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- エッセー作品「短気な父の思いやり」橋本ひろみさん
「家族」をテーマにしたエッセーの書き方を、エッセイストの青木奈緖さんに教わるハルメクの通信制エッセー講座。参加者の作品から青木さんが選んだエッセーをご紹介します。橋本ひろみさんの作品「短気な父の思いやり」と青木さんの講評です。
短気な父の思いやり
昭和30年代の大掃除と言えば一家総出でしたものだ。
我が家も御多分に漏れずやっていた。
その中でいつも最初に思い出すのは父の恰好である。
カーキ色の変な形のゴワゴワのズボン。
毎年の事なので子供の頃は見慣れて気にも留めなかったが、ある年掃除の途中で父と買い物に行ったとき、やたら皆が父を見る。
家に帰り祖母にその事を話すと、それは軍隊ズボンをまだ履いているからだというのである。
何で? どこで買ったの、どうしていつまでも履いているの。
その訳を祖母は初めて教えてくれた。
戦争末期、6人兄弟の長男だった父は家族の為、血判書まで書いて少年兵に志願した。
いよいよ出征のお別れだというので祖母は末の叔父をおんぶして小田原から海軍兵学校のあった広島へ会いに行ったそうだ。
その時、隊長さんが宿をとって下さり親子で一晩過ごすことができたと泣いて教えてくれた。
江田島から戦艦に乗り、人間魚雷として沖縄に向かったが途中で終戦となり帰還。
原爆にも遭わず無事だった。
父は子供たちには若い頃の話はしてくれたことはないので、父にこんな青春時代があったとは想像できなかった。
また、死にゆく息子を見送った祖母の心情を思うと今でも泣けてくる。
父は短気で神経質な人だったので、何かにつけ長女の私は怒られた。余計な事は聞くことも怖いのでしたことがなかった。
なにせ妹が悪さをしてもお前の監督が悪いとぶたれ、野球で巨人が負ければ怒られ、そのビンタの痛いことといったら。
算数の宿題が出来ないとインクの瓶を振り上げて叩かれ泣きながら勉強した事は今でも忘れられない。
でも、父の戦後の人生の厳しさを思えば、短気もしようがないと納得も出来た。
私の結婚式の時、両親に挨拶をしたら、ボロボロ泣いてくれて改めて育ててくれた事を感謝した。
しかし、母には優しい夫であったと思う。
恋愛結婚だし、どうやら父の一目惚れであったようだし。
私が今でも時々思い出す優しい父は、最初の子がお腹にいた時、切迫流産の兆候があった為、実家で静養して、再び1人でアパートに帰ると言ったら荷物を持って駅まで送ってくれたときのことだ。
身体に気を付けて無理をするなと優しく話してくれた。
私は有難くて涙を堪えるのに必死でもごもご言っていたのを思い出す。
お父さん、ありがとうとやっと言って別れたあの日。
父の薫陶のお陰で娘は気の強い女の子になったけれど、母曰く、「やっぱりお父さん似の人と結婚したわね」だそうです。
青木奈緖さんからひとこと
このお父様の厳しさは今の時代に読むと驚きを感じますが、やはり時代の影響が大きいのでしょう。ちょっとおっかないお父様だからこそ、そのやさしさに触れるとなおさらぐっと胸に迫りますね。お父様への感謝の気持ちを持ちながら、最後のまとめ方に工夫が見られます。
ハルメクの通信制エッセー講座とは?
全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は毎月1回家族の思い出をエッセーに書き、講師で随筆家の青木奈緖さんから添削やアドバイスを受けます。講座の受講期間は半年間。
2023年3月からは、第6期がスタートします(受講募集期間は終了しています)。5月からは、青木先生が選んだ作品と解説動画をハルメク365でお楽しみいただけます(毎月25日更新予定)。
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