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秋田市在住の児童書ノンフィクション作家・池田まき子さんが、グレイヘアをテーマにつづる人気連載。50代を境に悩む人も多いメイクのアップデート。池田さんはどう乗り越えたのでしょうか。
化粧品選びに悩んだ50代
「今日は肌の調子がいいし、うまく化粧できた!」
こんな日は、朝から晴れ晴れとした気持ちになります。化粧をするということは、顔を美しく整えるだけではなく、心にも大きな影響を及ぼすもの。特に、白髪に悩む中年以降の女性にとって、その意味合いは大きいのではないでしょうか。今回は、日々の暮らしを楽しむための「化粧」について、取り上げてみましょう。
「乾燥大陸」と呼ばれるオーストラリアに、30年住んでいました。紫外線は日本の5倍ともいわれ、日焼け・シミ対策は欠かせませんでした。
もともと肌は丈夫で、ニキビもできたことがなく、肌のトラブルとは無縁でした。ところが、10年前、50代になった途端、問題が出始めました。シワやシミが増えたのは当然ですが、敏感肌になり、湿疹やかゆみなどが出るようになったのです。
そんなある日、20代の娘がアドバイスをしてくれました。
「アンチエイジングの化粧品がいろいろあるから、試してみたら?」
「それを使えば、このシワやシミがなくなる? 肌にツヤやハリがもどるの?」
藁(わら)をもつかむ思いの私の期待は膨らむばかり。けれども、デパートで見たブランド品は、想像をはるかに超えた値段で、踏ん切りがつきません。
(いい値段なのだから、それなりの効果はあるはず。それで若返られるのだったら、決して高い買い物ではないんじゃない?)
(ちょっと待って。中身はほぼ同じなのに、豪華な容器にだまされちゃダメよ。化粧品の原価を知っているの?)
甘い誘惑に傾きかける一方で、疑問も次々に……。結局、この日は、「もう一度、ネットで調べてみる」と娘に告げて退散。自分に合った化粧品探しは、それからも、なかなか解決しませんでした。
白髪もシワも愛おしく思えるように
50代前半は、白髪染めについても迷っていた時期。どんどん増える白髪に嫌気がさし、鏡を避けていたほど。自分の老化を突きつけられるたび、ため息をつく日々でした。
そんなとき、娘と一緒のショッピングで、化粧鏡が目にとまりました。裏面が拡大鏡になっているものです。
「うわぁ、シワがくっきり、いっぱい見える。あれ、ホクロもかなり増えたみたい……」
拡大鏡を前にはしゃぐ私を、娘は怪訝(けげん)そうに見ていましたが、そこから長いこと離れられずにいた私に、その拡大鏡をプレゼントしてくれました。
拡大鏡は、仕事部屋のパソコンの横に置くことに。目の前にあるのですから、ふとしたときに、ついつい覗いてしまいます。
自分の顔のすみずみまで観察するのが、妙に面白くなった私。髪の毛をかき分けては白髪の多さにびっくりし、笑顔をつくってみては目元のシワの多さに驚き、しかめっ面をしてみては眉間のシワの深さにあきれ……。これほどまで自分の顔をながめたのは、久しぶりのことでした。
そのうち、不思議な感情が湧いてきました。老化した顔に対する切なさ、やるせなさといったマイナスの気持ちは消え、白髪もシワもシミも、愛おしく感じられてきたのです。
「白髪もシワも、生きてきた年月を刻んだもの。これまでがんばってきた『証』であり、『勲章』といってもいいもの」
そして、何かがふっ切れたように感じました。鏡に映った、ありのままの自分を受け入れようと決めた瞬間でした。
新しい化粧品を試してみたいけれど……
日本に仕事の拠点を移したのが2018年の春。しばらくして、高校の還暦記念同期会が開かれました。当日は、60歳の同期生150人が大集合(女子高だったので、もちろん女性ばかり)。誰もが念入りに化粧をし、おしゃれ着に身を包んでいます。
「グレイヘアの人、何人ぐらいいるかな……あれ?」
私の期待は見事に裏切られました。私のほかに、一人だけだったのです。でも、同じくらい驚いたのが、「昭和」な雰囲気の化粧をしている人が少なくなかったことでした。
「青いアイシャドウ、頬紅の入れ方も昔のまま。私も、そう見られているの?」
化粧品や美容法が進化していることは、みんな百も承知。でも、その種類や数の多さに圧倒され、化粧品売り場で右往左往するのが、私たちの世代。スキンケア一つとっても、「保湿をしっかり」「やりすぎは逆効果」「肌断食がいい」といった情報に振り回され、どれを信じていいのか全くわからなくなっているのです。
同期会の翌日、私はデパートの化粧品売り場に直行しました。
「アイシャドウと口紅を選んでいただけませんか。今風にしたいんです!」
今の時代にフィットした化粧について、素直に尋ねることにしました。普段使っている化粧品も持参し、チェックしてもらうことにしたのです。
「眉毛は地毛。描いたことがないんです」
「形がいいので、そのままで大丈夫ですね。じゃあ、これは何に使っていますか?」
「え〜と、それで、目尻にアイラインを……」
「これ、アイブロウです。眉毛を描くペンシルですよ」
まつ毛が減っていた原因、このとき、ようやくわかりました。硬めのペンシルで、まつ毛がこすられ、抜けていたのです。
美容部員さんにすすめられた口紅の色は、明るめの赤。グレイヘアの場合、ベージュ系の口紅では顔がぼやけがちになり、発色のいい赤であれば肌のくすみを取り、上品で華やかな雰囲気になるとのこと。
また、ベースメイクは、グレイヘアとのバランスを考えた、透明感のある自然な感じの肌づくりや、シミをカバーするコンシーラーの使い方などを教えてもらいました。
化粧品選びに悩んでいる方、同じ化粧を何十年も続けているという方は、一度、プロのアドバイスを受けてはいかがでしょうか。私のような間違いをすることのないように……。
化粧で演出する「ときめく心」
ストレスや不満があると、女性は顔に出てしまいがち。沈んだ表情で過ごしていたら、いいことも遠ざかってしまいそうです。人生の折り返し地点をとうに過ぎた今だからこそ、これからの人生を、もっと自分らしく楽しんでいきたいと思っています。
「化粧」は、そのための手軽な方法。お気に入りの口紅をつけた途端、気分を上げるスイッチが入り、心が弾みます。
普段は、グレイヘアに合わせた、ナチュラルな雰囲気の化粧がほとんどですが、時には、思い切り気取ってゴージャスに、妖しく艶やかな女っぽさを演出してみてもいいのではないでしょうか。いつもと違う赤い口紅を塗ったときのときめきは、女性なら誰もがわかるはず。「美しくありたい」「なりたい自分になる」という気持ちは、きっと、幸せを呼びこむことにつながっていくはずです。
グレイヘアをより際立たせた化粧とおしゃれで、人生の次のステージに向かっていければと思うこの頃。「今」という時間を、そして、「ときめく心」を大切にしながら……。
メイクアップ&撮影=佐々木美郷(VIVANT SKINCARE SALON)
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