医師が教える!最新肺トレ「超肺活」3

新型コロナウイルスの重症化を防ぐために今できること

小林弘幸
監修者
順天堂大学医学部教授
小林弘幸

公開日:2021.12.15

更新日:2022.11.16

自律神経研究の第一人者・小林弘幸さん(順天堂大学医学部教授)の著書『最高の体調を引き出す超肺活』(アスコム刊)から、新型コロナウイルスの重症化を防ぐために知っておきたい情報をまとめて紹介します。コロナ禍の今、体を守るためにできることとは?

医師が教える!最新肺トレ「超肺活」3
医師が教える!最新肺トレ「超肺活」3

著者プロフィール:小林 弘幸さん

小林 弘幸さん

こばやし・ひろゆき 順天堂大学医学部教授。日本体育協会公認スポーツドクター。
1960年、埼玉県生まれ。87年、順天堂大学医学部卒業。92年、同大学大学院医学研究科修了。ロンドン大学付属英国王立小児病院外科、トリニティ大学付属医学研究センター、アイルランド国立小児病院外科での勤務を経て、順天堂大学小児外科講師・助教授を歴任する。自律神経研究の第一人者として、プロスポーツ選手、アーティスト、文化人へのコンディショニング、パフォーマンス向上指導に関わる。

この連載の引用元である『最高の体調を引き出す超肺活(アスコム刊)』は、Amazonや全国の書店でお買い求めいただけます。

最高の体調を引き出す超肺活

風邪、インフルエンザ、新型コロナウイルスの違いは?

風邪、インフルエンザ、新型コロナウイルスの違いは?

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が流行し始めたころ、「コロナは風邪と同じ」「コロナはインフルエンザと同じ」というような主張をする人が一定数いました。ウイルス感染症という意味では、「同じ」と言えなくもありません。

ワクチンが開発されたとはいえ、変異株の増加など、新型コロナウイルスはまだまだ未知の部分がたくさんあります。感染症や肺炎についての正しい知識を得て、正しい対策をとることが、健康を守るためには何より重要です。

新型コロナは風邪なの?

「風邪」とは、上気道(鼻や喉)に、ウイルスや細菌が感染して引き起こされる感染症です。風邪ウイルスの数は200種類以上あるといわれており、どのウイルスが原因で起こったのか特定するのは困難です。また、同じウイルスでも年々変異していくため、抗体ができても、免疫が弱い人は繰り返し風邪をひいてしまいます。

風邪を引き起こすウイルスのひとつに「コロナウイルス」があるため、「新型コロナは風邪」と発言する人がいるのだと思います。しかし「新型コロナウイルス」と、風邪を引き起こす「コロナウイルス」はまったくの別物と考えるべきです。

インフルエンザウイルスと新型コロナウイルスの違い

また、「新型コロナウイルス」と「インフルエンザウイルス」も違います。

インフルエンザは、風邪と同じく上気道に、インフルエンザウイルスが感染して発症する感染症です。風邪は、鼻水やのどの痛みといった上気道症状が中心なのに対して、インフルエンザは倦怠感(けんたいかん)や筋肉痛などの全身症状が現れてきます。

大多数の人は免疫力によって自然治癒しますが、インフルエンザの怖いところは、治癒したと思えるときに発症する二次感染の肺炎です。この肺炎はインフルエンザウイルス自身が引き起こすものは多くありません。

インフルエンザによって気道にある線毛や粘膜層などが炎症を起こし、防御システムが弱くなったことで、もともと上気道に存在している肺炎球菌などが肺に感染して発症します。

インフルエンザウイルスは上気道周辺にとどまることが多いのに対して、「新型コロナウイルス」の特徴は、肺胞にまで侵入してくる点です。そして、肺胞のまわりの壁に炎症を起こす「間質性(かんしつせい)肺炎」を発症させます。

新型コロナウイルス自体の毒性は強くありませんが、免疫力が弱っているとサイトカインストーム(免疫システムの暴走)を引き起こす場合が多く、重症化してしまう人がいるのが恐ろしいところです。

「死に至る怖い病気」肺炎について知っておきたいこと

現在、日本では年間およそ9万5000人もの人が肺炎で亡くなっています(厚生労働省「2019年人口動態統計」)。コロナ禍によって、肺炎が「死に至る怖い病気」であることを、自覚した人も多いでしょう。

肺炎とは、気管支や肺に炎症を起こし、肺の病態が著しく低下した状態を指します。肺炎には、ウイルスや細菌が原因のもの、肺胞を包んでいる間質という組織が炎症を起こして発症するものなど、分類によってさまざまな種類があります。

肺炎の種類
肺炎の種類

肺炎と聞くと、ウイルスが肺に侵入して病態が急激に悪化するイメージがあるかもしれませんが、現実には、慢性的な肺の衰えから「間質性肺炎」となって、命を落とすケースが増えています。

