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- エッセー作品「冬じたく」加地由佳さん
「家族」をテーマにしたエッセーの書き方を、エッセイストの青木奈緖さんに教わるハルメクの通信制エッセー講座。参加者の作品から青木さんが選んだエッセーをご紹介します。加地由佳さんの作品「冬じたく」と青木さんの講評です。
冬じたく
今夏の猛暑日はいつまで続くのかと思いましたが、さすがに秋のお彼岸が過ぎると途端に冷えを感じるようになりました。
急いで夏物衣類から冬物へと入れ替えをせねばなりません。
数か月ぶりにタンスの引き出しを開けて、詰め込んでいたセーターを一枚一枚出しながら、持ち数調べをしました。
通販のカタログが届くと「このセーターいいな」とついつい誘惑に弱く買ってしまいます。計画性がなく年々増やしてしまっている浪費家の自分を、この時ばかりは反省しきりです。
同居をしていた夫の祖母を見送り、もう40年余りの日が過ぎました。
この祖母は毎日編み物をされていました。
姑が次々と新しい毛糸を運んでくるので「いつまで働かせるのか、厳しい娘だ」と言いながら、眼鏡もかけず物差しも使わず長年の経験から、かぎ針を持つ手を動かして、次々とセーターやカーディガンを仕上げていました。
姑を含め4人の娘さんたちは母のぬくもりを感じながら、それらをよく身につけていたのを覚えています。
もう皆さん亡くなり、すでに残された物の片付けも終えていますが、祖母が編んだものを3枚ほど私の手元に残していました。
長い間、触れることもなかった箱を開けてみたら虫もつかず出てきました。
秋色の糸で細かい模様をきれいに編んだカーディガンです。
羽織って鏡を見たら「ワー、よく似合う、気に入ったわ」と思わずひとり言。
祖母の頑張りがよく伝わり懐かしく、流行は繰り返されるのか新鮮に見えます。
是非、これを着て祖母と一緒に散歩をしている気分で植物園へ行こう。
「あなたもそんな余裕ができた年になったのね」と祖母の声が聞こえてきそうです。
すっかり衣類の入れ替えの手が止まり、祖母との思い出が走馬灯のように浮かびました。
衣類の持ち数を減らそうと思いながらも捨てられず、「まあ、いいか。いつかは出番が来るかも?」と出しては戻しての冬支度になりました。
青木奈緖さんからひとこと
何気ない作品です。季節の衣類の入れ替えは誰もがすることで、作中で驚くようなことが起きるわけではありません。実はそれゆえに、こうした穏やかな日常を描くことはむずかしいものです。家族の中に流れてきた歳月が感じられ、それが作品に深みを与えています。著者は第1期からずっと参加してくださっており、積み重ねの上に描かれた「つつがない日常」です。
ハルメクの通信制エッセー講座とは?
全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は毎月1回家族の思い出をエッセーに書き、講師で随筆家の青木奈緖さんから添削やアドバイスを受けます。講座の受講期間は半年間。
2023年3月からは、第6期がスタートします(受講募集期間は終了しています)。5月からは、青木先生が選んだ作品と解説動画をハルメク365でお楽しみいただけます(毎月25日更新予定)。
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