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- エッセー作品「時どき女、時どき男」石川久子さん
随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクの通信制エッセー講座。参加者の作品から山本さんが選んだエッセーをご紹介します。今月の作品のテーマは「一歩」です。石川久子さんの作品「時どき女、時どき男」と山本さんの講評です。
時どき女、時どき男
いつもの旅友(たびとも)とスペインにはじめて行った時の事。
私たちの旅はツアーではなく、主に元CAの彼女が私の意見を聞きながら、旅程を組み立てる。飛行機やホテルの予約はそれぞれパソコンを駆使して同じ日の同じ場所、近くの座席をとる。
ここまでがとても楽しい。出発の約半年前に計画を立てるのだ。案内本を読み、行くところの研究をする。通貨は、交通は、お土産は、美術館は、等等、調べることは山ほどあり、ワクワクが止まらない。
わたしたちの観光は地元の路面電車、地下鉄、バスを使い、とにかく歩く。多い時で、旅のなかで1日に2万歩を数えることも少なくない。
スペインで目的の1つはガウディの建築だ。バルセロナに行き、ガウディ建築の公園「グエル公園」に向かった。
ちょうどお昼に差し掛かったので入場までの時間(チケットは予約済み)にレストランに入った。中庭風の明るいレストランは時間が早いからかすいていた。
注文を取りに来た小柄な女性に軽いものをたのむ。
少し待つと美味しそうな昼食が運ばれてきた。
そうこうしている間にお客さんが入ってきた。その人たちが彼女に注文しようとして聞いた。
「are you girl or boy」
明るい開放的な雰囲気と、聞いている内容にびっくりし、私達は二人で思わず顔を合わせた。
彼女は屈託もなく明るく答えました。
「sometimes girl and sometimes boy」
ショートヘアのきびきびした彼女と、何のこだわりもなく聞く人達に、私たちはカルチャーショックを受けて、しばらくそちらのほうを見ることができなかった。
日本ではありえない質問です。そしてありえない答えです。
スペインへの旅の半年ほど前、会社に1人の新入社員が入ってきた。中途採用なので20代半ば。
きれいなかわいい顔をしている。中肉中背。しかし何か違和感があった。建築現場で働くので、作業服。自分のことを「自分」という。
そう、彼女は、トランスジェンダーだった。女として生まれたが、自認は男。社長はじめ上司は承知の上の就職だった。
男の人と同じように力仕事もこなし、頑張っていた。男として認められるよういろいろやったが、依然として保険証等の名義は女。健康診断も集団では受けず、かかり付け医に行った。
悩み苦しみ、一生懸命生きている彼女を私は応援していた。
そんなこともありスペインでの経験は国が違うと、こんなにもとらえ方がちがうのだと思い知った。
日本でも、オープンに「時どき女、時どき男」と笑って言える世の中になるにはどこかで、「もう一歩」を踏み出さなくては、と思うこの頃だ。
山本ふみこさんからひとこと
この作品には、好きなところがふたつあります。ひとつは、旅に出かける前の計画の段のワクワク感。もうひとつは、結びのこれ。
「日本でも、オープンに『時どき女、時どき男』と笑って言える世の中になるにはどこかで、「もう一歩」を踏み出さなくては、と思うこの頃だ。」
よくぞ書いてくださいました。共感の乾杯!
(そうそう、わたしは皆さんの作品と乾杯したり、ハグしたり、泣いたり笑ったりしています)。
通信制 山本ふみこさんのエッセー講座とは
全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は毎月1回出されるテーマについて書き、講師で随筆家の山本ふみこさんから添削やアドバイスを受けられます。講座の受講期間は半年間。
現在第5期の講座を開講しています(第6期までの募集は終了しました)。次回第7期の参加者の募集は、2023年6月を予定しています。詳しくは雑誌「ハルメク」2023年7月号の誌上とハルメク365イベント予約サイト(6月更新予定)のページをご覧ください。
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