お茶文化を次の世代に残すために

お茶作りの新たな取り組み!建設業界から異業種参入も

公開日:2021.08.30

お茶の消費量が増加する一方で、就農人口・茶園面積は減少傾向にあります。今回は、そんな茶農家の現状と支援のための取り組みをご紹介します。9月の「SDGs週間」を前に、お茶文化を次の世代に残すために、今、私たちにできることを考えてみませんか?

高齢化を背景に茶農家が減少!耕作放棄地の活用がカギ

現在、日本では緑茶飲料の市場拡大により茶葉の需要が増えています。しかし一方で、茶業の現場では、生産者の高齢化や後継者不足により茶農家が減り続けているという現状があります。

茶園面積の減少(出典:農林水産省「お茶をめぐる情勢)
提供:伊藤園​​​​​

地域によっては耕作放棄地の増加も深刻な問題となっています。

耕作放棄地とは、「以前耕作していた土地で、過去1年以上作物を作付け(栽培)せず、この数年の間に再び作付け(栽培)する意思のない土地」のこと。

耕作放棄地のまま長い間放置していると、農地に戻すことが難しくなる他、近隣の環境に影響を与える恐れもあります。

耕作放棄地面積の拡大(出典:農林水産省「農林業センサス」)
提供:伊藤園

そこで、お茶のリーディングカンパニー・伊藤園では、茶産地育成事業の取り組みの一つとして、耕作放棄地に新たに茶園を造成する「新産地事業」を実施しているそう。

新産地事業は、茶園の造成と茶葉の生産を地元の市町村や事業者が主体となって行い、伊藤園が茶葉の育成についての技術・ノウハウを全面的に提供するとともに、生産された茶葉はすべて買い取る、という仕組みです。

新産地事業

耕作放棄地の再生や地域の雇用創出につながると同時に、伊藤園が技術情報を提供してお茶の生産をサポートすることで、異業種からも参入しやすい、将来を担う若手の農家を育成できる、というメリットもあります。

今回は、実際に建設業から茶業へ参入した大分県の株式会社碑成園(ひなりえん。以下、碑成園)、代表取締役社長・遠嶋ひとみさんに、お茶作りの新たな取り組みについてお話を伺いました。

建設業者など異業種の参入で進む耕作放棄地の再生

耕作放棄地の再生:ぶどう園から茶畑へ

碑成園が茶畑を造成している場所は、元はぶどう園だった耕作放棄地です。

大分県では1965年から国の事業として広大なぶどう園が造成されていましたが、生産者の高齢化や後継者不足により耕作放棄地が拡大。有害鳥獣の温床になるなど、深刻な問題となっていました。

そんな折、伊藤園が「お〜いお茶」の原料茶の品質向上と安定調達を目指し、耕作放棄地に新しい茶園を造成する「新産地事業」のための生産者を募っていることを知り、茶業へ参入することを決意したそうです。

「もともと建設業を営んでいましたが、公共工事が減っていく中で、もう一つ経営の柱が欲しいと考えていました。建設業は春から夏にかけて仕事が少ないのですが、茶業の繁忙期は春から夏。これなら人材の有効活用につながると考え、茶業への参入を決めました」(碑成園・遠嶋さん)

建設業で培ってきた技術やノウハウを生かして、大型重機で茶園を効率的に整備。2008年から造成を始め、2012年に最初の摘採にこぎつけることができました。

茶業の技術・ノウハウは周囲のサポートも助けに

「最初は全員農業未経験だったため、県の指導員の方や伊藤園の農業技術部の方、周りの茶農家の方々にもアドバイスをいただきながら、お茶の木に向き合ってきました。今も社員はお茶の勉強を続けています」

お茶の生産で特に難しいのは、天候との付き合い方なのだそう。

「お茶は特に春先の霜の害が心配な作物で、その他にもいろいろと天候に左右される部分が大きい農作物です。その中でも、お茶の成分、品質を保ち、おいしいお茶に育てたいと思い、そのための日々のチェックは怠りません」と遠嶋さん。

「摘採時期の判断も大変難しいです。早すぎても、香りや味わいがのってきませんし、遅すぎても葉が固くなってしまったり、渋みが増しすぎたりします。常にその生育状況を把握し、摘み時を見極めていくことに苦労しました」

地域活性化や若手育成、日本の伝統文化を発信する喜びも

こうした苦労が実を結び、今ではお茶を生産するだけではなく、地域活性化につながる事業に成長したそう。

「お茶づくりを通して、地域の若者を一人でも多く雇用したり、地域の活性化に貢献したり、この地域に恩返しができればいいと考えています。うれしいことに、今年も就農希望の若者を迎えることができました」

碑成園では、今後さらに茶畑を造園予定だと言います。

「現在30ヘクタールの茶園を運営していますが、さらに今後、20ヘクタールを植栽する計画です。合計で50ヘクタール規模の茶畑となります」

碑成園:50ヘクタール規模の茶畑に拡大予定

その広さは、なんと東京ドーム18個分! 順調に事業が拡大していることはもちろん、自分たちが生産した茶葉が、日本や世界で多くの人に飲んでもらえていることに、遠嶋さんは大きな喜びを感じているそうです。

「私たちの大切に育てたお茶が『お~いお茶』となって全国で飲まれていることは、誇りに思いますし、大きな責任も感じています。また日本の伝統文化である緑茶を『お~いお茶』を通して世界に発信している喜びも感じています」

お茶を飲んで茶農家さんを応援!SDGsにもつながる

お茶を飲んで茶農家さんを応援!SDGsにも

このように茶農家や行政と伊藤園などの企業が協力する茶産地育成事業を通じて、持続可能な農業が推進されています。こうした活動は一般的に「SDGs」(持続可能な開発目標)と呼ばれ、今、世界的に取り組まれている課題の一つです。

SDGsは、行政や企業の取り組みとともに、私たち消費者、一人一人の取り組みが大切になってきます。例えば「プラスチックごみを減らすためにレジ袋を使用しない」なども、SDGsにつながる活動の一つです。

今回ご紹介した茶農家減少の問題についても、私たちが茶葉や緑茶飲料を定期的に購入することで応援できます。後世に日本のお茶文化を残していくためにも、お茶を飲むことで茶農家さんを応援していきましょう!

お話を伺ったのは:株式会社碑成園 代表取締役社長・遠嶋ひとみさん

「地域に貢献できることはないか」という想いから耕作放棄地対策として、株式会社碑成園(ひなりえん)を設立し、「新産地事業」を展開。自然豊かな安心院のJGAP認証農場で安全・安心なお茶を作っている。

■もっと知りたい■

取材協力:伊藤園

お茶活クラブ

お茶活とは、日常生活においてお茶を楽しむ活動のこと。毎日抹茶や緑茶を飲むことで、テアニンや茶カテキンなど、お茶に含まれている健康・美容にいい成分を効果的に取り込むことができます。お茶に関する知識やお茶を使った料理レシピをチェックして、あなたも「お茶活」習慣を始めてみませんか?

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