1年以上かけて進行する「間質性肺炎」

間質性肺炎はウイルス感染などの急性の場合をのぞき、1年以上の時間をかけてゆっくりと進行していきます。

肺胞を包んでいる間質が繊維化する(硬くなって動きが悪くなる)ことで、酸素と二酸化炭素のガス交換ができなくなり、呼吸機能に不具合が生じてきます。

初めは階段や坂道を上るときに息切れする程度ですが、病気が進行すると、服を脱いだり入浴したりといった日常動作で、痛みを伴う咳が出るようになります。以前紹介したCOPD(慢性閉塞性肺疾患)の人は、間質性肺炎を発症しやすく、命を落とすケースが非常に多いです。

若いうちから肺を鍛えることで肺炎を予防する

若いうちから肺を鍛えることで肺炎を予防する

肺炎は重症化すると、ガス交換を行う肺胞が次々と破壊されます。すると脳は、不足した血中の酸素濃度を上げようと、心臓に心拍数を上げるように命令します。若い人はそれで助かりますが、心肺機能が衰えている高齢者は、呼吸不全や循環不全になり、亡くなってしまうのです。

肺炎で亡くなる人のほとんどは65歳以上の高齢者です。肺炎の典型的な症状は、激しい咳や息切れ、高熱などが挙げられますが、高齢になるほどこのようなわかりやすい症状が出にくくなります。

微熱やだるさがある程度なのに、実は肺炎が隠れていた、という人が高齢になるほど多くなります。そのため、気付いたときには取り返しのつかない病態になっている人も少なくありません。

肺炎にならないためには、ウイルスや細菌に負けない免疫力を高めること、そして、呼吸力を維持して肺胞の劣化を防ぐことに尽きます。呼吸筋の柔軟性を高め、ゆっくりと深く呼吸し、若いうちから肺の健康を維持するよう心がけましょう。

新型コロナの新たな脅威「ハッピー・ハイポキシア」

新型コロナの新たな脅威

新型コロナウイルス感染症の脅威のひとつに、「ハッピー・ハイポキシア」があります。ハッピー・ハイポキシアは「幸せな低酸素症」と訳せます。

何が幸せかというと、新型コロナウイルス感染症の患者の中には、血中の酸素濃度が人工呼吸器を使わなければならないほど低かったにもかかわらず、呼吸困難などの自覚症状が見られない人がいる、という事例が報告されているからです。

息切れなどの苦しい自覚症状がないため、「ハッピー」というわけで、この言葉はアメリカの「ウォールストリートジャーナル紙」が命名しました。

しかし、自覚症状がなくても、血中の酸素は不足しているため、肺炎の病態は進行し、突然、心臓発作や脳卒中などで亡くなることがあります。

つまり、実際はハッピーでもなんでもなく、医師や患者にとっては「サイレント・ハイポキシア(静かな低酸素症)」が重症化リスクを見逃す一因となっているのです。

低酸素なのに症状が出ないコロナ患者がいる不思議

メディアでも、新型コロナウイルス感染症の軽症者が突然重症化したり、亡くなったりしたという報道が頻繁にされています。その一因は「ハッピー・ハイポキシア」にあるのではないかと推測する人もいますが、真相はまだわかりません。

「ハッピー・ハイポキシア」は、アメリカの著名な呼吸生理学の研究者であるマーチン・トビン氏らの研究チームが、米国胸部学会の学会誌に論文を発表し、その後、次々と臨床研究の論文が出ています。

通常、人間の血中酸素濃度は90%台後半で、80%台に低下すると生命の危機にさらされます。しかし、今回の新型コロナウイルスでは、60%台という医学的には絶対に生きられない数字でありながら、息切れを起こさず生存している患者も報告されているのです。

血中酸素濃度が60%台で生存していたという報告は誤りだとも考えられますが、「低酸素なのに症状が出ず、その後、重症化する」事例があるのは事実です。

そもそも低酸素症にならない体づくりを

低酸素症にならない体づくりを

ここで私が言いたいのは、仮に新型コロナウイルス感染症が、「ハッピー・ハイポキシア」のような未知の症状が現れるとしても、恐れるに足らない、過剰な心配をする必要はない、ということです。

なぜなら、免疫力が高く、呼吸力が強く、しっかりと肺胞がガス交換をしていれば、「そもそも低酸素症にはならない」からです。体が健康ならば、関係のない話なのです。

コロナ禍においては、これからも真偽の定かでないさまざまな情報が飛び交うでしょう。しかし、体を守るためにできることは「肺を鍛える」、これに尽きます。

必要以上にコロナにおびえて不安になることは、自律神経のバランスを崩すことにつながります。やるべきことをやって、不安になりすぎないようにしましょう。

次回は弱った肺を修復する「肺活トレーニング」のやり方を紹介します。

※本記事は、小林弘幸さんの著書『最高の体調を引き出す超肺活』(株式会社アスコム/1540円・税込)より一部抜粋して構成しています。

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