「さつまいもの天ぷら」横山利子さん
2024.09.302022年04月28日
山本ふみこさんのエッセー講座 第7期第2回
「ただいま、今日も無事終わりました」小河頼子さん
随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクのエッセー講座。第7期の参加者の作品から、山本さんが選んだエッセーをご紹介します。今回のテーマは「修理」です。小河頼子さんの作品「ただいま、今日も無事終わりました」と山本さんの講評です。
「ただいま、今日も無事終わりました」
毎朝のルーティーンがあります。
先に仕事に出る夫を、どんな日でも「行ってらっしゃい」と玄関まで送り出すことと、私の出勤時間にはお雛様に「行ってきます」と、手を合わせることです。
私の宝物であるそのお雛様は、ガラスケースに入っていて、お内裏様とお姫様をはじめ三人官女や五人囃子など15体ほどが収まっています。今年、私と同じ63歳になりました。
私の初節句には、母方の祖父母から、七段飾りの雛人形が贈られ、父方の祖父母からはこのケース入りのお雛様が贈られたとのことです。
当時の写真を見ると、ふた組のお雛様を前に、嬉しそうに笑う幼き私がいます。
段飾りは、実家の姪っ子に引き継いでもらいました。
ケースのお雛様は片時も離れず、つまり桃の節句の時期だけでなく、ずっと一緒に時を刻んでいます。
高校生の頃、雛人形をすぐに仕舞わないと婚期が遅れると友人に言われました。
しかしお雛様があるのが当たり前の風景だったので気にも留めませんでしたが、20代半ばで縁に恵まれ結婚することとなりました。
3回の転居先にも、同行していつもその部屋の一番いい場所に飾っています。
お雛様のお顔は、艶やかで真白で優しい笑みをたたえています。髪の毛も当時のままきれいに保たれています。すっかり皺と白髪が増えた私だけ齢をとってしまったようです。
しかし、最近は経年により、しつらえてある道具類や衣装の劣化や損傷が見られるようになりました。
毎月一の日は、ケースを開けて拭き掃除をし、小物や道具類を中心に点検をしています。最近では、御所車の車輪が1つ外れてしまい傾いていたり、桃の花びらがほとんど落ちかけていました。
1つ1つをそっと取り出し、できる限りの補修をします。老眼の目には厳しいものがありますが、苦にはなりません。
瞬間接着剤で花びらを1枚1枚くっつけたり、安定が悪くなった道具には、見えない部分に当て板をして形を整えたりしました。
雛人形用の防虫剤と乾燥防止の少量の水の入れ替えをして点検は終わります。
夕方、仕事から帰宅し、まずお雛様に向かって「ただいま、今日も無事終わりました」と報告する時が、ほっとする瞬間です。
山本ふみこさんからひとこと
お雛さまを桃の節句のみならず、通年飾るという選択を、面白く受けとめました。そうして家族の一員のように身近にとらえ、話しかける……。
自分ならでは、という感覚は、創作者にとって必要なものではありますまいか。
山本ふみこさんのエッセー講座(教室コース)とは
随筆家の山本ふみこさんにエッセーの書き方を教わる人気の講座です。
参加者は半年間、月に一度、東京の会場に集い、仲間と共に学びます。月1本のペースで書いたエッセーに、山本さんから添削やアドバイスを受けられます。
次回の参加者の募集は、2022年6月に雑誌「ハルメク」の誌上とハルメク旅と講座サイトで開始します。募集開始のご案内は、ハルメクWEBメールマガジンでもお送りします。ご登録は、こちらから