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- エッセー作品「走る少女」三澤モナさん
随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクの通信制エッセー講座。参加者の作品から山本さんが選んだエッセーをご紹介します。今月のテーマは「昨日」です。三澤モナさんの作品「走る少女」と山本さんの講評です。
走る少女
朝、ひとりの少女が学校に向かって、ではなく、家に向かってひた走る光景が、ときどき胸のなかに浮かぶ。
小学校高学年のその少女は、今は70代になった私である。
「モナちゃん」
と近所の友達に名を呼ばれて家を出、林や畑、お墓、炭焼き工場のそばを、おしゃべりしながら登校する。
「おはよう」
教室に着くなりなぜか胸さわぎ。みんなの様子を見て、はたと気づくのだ。
「忘れた!」
習字道具や雑巾。忘れるのはいつも、教科書以外のそんなものだった。
登校してきた道を私は逆方向に走り、家に向かう。こんなことが、しょっちゅうあったのだ。
学校から家への道は、果てしなく遠く感じたが、大人になって歩いてみたら、とても近いことに驚いた。
それでも子どもの足で、片道10分ぐらいは走ったのではないだろうか。
難関はこれだけではない。
もうすぐ家に着くというころ、小学校へ出勤する先生たちの集団に、正面から出会ってしまうことだ。
先生たちは近隣の市町村から、私たちの小学校のある小さい町まで、バスに30分程も乗ってやってくる。
本数が少ないから、みな同じバスに乗っている。そして私の家の近くのバス停で降り、徒(かち)で学校へ。
5、6人の先生たちが、いつも仲良く笑いながら歩く姿があった。
「あっ、忘れ物をしたことがばれてしまう」 と思っても、時すでに遅し。
「こら、モナ。また忘れたのか?なんで、昨日のうちにちゃんと準備しておかない?」
と、担任ではない男の先生が言う。
私は照れ笑いをして下を向いて走り過ぎる。背中に先生たちの笑い声が聞こえる。
「しっかりしているようで、ぬけているなあ」
私は、5月生まれで、体がみんなより大きかった。
背の順に並ぶと一番後ろ。
ちょっぴりお姉さんぽかったらしく、頼りにもされていた。
性格はのんびりしているとよく言われたが、どこか抜けていたのだろう。
あまりに毎度のことだし、なんとか間に合ったので、先生もあきれていたのか、きつく叱られることはなかった。
それにしても、小学校高学年にもなって、なぜあんなに忘れ物が多かったのだろう。なぜ対策を考えなかったのだろう。不思議だ。
山本ふみこさんからひとこと
作家「三澤モナ」とは、もうおつきあいが長くなりましたから、驚きました。
かつてのモナちゃんが、たびたび忘れものをしていたなんて、信じられません。
ご本人も、「なぜあんなに忘れ物が多かったのだろう。なぜ対策を考えなかったのだろう。不思議だ」とふり返っていて、愉快です。
そしてこの結びにも注目してください。
この結び方、じつに潔くて素敵ではありませんか。

通信制 山本ふみこさんのエッセー講座とは
全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は毎月1回出されるテーマについて書き、講師で随筆家の山本ふみこさんから添削やアドバイスを受けられます。講座の受講期間は半年間。
募集については、今後 雑誌「ハルメク」誌上とハルメク365イベント予約サイトのページでご案内予定です。
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