岸田ひろ実さん連載

2018年10月10日

車いすジャーニー~ゆっくり歩けば遠くまで行ける~

第5回 車いすだと不便な新幹線が大好きな2つの理由

車いすユーザーとして自身の視点や経験を生かし、全国各地で”ユニバーサルマナー”を伝えている岸田ひろ実さん。 今回は出張でよく乗る新幹線についてです。車いすの方が乗れる席は、たった2席。それでも岸田さんは、新幹線が大好きなのだそう。

車いすで乗れる、新幹線の座席番号

めったに出会えないドクターイエローに会えた記念の写真。

 

「11号車の、12番Bと13番B」

なんのことだか伝わらないかもしれませんが、私にとっては親しみのある言葉です。

もう何度、口にしたでしょうか。

それは、N700系新幹線で、車いすに対応している座席番号です。通常なら3席並んでいるところ、端の1席が取り外すことができて、その空いたスペースに車いすを置けるようになっています。

1300席近くある車両の中で、車いす対応座席は、たった2席しかありません。私のような車いす利用者だけではなく、ベビーカー利用者や、大きな荷物を持っている人にとっても便利な席なので、予約は争奪戦です。しかも、私が頻繁に利用している路線では、2日前までに電話で予約をしなければいけません。

窓口で尋ねて空きがあれば、車両のデッキにある「多目的室」という部屋を使わせてもらうこともできます。しかし、もともとは気分の悪い人や授乳をする人が一時的に使えるように作られた、狭い密室の部屋なので、一人で長旅をしていると寂しくなることに気づきました。

そんなわけで私は、多少不便でも、新幹線は11号車の12Bと13Bに座るようにしています。

何よりも私は、新幹線が大好きなのです

多目的室では窓際に座り、富士山を見ることが楽しみです。

 

車いすに乗るようになって初めて、仕事で新幹線を利用したのは、2013年のことでした。

新神戸から東京まで行くことになりましたが、座席の予約方法どころか、そもそも車いすのまま車両に乗っていいのかすら、わかりませんでした。当時は出張のたびに、娘についてきてもらい、座席へは娘が抱っこで乗り移らせてくれました。何度も利用する内に、手すりを跳ね上げたり、車いすを絶妙な角度で座席に近づけたりすれば移乗しやすいことが少しずつわかってきました。

今では一人で、新幹線に乗ってどこでも出張しています。多い時は週に2、3度です。

私が慣れた様子で座席に移ると、たくさんの視線を感じます。それだけ、一人で新幹線を利用する車いす利用者は少ないということかもしれません。最初はなんとなく気まずい思いをしていたのですが、最近では新幹線に乗るのが楽しくて仕方ありません。

 

一つ目の理由は、駅員さんの存在

新幹線のお供、スターバックスのコーヒー

改札からホームへの案内や、車両への乗降は、駅員さんが手伝ってくれます。

あまりにも乗る回数が多いので「先日もご一緒させていただきましたね」と、駅員さんに笑顔で言っていただけた時は、嬉しかったです。関西での仕事が多かった時期に、二週間ほど新幹線に乗らなかった時は、心配されたほどでした。

きっとお世辞だと思いますが「誰が岸田さんを迎えに行くか、我先にと、取り合いになるんですよ」と言ってくださってからは、新幹線を乗り降りするまでの短い時間を、楽しくおしゃべりさせてもらっています。待たずにすぐに乗れるタクシー乗り場の場所など、耳寄り情報も教えてもらえます。

東京駅の駅員さんは、今や私が駅で時間を潰すパターン(グランスタでお弁当を買って、スターバックスでコーヒーを飲む)も知ってくださっていて、どこにいても私を見つけて声をかけてくれるようになりました。

二つ目の理由は、ちょっと恥ずかしいですが、駅弁

岡山駅で購入した駅弁「桃太郎の祭ずし」

 

ありがたいことに日本全国、いろいろなところへ呼んでいただけるので、その帰りに駅弁を買って食べるのが至福です。特に地元の名店が出している駅弁が楽しみなんです。

車いすで入ることができる飲食店はあまり多くなく、大阪の繁華街で私が食事できる飲食店はたった3割ほど。カウンター席や座敷しかないお店や、段差や階段があるお店に私は入ることができませんが、お弁当ならどこでも食べることができます。

