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医師が教える!最新肺トレ「超肺活」・1
医師監修・放置は危険「肺の機能低下」チェックリスト
順天堂大学医学部教授
小林弘幸
公開日:2021.12.01
更新日:2024.10.08
咳や痰が続く、階段で息切れする……。特に40代以降の人は、肺が弱っている可能性があります。肺の機能は何歳になっても高めることができると、自律神経研究の第一人者・小林弘幸さん。まずは、「肺活力チェックリスト」で機能低下度を確認しましょう!
著者プロフィール:小林弘幸さん(順天堂大学医学部教授)
こばやし・ひろゆき 順天堂大学医学部教授。日本体育協会公認スポーツドクター。1960年、埼玉県生まれ。87年、順天堂大学医学部卒業。92年、同大学大学院医学研究科修了。ロンドン大学付属英国王立小児病院外科、トリニティ大学付属医学研究センター、アイルランド国立小児病院外科での勤務を経て、順天堂大学小児外科講師・助教授を歴任する。自律神経研究の第一人者として、プロスポーツ選手、アーティスト、文化人へのコンディショニング、パフォーマンス向上指導に関わる。
エクモのすごさが教えてくれた「肺」の重要性
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行によって、ECMO(エクモ)の存在が一般にも広く知られるようになりました。
エクモは、重症患者を救う「最後の切り札」として報じられていますが、その役割は単純明快です。エクモの役割は、体外で肺の機能を人工的に代替し、肺を一時的に休ませて回復や治療の時間を稼ぐことにあります。
エクモのメカニズムを知ると、私たちの肺が普段どんな働きをしているのかよくわかります。エクモによる治療は、まず太ももの付け根の静脈にカニューレという太い管を挿入したあと、血液を体の外に取り出し、ポンプによって人工肺に血液を送ります。ここまでの血液は二酸化炭素を含んでいるため「暗い赤色」をしています。
人工肺に送られた血液は、酸素と二酸化炭素の「ガス交換」が行われ、カニューレを通して首の血管に戻されます。このときの血液は、酸素を含んでいるため「鮮やかな赤色」をしています。
私が外科研究医時代、エクモの勉強でもっとも驚いたのが、含まれているガスが二酸化炭素か酸素かによって変わる「血液の色」についてでした。
二酸化炭素を含んだ濁った血液が、人工肺を通過すると鮮やかで健康的な色に生まれ変わるさまを見て、「肺」がいかに健康状態に大きな影響を与えるかを思い知りました。
そして、知識としてはもちろん知っていましたが、「酸素は血液に乗って全身に運ばれていく」ということを、エクモを目の当たりにして痛感したのです。
「肺胞」のおかげで人間は生きられる
肺が担っているもっとも重要な役割は、ご存じのとおり「呼吸(ガス交換)」です。しかし、呼吸は意識しなくてもできるため、食生活などと違って、健康を考える時おざなりにしてしまいがちです。
私たちは、食べ物から栄養を吸収しなければ生きていけませんが、同じように肺から酸素を取り込まなければ死んでしまいます。
人間は、呼吸によって取り入れた酸素と食べ物から取り入れた栄養を結合させることで、生きるためのエネルギーを生み出しています。そのため、栄養と酸素は生命維持に絶対欠かせないものですが、数日栄養を取らなくても生きていけるのに対し、酸素が足りないと、ものの数分で死んでしまいます。
酸素はそれほど大切なものなのに、今「たっぷり酸素を吸えていない人」がとても多くなっているのです。
酸素と二酸化炭素のガス交換は、肺の中に張り巡らされた気管支の先端にある、「肺胞(はいほう)」と呼ばれる部位で行われています。肺胞の大きさはわずか0.1mm程度で、およそ3億から6億個あるといわれています。
肺胞には、毛細血管が網の目のように取り巻いています。息を吸うと、酸素は肺胞の中に入り、毛細血管内の血液に溶け込んでいきます。血液は心臓に送られ、心臓から動脈を経由して全身の毛細血管に送られ、およそ1分かけて心臓に戻ってきます。
このように呼吸は、心臓や血液循環とも密接に関わっているため、呼吸の質が、全身の健康状態を大きく左右することになります。
肺の機能低下が、免疫力を落とす
肺の機能が弱まり、肺胞から酸素を充分に取り込めないと、全身の細胞が酸素不足に陥ります。全身に張り巡らされた毛細血管まで酸素が行き渡らないため、冷え性やむくみを引き起こし、酸欠状態になった細胞はがん化の原因にもなる可能性があります。
また、脳に充分な酸素が届かず、集中力が減退したり、メンタルトラブルや認知症の一因にもなります。さらに、肺胞から充分に酸素を取り込めないと、血中の酸素濃度が下がり、足りない酸素を補うために呼吸の回数が増え、浅い呼吸になってしまいます。
