「種種雑多な世界」水木うららさん
2024.11.302020年11月16日
通信制 青木奈緖さんのエッセー講座第1回#4
エッセー作品「祖父、音吉の生涯(1)」浜三那子さん
「家族」をテーマにしたエッセーの書き方を、エッセイストの青木奈緖さんに教わるハルメクの通信制エッセー講座。参加者の作品から青木さんが選んだエッセーをご紹介します。浜三那子さんの作品「祖父、音吉の生涯(1)」と青木奈緖さんの講評です。
祖父、音吉の生涯(1)
私の祖父音吉は明治19年に佐渡ヶ島で生れた。佐渡は中央に広がる国仲平野を境に北側を大佐渡、南側が小佐渡と呼ばれている。
小佐渡の小木町からさらに突端の沢崎という小さな部落で、音吉の家は代々長の立場だったという。入江を囲んで数十軒の家は漁業が中心だった。
音吉が4歳のとき漁場を荒らす大きな生き物が沖に現れ、村人は困り果てていた。イルカの類だろうか。ある日村人総出で入江に追い込んで、村の長である音吉の父親が刀で切り殺したそうな。
数ヶ月後音吉の父親と祖父が急に亡くなった。
村には祟りだと噂が広がった。音吉の母親は若くして4歳と1歳の子供を抱えて途方に暮れた。母親は籍を抜いて知人を頼って大佐渡の二見という村へ行って、そこで再婚した。1歳の女の子だけ連れて、音吉は養子に出された。
6歳になって尋常小学校に入学した。教科書は年長者から譲り受けたもので、暇さえあれば最後まで読んだという。一学期が終り二学期が始まったら飛級をして二年生に編入し、三年生の二学期もまた四年生に編入したと自慢話を聞いたことを思い出す。
小学校を卒業すると、半人前ながら漁に出る船に乗って働いた。15歳を過ぎたら一人前として大人に混じって北海道へ渡り、あちこちの漁場で働いたとか。
明治40年のころ、音吉は二十歳で北海道の日本海側のある港で、網元の家に住み込みで働いていた。
近所に海産物を扱う大店があって、ネズミ対策として一匹の牡猫が飼われていた。
そして年に何回か子猫が産れた。店の主は
『子猫は目が開かないうちは殺しても罪にはならない』
という風習にならって、子猫を店の使用人に命令して川に捨てさせていた。
すると突然、主人が病に倒れた。その家の猫は主人の枕元にいつも座っているので、まわりの人は主人思いの猫だと言っていた。病状は日増しに悪くなっていった。そんな時女房が元気づけようと、歩き始めたばかりの娘と見舞った。すると主人は突然幼いわが子の首をしめ、
「子猫がいる。殺してしまえ‼」
と叫んだ。大騒ぎになった。
やっと主人は我に返って、自分のしたことを悔やんだが遅かった。気がついたら今までピタリと側に居た親猫が姿を消していた。
親猫は自分の子供をいつも、いつも殺された辛い思いを、主人に思い知らせた。音吉は こういう体験をしたせいか、頑固な中にも生きものに対してやさしさを持つようになった。
正月の11日に毎年、小豆粥を炊いて『イカの目』と言って、捕った魚の供養を神主さ んを呼んで行っていた。
「漁師の立場として当たり前」
と言って、生きものの命を大切にしていたことを思い出す。
青木奈緖さんからひとこと
とても完成度が高く、お祖父様からお聞きになったことを再構築して小説のようにお書きになっています。エッセーは許容範囲の広いもので、「こんな書き方もあります」という好例です。ゾクゾクするような筆致ですね。
ハルメクの通信制エッセー講座とは?
全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は毎月1回家族の思い出をエッセーに書き、講師で随筆家の青木奈緖さんから添削やアドバイスを受けます。書いていて疑問に思ったことやお便りを作品と一緒に送り、選ばれると、青木さんが動画で回答してくれるという仕掛け。第1期が2020年9月にスタート。講座の受講期間は半年間。
次回の参加者の募集は、2021年1月12日(火)に雑誌「ハルメク」の誌上とハルメク旅と講座サイトで開始予定。募集開始のご案内は、ハルメクWEBメールマガジンでもお送りします。ご登録は、こちらから。
青木奈緖さんと山本ふみこさんの対談イベントの参加者募集中!
青木奈緖さんと、随筆家の山本ふみこさん。ハルメクのエッセー講座の講師を務めるお二人が書くことの魅力を語る対談を12月6日(日)にオンラインで開催します。 二人が書くことをおすすめする理由や、作家が自らの書き方について話し合う珍しいトークもあります。自分でも書きたいと思っているけれど、きっかけがなかった方も必見。詳しくはこちらをご覧ください。
■エッセー作品一覧■
- 青木奈緖さんが選んだ5つのエッセー第1回
- エッセー作品「日にち薬の十年」國田千以子さん
- エッセー作品「ワイパー」澤井励子さん
- エッセー作品「ばぁばの出番」原良子さん
- エッセー作品「祖父、音吉の生涯(1)」浜三那子さん
- エッセー作品「丑じいちゃんとクルミの思い出」山本美喜子さん