今月のおすすめエッセー「庭づくり」富山芳子さん
2024.12.312022年10月04日
通信制 山本ふみこさんのエッセー講座第4期第6回
エッセー作品「シャララーン」栞子さん
随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクの通信制エッセー講座。参加者の作品から山本さんが選んだエッセーをご紹介します。 今月の作品のテーマは「天使」です。栞子さんの作品「シャララーン」と山本さんの講評です。
シャララーン
剛毛で、量が多くて、クセがある。
一度でいいからテレビで見るような、つやつやな髪をシャララーンとなびかせてみたい。
密かな、それでいて切実な長年の夢だ。
幼いころの写真は全部こけしちゃんカット。少しでも髪が伸びると、すぐに理容店へ連れていかれる。
美容院ではなく、青と赤のくるくるまわるポールの立った理容店で、おじさんたちと並んで短くカット。
髪が目に入らないように、もう充分短くなった前髪を、母はいつもぱっちんどめで真ん中分けにとめた。
いくら前髪をそろえても、自然とパカーンと真ん中でわかれてしまうのは、元からのクセだけでなく、きっと左右につけてた強力なぱっちんどめのせいだ。
学生時代は運動部。長い髪はプレーの邪魔で思いっ切りのショートカット。
皆とおなじ髪型なのに、頭頂部は剣山のようにとがっていた。
少しづつ髪を伸ばし、重みでクセをごまかそうとも考えた。
下に伸びずに横に広がる髪。見かねた友人が、毎朝あみこみや三つ編みにしてくれた。太すぎる三つ編みは、つな引きのつなのようだった。
髪質改善、強力な縮毛矯正などと聞けば、少しくらい遠い場所でもお金をためては出かけた。
新しい美容院へいくたび、髪のあつかいにくさを説明するのにもだんだん慣れてきた。それでもつやつやな髪は遠かった。
子育てするようになると、自然と髪を伸ばすことが多くなった。
思い通りにならないのは髪だけではないのだ、シャララーンとは違う自分のクセを生かすことを考えなくちゃ。
気づくのにだいぶ時間がかかったけれど。
次男の高校卒業と同時に、母業の卒業準備をしようと思い立った。
うまく子離れできそうもないわたしには儀式が必要だ。
今まで行ったことのないような、おしゃれな美容院探しから始め、十数年のばした髪をばっさりショートにした。
気持ちも頭も軽くなった。
今も同じ美容院に通っている。
「この自然なクセがいいね。」
「頭の形がいいから短いほうがよく似合うよ」と、さりげなく声をかけてくれる。
わたしの気持ちも髪のクセも、いつも上手になだめてくれるのだ。
美容院通いは、ご褒美のような時間だ。
ていねいにシャンプーやカットをしてもらうと、すっきり元気になっている。顔いろも三割増しであかるく見える。
つやつやでもないし、シャララーンもできないけれど、今の髪型は今までで一番のお気に入りだ。
山本ふみこさんからひとこと
こけしちゃんカットにはじまるヘアスタイルの歴史ものがたりです。
ひとつテーマを立てて過去から現在に向かって、さかのぼるのは、誰もが一度は挑んだことのある手法です。なかなか難しいのです。作者にそのつもりはなくても、自慢の花畑を歩かされたり、そうかと思うと自虐の森に誘いこまれたりしがちです。
ところが「シャララーン」は坦々としていて、その世界に寄り添いながら静かに歩けます。
日頃私が決して大げさにならないように……、興奮を抑えて坦々と……とおすすめするスタイルは、そう、この作品に学べると思います。
通信制 山本ふみこさんのエッセー講座とは
全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は毎月1回出されるテーマについて書き、講師で随筆家の山本ふみこさんから添削やアドバイスを受けられます。講座の受講期間は半年間。
現在は第5期の講座を開催中(募集は終了しました)。次回第6期の参加者の募集は、2022年12月を予定しています。詳しくは雑誌「ハルメク」2023年1月号の誌上とハルメク365WEBサイトのページをご覧ください。
■エッセー作品一覧■