めるお二人が書くことの魅力を語る対談を12月6日(日)にオンラインで開催します。
二人が書くことをおすすめする理由や、作家が自らの書き方について話し合う珍しいトークもあります。自分でも書きたいと思っているけれど、きっかけがなかった方も必見。詳しくはこちらをご覧ください。
■エッセー作品一覧■
- 山本ふみこさんが選んだ5つのエッセー第2回
- エッセー作品「雨雲レーダー」中村富子さん
- エッセー作品「黒い雲」仁科あかねさん
- エッセー作品「白く光るもの」丹羽由実さん
- エッセー作品「雲、雲、雲」原田彰子さん
- エッセー作品「逃げ足」三澤千惠子さん