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- 第1回「死んでもいいよ」から新しい人生が始まった
娘からの「死んでもいいよ」、この言葉が岸田ひろ実さんの人生を変えたと言います。ダウン症の長男の誕生、夫の突然死、自身も40歳の時車いす生活を送ることになり、絶望の淵にあった彼女。可能性を広げようと心に決め、新たな一歩を踏み出しました。
岸田ひろ実です。歩けなくなったけれど、人生で一番幸せです
※2018年7月に公開された記事を再編集しています。
皆様、はじめまして。岸田ひろ実(きしだ・ひろみ)です。私は車いすに乗っています。
2008年、ある日突然、病気の後遺症で歩けなくなりました。
しかし、私はこれまで生きてきた人生の中で今が一番幸せです。
そう思えるのは「死んでもいいよ」という娘の言葉がきっかけでした。
突然訪れた絶望。自分の足で歩けない
私は、長女と、ダウン症がある長男の三人家族で暮らしています。夫は2005年に病気で亡くなりました。
私は一応完璧主義者といいますか、夫が亡くなってから、母親として家族を守らなくてはいけないと、子育て、家事、仕事、すべてに手を抜けませんでした。1日4時間の平均睡眠時間ながら、仕事のやりがいと楽しさで心が満たされ、没頭する日々を送っていた矢先のことでした。
ある日突然、「大動脈解離」という病気に襲われたのです。緊急搬送された病院で宣告されたのは、命が助かる確率は2割以下であること。緊急オペは7時間超に及び、幸いにも一命を取りとめることができました。ところが、目覚めた私は、手術中の後遺症で麻痺が残り、胸から下が全く動かなくなっていました。その日から、私は当たり前にあったはずの全てを失いました。
長女は歩けなくなった当時の私を一生懸命励ましてくれました。しかし、私はその励ましをうまく受け取ることができませんでした。失ったもの、できなくなったことがあまりにも大きすぎたからです。寝返りをうつことすら一人でできない、そんな私にはどんな慰めの言葉も届きませんでした。
絶望。
その時の私を表すならば、この言葉以外にはありません。
しかし子どもたちには、落ち込んでいる姿を見せたくありませんでした。「ママは大丈夫だよ」と、いつも笑ってやり過ごしていました。
「死にたいなら、死んでもいいよ」と言った娘
ある日、大きな転機がやってきました。「ママ、車いすに乗って街に行こう。買い物や食事をしよう」と、娘が提案をしてくれたんです。娘と神戸の繁華街へ出かけ、少しだけワクワクしました。しかし、そんな気持ちはあっという間に消えました。入りたいお店は目の前にあるのに、段差や階段に阻まれて入ることができません。街には、車いすにとってのバリアがこんなに多くあることを実感しました。
混雑している道では、人にぶつかりそうになります。「すいません、ごめんなさい」と謝ってばかり。こみ上げる情けない感情を押し殺すことができなくなりました。ようやく車いすで入れるレストランを見つけ、席につくと同時に娘の前で泣き崩れ、ついに本音を打ち明けてしまいました。
「こんな状態で生きたくない。死にたい」
こぼした言葉への罪悪感から、私は娘の顔を見ることができませんでした。娘はきっと泣いて「ママ、死なないで」と言うだろうと思いました。しかし、娘は泣きもせず私に言いました。
「ママ、死にたいなら死んでもいいよ」それを聞いて、私は耳を疑いました。
「死んだほうが楽なくらい苦しいことはわかってる。でも大丈夫。ママは2億パーセント大丈夫」と娘は続けました。
「2億パーセント大丈夫」。もちろん、この言葉に明確な根拠はありません。しかし、死んでもいいと許されたことで、不思議なことに「死にたくない」という気持ちが湧き上がり、娘を信じて生きようと思いました。絶望していた私の全てがリセットされ、生き方や考え方が大きく変わりました。
歩けない私の第一歩
それから私は「歩けなくてもできること」を考え始めました。また誰かのために、何かをしたくなりました。たどり着いたのは、私と同じように落ち込んでいる人の心を救う心理カウンセラーになることでした。歩けなくなった私が初めて前向きになれた瞬間です。
退院後には、心理セラピストとしての活動をはじめ、多くのクライアントさんと向き合いました。かつては、人に手伝ってもらうことでしか生きることができなかった私が、再び誰かから「ありがとう」と言ってもらえるようになったのです。
「ありがとう」
それは私が心の奥底で、ずっと探し求めていた言葉でした。そして歩けない私自身の可能性を広げようと心に決め、また新たな一歩を踏み出しました。
次回、「2億パーセント大丈夫」が、現実になった瞬間に続きます。
※この記事は2018年7月の記事を再編集して掲載しています。
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