医師監修│女性に多い股関節の痛み、放置は危険!

股関節が痛い原因は50代女性に多い変形性股関節症?

森大祐
監修者
京都下鴨病院
森大祐

公開日:2022.08.29

更新日:2024.03.24

立ち上がりに足の付け根が痛む……。変形性股関節症かもしれません。50代女性に多い進行性の病気で、悪化すると歩けないほどの激痛が走り、人工股関節置換術も必要に! 痛みがなくなっても改善ではありません。4つの進行度をチェックしましょう。

股関節の痛みはどんな症状?

股関節の痛みは、鼠径部(太ももの付け根の奥部分)に感じることが多いです。ただし、人によっては以下のように、太ももの前側やお尻、膝の痛みとして現れることもあります。

  • 股関節の痛み
  • 股関節の違和感
  • お尻の痛み
  • 太ももの痛み
  • 膝の痛み
  • 重だるい痛み
  • 立ち上がるときや歩き始めに足の付け根が痛む
  • 股関節の左だけ痛い、右だけ痛い など

股関節が痛む原因は「関節炎」

股関節に痛みが起こっている場合、考えられる痛みの原因は、関節炎です。

股関節は人間の胴体と脚をつないでいる部分で、骨盤側の丸いくぼみに大腿骨の球体の骨がはまり込む作りをしています。股関節がスムーズに動くよう、骨の間にある軟骨がサポートしていますが、加齢や過度な運動、肥満などが原因となって負担がかかると、軟骨は少しずつすり減っていきます。

クッションとなり衝撃を吸収する軟骨が減少すると、骨同士がこすれ合い、関節が炎症を起こし、関節炎となって痛みが生じるのです。

股関節とは?どんな仕組み?

股関節とは?どんな仕組み?

股関節とは、両脚の付け根にある関節のことで、骨盤と大腿骨をつないでいます。球体の形をした「骨頭」と、お椀の形をした「寛骨臼」が連結しているため自由度が高いことが特徴で、前後左右、さまざまな方向に動かすことができます。

日本人の動作に多い正座や、しゃがむ姿勢などの複雑な動きができるのも、動きを保ちつつ体重を支えられる股関節のおかげです。

骨頭と寛骨臼の表面は弾力を持った軟骨で覆われており、動くときの衝撃を吸収し摩擦を軽減することで、スムーズな動作を可能にしています。

股関節は大きな負荷がかかる部位

股関節は、体重を支えるという大切な役割を持っています。股関節にかかる負担は大きく、片足で立ったときは体重の3〜4倍、歩いているときには3〜4.5倍もの負担がかかるといわれています。

そのため、股関節に起こった障害が小さなものの場合でも、強い痛みが起こったり、関節が動きにくくなったりして日常生活に制限が生じるようになります。

股関節の病気

股関節の病気

ここからは、股関節が痛む際に考えられる病気をご紹介します。

変形性股関節症

股関節の病気の中でも最も多いのが、変形性股関節症です。股関節の痛みの原因のほとんどがこの変形性股関節症だといわれています。

言葉の通り、関節に変形が起こる病気で、酷くなると関節面が消失してしまい、スムーズに動かすことができなくなります。

変形性股関節症は、症状が進行すると痛みが強くなることが特徴です。最初は立ち上がるときや歩き始めるときに痛みますが、進行すると何もしなくても常に痛む「持続痛」、夜寝ているときも痛む「夜間痛」に悩まされることも。

正座ができない、和式トイレの使用が困難、靴下が履きにくくなる、足の爪が切りにくくなる、長時間立ったり歩いたりがつらくなるなど、日常生活に支障が起こります。

変形性股関節症については、記事の後半で詳しく解説します。

リウマチ性股関節症

リウマチ性股関節症とは、関節リウマチ(免疫細胞が誤って正常な組織を攻撃してしまう自己免疫性疾患)やその類似疾患によって関節が破壊される病気です。

股関節は関節リウマチによって障害が起こりやすい部位で、軟骨や骨が溶けてしまい、そこに体重がかかることで関節の破壊が進みます。

大腿骨頭壊死症

大腿骨頭壊死症は、大腿骨頭の一部の血流が悪くなることで、大腿骨頭が壊死してしまう病気です。

立ち上がる動作や歩く動作で体重をかけたときに突然痛みを感じるようになり、その後は少しずつ痛みが軽くなります。痛みを感じるときとまったく感じないときを繰り返しつつ、症状が進んでいくことが多いです。