お弁当の感想は、もちろん駅員さんにも伝えます。

車いすで交通機関を利用する上では、お互いに慣れることが大切

交通機関を初めて利用する時は、やはり不安です。

それでも、私が勇気を出して利用してみることで、少しずつ乗務員さんや周りのお客さんも「これくらいのサポートで良いのか」と安心して、慣れてくださるのではないかと思っています。

私の進む道が、不安を感じている誰かの道を切り開くための助けに、ほんの少しでもなれたらいいなと願い、今日も私はドキドキしながら移動しています。

次回、「第6回初の海外旅行。不安をほぐしてくれたハワイの風」に続きます。

 

岸田ひろ実さんの記事トップへ
岸田ひろ実車いすジャーニー~ゆっくり歩けば遠くまで行ける~

岸田 ひろ実
岸田 ひろ実

きしだ・ひろみ 1968(昭和43)年大阪市生まれ。日本ユニバーサルマナー協会理事。株式会社ミライロで講師を務める。27歳、知的障害のある長男の出産、37歳夫の突然死、40歳、病気の後遺症で車いすの生活に。自身の経験から、人生の困難や障害との向き合い方を伝える。

みんなの コメント
【限定コラボ】職人技が光る!ハルメク×マエノリのセーター誕生秘話

子どもに残すべきはお金?不動産?どちらがお得?

子に遺すべき資産は?

「現金」か「不動産」か…どっちが得?メリット・デメリットは?相続や親族間のトラブルに悩まされないためにしておくべき準備とは

2024.12.12
【PR】「渋滞の文字で……」トイレ事情あるある

突然の我慢できない尿意

実は多くのハルメク世代が悩んでいる「尿トラブル」…中には上手に対策をしている人も!気軽にできる対策って?

2024.12.10
【PR】個人情報の上手な管理・整理術とは

個人情報管理できてる?

銀行口座・保険・クレジットカードなど、「デジタルの情報」をきちんと管理できていますか?煩雑にしていると思わぬ落とし穴が…

2024.12.09
【PR】三井住友銀行アプリにシンプルモードが登場

お金の管理が簡単に!

三井住友銀行アプリに「シンプルモード」が新登場!スマホ操作が苦手な人でも簡単に使える便利機能が満載です!

2024.11.29
認知症セルフチェック

認知症セルフチェック

「もの忘れが増えた」「名前が思い出せない」という症状に心当たりがある方は要注意!それ、「認知機能のレベル低下」が原因かもしれません…

2024.11.22
思わず笑顔になるコミュニケーションロボット「ニコボ」

健気な姿がかわいい!

「思わず笑顔になる」と巷で話題の「永遠の2歳児・ニコボ」!ハルメク世代の2人に、ニコボとの生活にハマる理由をお聞きしました!

2024.11.22
デジタル資産の遺し方

生前親に●●聞き忘れると

老親の契約や登録しているサービス、これらを子が把握していないと将来ムダな出費や面倒なトラブルに発展する可能性が!特に見落としがちなのは…

2024.10.11
【PR】50代からの願いを叶える新しい資金調達術

50代~お金の増やし方

将来を見据えて、50代から「まとまった資金の調達」が重要になります。どんな選択肢があるか、ご存知ですか?

2024.11.20
【PR】たった60日で英語が話せる!3つのコツ

60日で英語が話せる!

英語をマスターするのに「完璧」はいらない!初心者でも60日で英語が話せるようになる、驚きの3つのコツとは?

2024.08.29
認知症のリスクを確認してみませんか?

今なら無料でお試し!

将来、自分の認知機能が低下するリスクがあるか、簡単に予測できるサービスが誕生。今なら無料で先行利用できます!

2024.08.08
【PR】頼れる家族がいない……入院・入居どうする?

おひとり様の備えはOK?

この先「おひとり様」になったら意外な落とし穴がいっぱい…。そんな不安に備える、おひとり様専用お助けサービスが誕生!

2024.07.22
50代から1日1分!脳トレクイズで楽しく脳を活性化

50代から1日1分脳トレ

認知機能を衰えさせないためには、早い時期から「脳を活性化」させることが大切。脳トレ効果がグッとアップするコツって?

2024.12.04