山本ふみこさんのエッセー講座 第8期第3回

エッセー作品「ゲート」浅井京子さん

公開日:2022.11.22

随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクのエッセー講座。教室コース 第8期の参加者の作品から、山本さんが選んだエッセーをご紹介します。テーマは「一歩」です。浅井京子さんの作品「ゲート」と山本さんの講評です。

山本ふみこさんのエッセー講座 第8期第3回
エッセー作品「ゲート」浅井京子さん

ゲート

永年愛用の眼鏡のツルが緩くなり、ずり落ちるようになった。そろそろ作り替える時期かと思い始めて半年以上、免許証の更新に合わせて、眼鏡店の誕生日割引き期間に作り替えればいいか、と、のんきにかまえている。
こういうのは何事も計画して行動するタイプだと思っていたが、そうでもないのかもしれない。

以前競馬好きの同僚が、話してくれたことを思い出した。
「馬はスタートゲートに入ると走らないといけないことを知っているから、走りたくないときはゲートに入りたがらない。ときどきゲート前で手間取っているときがあるでしょ」
今の私の先延ばしは、疾走前の馬と同じなのではないだろうか?

スタートしたら完了するまで行動が続くことがわかるから、スタートラインに立ちたくない。一歩を踏み出してしまえば大抵のことは、たいしたことではないのに。
これを「億劫」というのだろうか?

「老いるとは億劫との戦いである」とか。
しらず、しらず気づかぬうちに私は老いていたのかと、自分の先行きが心配になってきた。
人生百年時代、世界一の長寿国日本、そして健康寿命も世界第2位(74.8歳)とか……私にはまだ先なのにどうする。

107歳で亡くなった、日本最初の女性報道写真家笹本恒子さんは、100歳の誕生日に「活躍する秘訣」としてこう語っている。
「好奇心を失わないこと。貪欲にものを見よう、聞こう、感じよう、そして美味しいものを食べようということです。」

いくつになっても好奇心を失わないことが如何に大切かは理解できるが、さて自分の日常生活の中でどのように、好奇心を持ち続けていくか?
私ごときと比べるのも失礼だが、先日96歳で亡くなったエリザベス女王は最後まで公務を続けていらしたという。

社会的立場、役割もあるのだろうが、そんな素敵な先輩たちに近づくため、私らしく億劫を克服する方法を考えた。
為さねばならぬことができたら周りの人たちに宣言し、自分をスタートゲートに押し込めることにした。

山本ふみこさんからひとこと

山本ふみこ
山本ふみこ さん

競走馬のゲートを登場させるところが、まずとてもとてもおもしろいですね。

しかし、「ゲート」を思いついても、それをうまく説明して、展開させてゆくのは簡単ではありません。構成がよく練られていると、感心しました。

「為さねばならぬことができたら周りの人たちに宣言し、自分をスタートゲートに押し込めることにした」という結びを読んだとき、「わたしもそうします!」と小さく叫んでいました。ゲートに入って隣りを見たら、作家の「浅井京子」がいて目を合わせる。そんな場面を想像してうれしくなりました。

そうそう、この作品を作家は新幹線の中で書いたそうですよ。皆さんも、いつもとは違う場所、思いがけないシーンの中で書くことを考えてみてはいかがでしょう? 

山本ふみこさんのエッセー講座(教室コース)とは

随筆家の山本ふみこさんにエッセーの書き方を教わる人気の講座です。

参加者は半年間、月に一度、東京の会場に集い、仲間と共に学びます。月1本のペースで書いたエッセーに、山本さんから添削やアドバイスを受けられます。

現在は第8期の講座を開催中(募集は終了しました)。次回の参加者の募集は2022年12月を予定しています。

詳しくは雑誌「ハルメク」2023年1月号の誌上とハルメク365WEBサイトのページをご覧ください。


■エッセー作品一覧■

ハルメク旅と講座

ハルメクならではのオリジナルイベントを企画・運営している部署、文化事業課。スタッフが日々面白いイベント作りのために奔走しています。人気イベント「あなたと歌うコンサート」や「たてもの散歩」など、年に約200本のイベントを開催。皆さんと会ってお話できるのを楽しみにしています♪

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