大腿骨頭壊死症の原因ははっきり解明されていないものの、ステロイド剤の多用やアルコールの飲み過ぎなどが発症リスクを高めるといわれています。この他、原因がわからず突然発症することもあり、その場合は特発性大腿骨頭壊死症と呼ばれます。

大腿骨頭壊死症が原因となり、変形性股関節症を発症することもあります。

大腿骨頚部骨折

大腿骨頚部骨折とは、転倒や事故などによって起こる大腿骨頸部の骨折です。

強い力が加わった場合、若い人でも大腿骨頚部骨折が起こることがありますが、多くは高齢者に見られる骨折です。年を重ねると骨量が減って骨がもろくなり、骨折しやすくなる骨粗鬆症のリスクが高まりますが、骨粗鬆症になると大腿骨頚部骨折が起こりやすくなります。

公益財団法人日本医療機能評価機構のデータによれば、大腿骨頸部や大腿骨転子部骨折の2007年の年間発生数は約15万例と多く、70歳を過ぎると急激に増加。男性よりも女性に多く見られる傾向にあります。

骨折自体は治療すれば治りますが、大腿骨頭への血流が悪くなってしまうため、大腿骨頭壊死症と同じ経過を辿ることも。骨折を機に寝たきりになってしまうこともあり、社会問題の一つになっています。

大腿骨寛骨臼インピンジメント(FAI)

大腿骨寛骨臼インピンジメント(FAI)とは、大腿骨頭と寛骨臼が衝突を繰り返すことで股関節の内部や周辺にダメージが加わり、関節軟骨や関節唇に小さな損傷や変形が起こる病気です。

股関節を屈折させることの多いスポーツや、あぐらをかく、しゃがむ姿勢を繰り返す仕事や日常生活、成長期の過度なスポーツが原因の一つといわれています。

動作を改善することで症状が緩和することが多いですが、進行する可能性もあり、注意が必要です。

50代女性に多い変形性股関節症について

50代女性に多い変形性股関節症について

「股関節が痛い!」という症状が見られるときに多いのが、変形性股関節症です。

40〜50代の女性に多く見られ、痛みが生じる典型的な部位としては鼠径部(太ももの付け根の奥部分)ですが、臀部(お尻)、鼠径部と臀部の間の外側などに痛みを感じる人もいます。

「立ち上がりや歩き始めに足の付け根が痛む」「長時間立ち仕事をしていると重だるい痛みを感じる」などが変形性股関節症の代表的な症状です。

変形性股関節症の4つの進行度

変形性股関節症は進行性の病気で、以下のように4段階で進行していきます。

  • 前期
    まだ軟骨が機能しており、関節の隙間は保たれている状態。痛みが出始めると、30%が10年以内に次の段階に進行する
  • 初期
    関節の隙間が狭くなる兆候が現れる時期。90%が5年以内に次の段階に進行する
  • 進行期
    進行期になると、関節の隙間が消失し、軟骨がすり減ってレントゲン画像では虫食いのように骨が一部なくなっているような画像になる。股関節に痛みが出始めてからは症状が急激に進行していくケースが多い
  • 末期
    明らかに関節の破壊が見られ、歩けないほどの痛みが起こる。末期まで進行すると治療方法も限られ、人工股関節手術が必要になる

立ち上がるときや歩き出すときの一歩目が痛む「初動時痛」、じっとしても痛い、痛くて眠れない「安静時痛」などの症状が見られ、数週間や数か月単位で痛みが軽くなることと強くなることを繰り返しながら進行していきます。

