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- 大変なことがあっても、私が旅を続ける理由
車いすユーザーとして、ユニバーサルマナーを全国各地で伝える岸田ひろ実さんの車いすと旅する姿をお伝えしてきた連載も、今回で最終回。「この先、生きていたって仕方がないとすら思った」と話す岸田さんにとって、旅は人生の幅を広げてくれるものでした。
アクセシブル・ツーリズムのセミナーにて
2018年の秋から、アクセシブル・ツーリズムセミナーの講師として登壇しています。聞きなれない言葉かもしれませんが、「アクセシブル・ツーリズム」とは移動やコミュニケーションにおける困難さに直面する人々のニーズに応えながら、誰もが旅を楽しめることを目指す取り組みです。
私は、東京都内の観光関連事業者の経営層を対象に、障害のある方やご高齢の方の旅行受け入れについて解説しています。
計6回の開催で、多くの方々に足を運んでいただきました。
セミナーの質問で最も多かったのは
「どこまでバリアフリーにすればいいかわからない」
「どんなお声がけをすればいいのかわからない」
というものでした。
何かしなければいけないとわかっていても、何から取り組めばいいのかわからないから、何もできていない……という悪循環に陥ってしまう参加者の声も目立ちました。
ホテル・旅行会社・交通機関の人は、大切な時間を預かるからこそ。臆病になり、不安にもなるのだと思います。障害があり、移動や宿泊に不便があるのなら、なおさらです。
でも、勇気を持って、一歩を踏み出してほしいと願います。
そこで私がお伝えしたのは、「ご本人の気持ちに寄り添うことの大切さ」です。
この連載の第10回目で、お笑い芸人の小藪一豊さんに「何かお手伝いしましょか?……ゆーても僕、何したらええかわからんので、教えてください」と、タクシー乗り場で声を掛けられたことをお話ししました。
「どんなサポートが必要か?」と尋ねていただくだけでも、安心することができます。私もそうでした。
たとえバリアフリー化とは程遠い施設だったとしても、コミュニケーションや手助けで補うこともできます。ハードは変えられなくても、ハートは変えることができます。
大切なことは、それぞれができる範囲で取り組みを進め、多様な方にとっての“旅”の可能性を、少しずつ広げていくことです。
旅が広げる、人生の幅
私の場合は「歩けなくなった」ことでしたが、心身の変化は誰にでも起こりうるものです。
「疲れやすくなった」
「目が見えづらくなった」
「耳が聞こえづらくなった」
そんなささいな変化による、日常にちょっとしたつまずきが重なると、いつしか“人生の諦め”になって押し寄せてきます。
「こんなこともできないなら、この先、生きていたって仕方がない」とすら思った時期もありました。
でも同時に、できないと思い込んでいたことができたとき、諦めが覆るほどの感動があります。人生の幅が広がります。
私にとっては、それが“旅”でした。
もちろん、大変なことがたくさんありました。
一方で、バリアがあったからこそ、人との出会いやコミュニケーションを得られました。
ミャンマーでは、自分で車いすをこげない程の悪路でしたが、街ゆく人々が、言葉も文化も違うのに、当たり前にサポートしてくれました。
ハワイでは、レジで会計をした時、高いカウンターの上から他の人と同じようにお釣りを渡され「Have a nice day!」と笑顔で声をかけてもらえたことが新鮮で、うれしかったです。
歩いていた頃よりも、車いすに乗っている今の方が、たくさんの人と出会い、優しさと思いやりに触れられます。
そんな、人生の楽しさに気づくことができたのは、旅のおかげでした。
今までも、これからも
家族や周囲の人たちのおかげで、私は存分に、旅を楽しむことができています。
今度は、私と同じような悩みや苦しさを抱えた人に、旅を楽しんでほしいと、心から願っています。
旅の楽しみを伝えるためには、まず私自身が、旅を続けなければいけません。だからこそ、ずっと元気でいようと思いますし、日々の仕事をがんばろう、と思えます。
最後に、一つだけ、お伝えしたいと思います。
旅に出たいと思っていて、一歩を踏み出す勇気もあるのに、色んな事情で今は旅に出られないという方へ。
とにかく旅への希望を「言葉にし続ける」ということです。手帳などに書き続けても構いません。
でも大切なのは、自分以外の誰かに伝え続けるということです。
「こんなことをしたいから、この国へ行ってみたい」
「この人と一緒に、この国でこんな人と会ってみたい」
など、具体的であればあるほど、いいと思います。
私は最近、ずっと行きたかったニューヨークへ、仕事で行くことが決まりました。
国内のエンターテイメント施設を見ていると、障害のある方々への対応について、よい点もあれば悪い点もたくさんあることに気がついたので、エンターテイメントの本場は一体どうなっているのだろう、と調べたかったからです。
かれこれ5年近く言い続けていたところ、同じ思いを持っていた、企業の方からお声を掛けていただき、お仕事として行かせてもらうことができました。
自分一人のためにはなかなかがんばれなかったとしても、大切な家族や仲間のためなら、がんばれることがあります。
伝え続ける、ということは、旅の始まりです。
これを読んでくださったみなさんにも、ぜひ、私の思いが伝わりますよう、願っています。
「岸田ひろ実さんの車いすジャーニー」は最終回です。続きの連載も、ご期待ください。
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