ハルメク編集部が選ぶ大人の女性におすすめの書籍情報

【書評】岸 惠子著『岸惠子自伝』他3冊 

公開日:2021.07.30

更新日:2021.07.30

雑誌「ハルメク」の編集部員がおすすめする新刊情報を毎月お届けします。今月は、女優・岸惠子さんの戦争体験、国際結婚・出産・離婚、作家としての挑戦など、88年にわたる波乱に富んだ人生の中で手にした、自由や孤独を綴った本など3冊をご紹介します。

岸 惠子著書『岸惠子自伝』

岸 惠子著書『岸惠子自伝』
岩波書店刊 2200円

この本は、タイトル通り女優・岸惠子(きしけいこ)さんが88年にわたる人生を記した自伝です。岸さんの最も遠い記憶の一つは、3歳のときに起きた二・二六事件。どこか不穏な少女時代の回想から始まり、戦争体験、女優デビュー、医師で映画監督のイヴ・シャンピ氏との結婚、出産、離婚、そして国際ジャーナリスト、作家としての挑戦など波乱に富んだ人生が丹念に綴られています。

「卵を割らなければ、オムレツは食べられない」と副題にあるように、何度も何度も殻を破って手にした自由と孤独。ずっしりとした本でありながら一気に読ませるのは、圧倒的な筆力ゆえ。読後は、長編映画を見たような満ち足りた気分と高揚感を味わえます。

萩尾望都著書『一度きりの大泉の話』

萩尾望都著書『一度きりの大泉の話』
河出書房新社刊 1980円

漫画家・萩尾望都(はぎおもと)さんが、若き頃、当時活躍していた少女漫画家たちと切磋琢磨した東京・大泉での出来事を、これを最初で最後に、という思いで書き下ろした一冊です。

萩尾さんの『ポーの一族』や『トーマの心臓』といった作品を読んだことがある方は、その背後にどれほどの葛藤があったのか、生々しい人間どうしのぶつかり合いがあったかを知って戦慄するでしょう。

両親との不和もオブラートに包まず描かれます。と同時に、華やかな少女漫画家と名作のタイトルがこれでもか、と登場することにわくわくもするでしょう。この本を読むのには勇気がいるかもしれません。が、時間を忘れて読めることは間違いありません。

朝倉かすみ著書『 にぎやかな落日』

朝倉かすみ著書『 にぎやかな落日』
光文社刊 1760円

主人公は北海道でひとり暮らしをするおもちさん、83歳。夫は3年の自宅介護の後、特養へ。東京に暮らす娘は日に2度電話をくれ、普段は近居の息子のお嫁さんがサポートしてくれる。次第に持病が悪化し、ひとりでは暮らせなくなり介護付きマンションに引っ越すことに。本書は、そんなおもちさんの人生最晩年の物語です。

スプーンのビニール袋がうまく開けられなかったりと、毎日「ちょっとがんばる」ことが増えてくる、というシーンで母が重なりました。大らかで愛らしいおもちさんの心の内で揺れ動く不安や淋しさ、後悔、ちょっとの幸せ。そんな心情をのぞき見していたら、思わず母に電話したくなりました。


※この記事は2021年8月号「ハルメク」に掲載された内容を再編集しています。

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