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- エッセー作品「夢の家」風野りんさん
随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクのエッセー講座。教室コースの参加者の作品から、山本さんが選んだエッセーをご紹介します。第1回の作品のテーマは「なるべく」です。風野りんさんの作品「夢の家」と山本さんの講評です。
夢の家
強い雨が降りやまない早朝、天気とは裏腹にワクワクする思いで目覚めた。
自分の理想のど真ん中といっても良いくらいのアパートを夢の中で訪ねていたからだ。
夢の中の友人が、といっても現実には知らない人なのだが、彼女が住むアパートの部屋の中に印象的な水色があった。
パールブルーとでも呼ぶのだろうか、木製の窓枠や鴨居が優しい青い色をしていた。
パールブルーは私の胸が躍る色だ。実は今暮らしているアパートも鴨居や押し入れがまさにその色で、古い学校のようなノスタルジーな雰囲気は私のお気に入りだ。
今のアパートを探していた時、不動産屋さんは「このアパートは古いですよ、本当に見ますか」とあまり勧めていなかったのだが、玄関を開けた瞬間にパールブルーが見えて、奥をよく見ていないのに「たぶんここです」と伝えたくらい一目ぼれだった。
今のアパートに住み始めた後に旅した聖地で、イエスが若い頃を過ごした地域の学校を訪ねる機会があった。
そこで見たのは同じパールブルーの木製の扉や窓枠の教室だった。
キリスト教を生んだ中東の地、そこに学生時代暮らし、憧れを感じる私は、その時自分のアパートと憧れの地が何か不思議なものでつながった気がしたのを覚えている。
雨の中で私は叫ぶ。
「私のアパートもこの色の木枠なんです!」
夢のアパートは、小さなベランダの柵もパールブルーで統一され、途中までひさしとなって突き出るコンクリート部分は丸いアーチ型をしていた。
起きて冷静に考えるとスペインに残るイスラム形式のようだ。
私が中東を好きなのは文明の十字路だからであり、それを象徴するかのように私の好みが現れた夢はすっかり私をご機嫌にさせた。
それにしても間取りが描けるくらいリアルな夢だった。
素朴で古いけれども感じの良いアパートは、明るい白床のキッチン込みでおそらく2DK。こうなったら間取りを描き残しておこうか。
ちなみに京都生まれの私には日本文化もとても落ち着き、畳の部屋も大好きだ。夢の中では開けなかったもう1部屋が畳だったらいいなとも思った。
この秋に10年住んだパールブルーの木枠のアパートから卒業しようかと思っている。
夢も未来に向かっているのだろうか。それとも心が喜ぶ原点に戻っていっているのだろうか。
なるべくなら心豊かになる家を。新しい家との出会いを楽しみにしてみよう。
雨が降りやまない朝に、聖地で出会ったパールブルーの学校を久々に思い出していた。
山本ふみこさんからひとこと
夢の話を描くのは、難しい……。自分の中に残った記憶をたどるのも、人にわかるように綴るのも、なかなかやっかいなのです。
「夢の家」を読んだ人は誰も、優しい青色をイメージし、そうか、それ、パールブルーというのね、と思い……、作品世界を旅することになります。
夢の話。いま住む家の話。旅の話。そのつながりも自然で、お見事。
新しい家との出合いも、また読みたい、と思うのでした。
山本ふみこさんのエッセー講座(教室コース)とは
随筆家の山本ふみこさんにエッセーの書き方を教わる人気の講座です。参加者は半年間、月に一度東京の会場に集い、仲間と共に学びます。月1本のペースで書いたエッセーに、山本さんから添削やアドバイスを受けられます。
現在第6期の講座を開講中です。次回第7期の参加者の募集は、2021年12月に雑誌「ハルメク」の誌上とハルメク旅と講座サイトで開始予定。募集開始のご案内は、ハルメクWEBメールマガジンでもお送りします。ご登録は、こちらから。
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