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- 「丑じいちゃんとクルミの思い出」山本美喜子さん
「家族」をテーマにしたエッセーの書き方を、エッセイストの青木奈緖さんに教わるハルメクの通信制エッセー講座。参加者の作品から青木さんが選んだエッセーをご紹介します。山本美喜子さんの作品「丑じいちゃんとクルミの思い出」と青木奈緖さんの講評です。
「丑じいちゃんとクルミの思い出」
思い出の中の丑じいちゃんは、丸い背中なのに長身の大男だった。笑顔の穏やかな静かな人だ。「丑年生まれだから丑治って名前だ」と教えてくれた。
冬休みになると我が家に必ず丑じいちゃんからクルミが大量に届いた。毎年母はお正月のお餅に飽きたころを見計らって、クルミ餅を作ってくれた。「丑じいちゃんのクルミ餅」と私たちは呼んでいた。
丑じいちゃんには9人の娘と1人の息子がいた。この10人の家庭に毎年クルミを送っていたのだ。私が小学校高学年になった頃、丑じいちゃんのクルミの包みが大きくなった。殻がついたままのクルミに変わったのだ。母は静かに遠くを見ながら「クルミの殻を割るのも大変になってきたのだろうね。年だから」「これから殻を割るのは、姉ちゃんの仕事だね」と私に向かって言った。クルミの殻割りを担当したのは、1、2年で、クルミは私が中学になって届かなくなったと記憶している。丑じいちゃんに山歩きができなくなったのだろう。
それでも母は、お正月を迎えるたびにスーパーで輸入クルミを見つけては「丑治はただいま渡米中」と笑って、カリフォルニアの輸入クルミで餅を作ってくれた。そして、ひと口食べると「やっぱり丑じいちゃんのクルミにはかなわないねえ」と笑顔が寂しそうに変わった。
丑じいちゃんが亡くなったのは私が大学生になった2年目の晩夏だった。丑じいちゃんの葬儀には孫も全員集合した。中には丑じいちゃんのひ孫もいた。
祭壇には丑じいちゃんのいつものまじめな顔の写真が飾られていた。孫一同で祭壇の前で写真を撮った。大きな祭壇なのに写真に全員収めるのが大変なくらいの人数なのだ。祭壇がなければ葬儀の写真とはとても思えないほどの笑顔いっぱいの集合写真となった。みんなの笑顔には理由があった。撮影直前まで「丑じいちゃんのクルミをどう味わったか?」の話に花が咲いたからだ。
丑じいちゃんのクルミは、娘たちの家庭ごとに様々に料理されて「各家庭ごとのおふくろの味」となっていた。煎りクルミ、クルミようかん、クルミ豆腐、クルミ餅、クルミトースト。中には「出来上がったクルミあんをつまみ食いで食べ尽くしてしまいこっぴどく母親に叱られた」という強者の話まで。
「丑じいちゃんのクルミ」の話題は孫だけではなく、娘や息子の奥さんまでが多くの思い出話を語った。すべて丑じいちゃんの愛情あふれるエピソードだった。
北海道開拓民として入植した丑じいちゃんのクルミの味は、今愛知に嫁いだ私にはクルミ餅として受け継がれている。もちろん「丑じいちゃんのクルミの味」としてである。
青木奈緖さんからひとこと
ご家族、ご親戚のにぎやかなご様子が心に浮かぶようです。
一族の皆様が「丑じいちゃん」を大好きだったことが、「大好きでした」と直接書かずに作品全体の雰囲気から表現できています。とてもエッセーらしいエッセーです。クルミの記述がとってもおいしそう!です。
ハルメクの通信制エッセー講座とは?
全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は毎月1回家族の思い出をエッセーに書き、講師で随筆家の青木奈緖さんから添削やアドバイスを受けます。書いていて疑問に思ったことやお便りを作品と一緒に送り、選ばれると、青木さんが動画で回答してくれるという仕掛け。第1期が2020年9月にスタート。講座の受講期間は半年間。
次回の参加者の募集は、2021年1月12日(火)に雑誌「ハルメク」の誌上とハルメク旅と講座サイトで開始予定。募集開始のご案内は、ハルメクWEBメールマガジンでもお送りします。ご登録は、こちらから。
青木奈緖さんと山本ふみこさんの対談イベントの参加者募集中!
青木奈緖さんと、随筆家の山本ふみこさん。ハルメクのエッセー講座の講師を務めるお二人が書くことの魅力を語る対談を12月6日(日)にオンラインで開催します。 二人が書くことをおすすめする理由や、作家が自らの書き方について話し合う珍しいトークもあります。自分でも書きたいと思っているけれど、きっかけがなかった方も必見。詳しくはこちらをご覧ください。
■エッセー作品一覧■
- 青木奈緖さんが選んだ5つのエッセー第1回
- エッセー作品「日にち薬の十年」國田千以子さん
- エッセー作品「ワイパー」澤井励子さん
- エッセー作品「ばぁばの出番」原良子さん
- エッセー作品「祖父、音吉の生涯(1)」浜三那子さん
- エッセー作品「丑じいちゃんとクルミの思い出」山本美喜子さん
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