痛みが軽くなったからといって関節の損傷が改善されたわけではないため、進行する前に治療するためにも、早めに病院を受診しましょう。

変形性股関節症の原因

変形性股関節症の原因の約8割は「先天性股関節脱臼(生まれつき股関節がずれている)」や「寛骨臼形成不全症(骨盤の発育不全)」といった先天性の病気が原因といわれています。

股関節疾患は人種や民族、性別によっても起こる頻度が大きく変わります。

日本人女性は変形性股関節症になりやすいといわれており、これは日本人女性に寛骨臼形成不全症の人が多いため。日本人女性の2〜7%が股関節形成不全といわれています。

股関節は、骨盤にあるお椀の形をした受け皿部分「寛骨臼」に球の形をした「大腿骨頭」がはまり込む構造になっています。寛骨臼形成不全症の人は生まれつき寛骨臼が小さく、しっかり大腿骨頭を覆えないためグラグラと不安定になり、軟骨組織の損傷や剥がれが起こります。

この軟骨損傷は「股関節唇損傷」といい、変形性股関節症の原因の一つです。

変形性股関節症の治療法

変形性股関節症の治療は大きく「保存療法」と「手術療法」の2つに分けられます。

  • 保存療法(運動療法、薬物療法)
    薬物療法、低周波治療器、温熱療法、筋力トレーニング、ストレッチなど
  • 手術療法1:股関節鏡手術
    4mmのカメラを使い、1cm弱ほどの小さな傷で股関節を治療する手術
  • 手術療法2:骨切り術
    骨盤側もしくは大腿骨側の骨を切り、関節を温存したまま痛みを緩和する
  • 手術療法3:人工股関置換術
    変形性股関節症が末期まで進行した場合に推奨される手術で、股関節の関節を人工物に置き換える

股関節の痛みの予防法

股関節の痛みの予防法

ここからは、股関節の痛みの予防法をご紹介します。

股関節への負担を軽減する

肥満の場合はダイエットを行いましょう。太り過ぎていると、股関節にかかる負担も大きくなります。食生活や生活習慣の改善、無理のない程度の運動を行ない、健康的な減量を行うことが大切です。

また、日常生活でもなるべく股関節に負担をかけないようにしましょう。抵抗がなければ、杖を使うのも一つの方法です。

水中ウォーキング・固定式自転車こぎ

股関節が痛むと歩く機会が減り、筋力の衰えにつながります。股関節に負担をかけずにできる運動を取り入れ、筋力の維持や向上に努めましょう。

股関節に負担のかかりにくい運動としては、水中ウォーキングや固定式自転車こぎなどがあります。

なお、運動療法は痛みが起こることもあるため、無理をせず医師の指示を受けながら慎重に行うことが大切です。

股関節ストレッチ

股関節を動かすのに必要な筋力を維持するため、股関節周囲の筋力トレーニングができるストレッチを行うのもおすすめです。

  1. 仰向けに寝転び、直角になるように膝を曲げる
  2. 片足の膝を伸ばし、上げられるところまで上げて、7~8秒キープ
  3. ゆっくり元に戻す
  4. 反対側も同じように行い、左右各10回程度を1セットとして、1日3セット行う

股関節に負担がかからないよう、やり過ぎには注意しましょう。

股関節の痛みはよくなっても油断せず、病院へ!

股関節の痛みの原因としてはいくつかの病気が考えられますが、中でも最も多いのが変形性股関節症です。変形性股関節症は50代女性に多く、進行すれば歩くのが難しくなるほど強い痛みが出ることもあります。

変形性股関節症は痛いときと痛くないときを繰り返しながら進行していくため、痛みが軽くなったからといって放置せず、病院で痛みの原因を確かめ、適切な治療を受けることが大切です。

監修者プロフィール:森大祐さん

森大祐さん

日本整形外科学会認定整形外科専門医。関西医科大学卒業後、京都大学整形外科に入局。脊椎、上肢疾患の臨床研究をおこない、脊椎、手関節、肘、肩関節に精通する。その後米国トーマスジェファーソン大学で人工肩関節の臨床研究を主な目的に留学。京都下鴨病院で肩関節外来を担当し、脊椎機能の重要性を唱えている。

※この記事は2022年8月の記事を再編集をして掲載しています。

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