浅い呼吸は、自律神経のバランスを崩す原因です。自律神経は、血流や腸内環境と密接に関わっている健康状態を大きく左右する神経です。
自律神経のバランスが崩れると、血流や腸内環境にも不具合が生じ、血管や内臓の疾患を引き起こしたり、腸におよそ割生息している免疫細胞の働きも悪くなります。
その結果、肺を含めた全身の免疫力が低下する危険性があります。つまり、ウイルスや病気に負けない強い体をつくるには、諸悪の根源である「肺の劣化」を防ぐことが絶対に必要なのです。
肺の機能は40歳から急激に衰える
肺の機能の衰えは、自覚症状に現れにくいものです。自分はまだ若いから、あるいは体にはなんの不調もないからと、肺の健康をおざなりにするのは禁物です。
風邪がなかなか治らなかったり、咳(せき)や痰(たん)が続いていたり、階段を上るくらいで息切れしてしまう人は、肺が弱っている可能性があります。
肺の機能は、40代頃から加齢とともに誰でも低下していきます。特に喫煙者は40代以降になって急速に機能低下が進行することがあります。
肺の機能低下とは、肺胞が壊れたり炎症を起こしたりしている状態です。こうなると、肺胞は酸素をうまく取り込めなくなってしまいます。炎症がひどくなると、慢性閉塞性肺疾患(COPD)という病気を発症することがあります。重症化すると一生 酸素ボンベを手放せない恐ろしい病気です。
しかし残念ながら、肺胞は一度壊れてしまうと、再生できません。脳細胞が壊れると二度と元通りにならないのと同じなのです。
では、加齢による肺の機能の衰えは、諦めるしかないのか? 答えは、否です。
肺の機能は何歳になっても高めることができます。実際、臨床の現場では、肺の手術が決まっている患者さんに、手術の数週間前から肺の機能を鍛えるためのトレーニングをしてもらいます。
肺胞そのものを復活させることはできませんが、呼吸する力を強化し、血液に取り込む酸素量を増やすことはできるのです。その方法として考案したのが、後述する「肺活トレーニング」です。
肺の強化で自律神経が整い、健康のスパイラルに !
肺を鍛えることは、自律神経の視点からも大きなメリットがあります。実は、呼吸こそ、自律神経を直接コントロールできる数少ない手段なのです。ゆったりした深い呼吸は、自律神経のうち、 心身をリラックスさせる「副交感神経」の働きを高めることがわかっています。
しかし、ストレスや生活習慣の乱れによって、現代人は副交感神経と逆の働きをする「交感神経」が過剰に働いて、自律神経のバランスが崩れてしまっている人が非常に多いです。
自律神経は、血液循環や体温調整、免疫機能、内臓機能などを、脳の指令とは関係なくコントロールしている生命維持装置です。そのバランスが崩れているということは、さまざまな生活習慣病や感染症を引き起こす引き金となります。
肺活力を高め、ゆっくりと深い呼吸で自律神経を整えれば、呼吸器系のみならず、体調に間違いなく好影響を与えることができるでしょう。
これまで、ご自身の「肺」の状態に無頓着だった方も多いかと思います。しかし、新型コロナウイルス感染症の流行によって、肺を守ることの大切さは誰もが知るところになりました。
ウイルスや細菌に負けない力強い肺を手に入れ、最高の体調を引き出すために、ぜひ「超肺活」を実践してください。肺活力を上げれば、あなたの人生が変わります。
「肺の機能低下」を知るためのチェックリスト
トレーニングをする前に、まずは今の状態をチェックしてみましょう。
- 喫煙者(過去に喫煙歴がある人も含む)
- ぜんそくなどの呼吸器疾患がある
- 風邪が3週間以上治らないことがある
- 1日に咳が何度も出る
- 黄色や粘り気のある痰が出る
- 呼吸すると、ゼイゼイ、ヒューヒューと音がする
- 長い坂や階段を上るとき息切れする
- 歩いていると、同年代の人についていけない
- ささいなことにイライラする
- 集中力が続かない
- 不安やパニックになりやすい
- 慢性疲労を抱えている
- 肩こりや腰痛がひどい
- 便秘に悩んでいる
- ぐっすり眠れない
- 冷え性や肌荒れに悩んでいる
いかがでしたか? 3つ以上該当する人は、肺の機能が衰えている可能性があります。そのまま放置したら危険です。肺活力を高めて改善していきましょう !
次回は、具体的に免疫力を高める「超肺活」について紹介します。
※本記事は、小林弘幸さんの著書『最高の体調を引き出す超肺活』(株式会社アスコム/1540円・税込)より一部抜粋して構成しています。
※この記事は2021年12月の記事を再編集して掲載しています。
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小林弘幸さんの著書をチェック
この連載の引用元である『最高の体調を引き出す超肺活』(アスコム刊)では、自律神経研究の第一人者・小林弘幸さんが、自律神経を整え、免疫力も高めることのできる「肺の力」を上げる方法を教えてくれます! 新型コロナウイルスの予防にもつながる「超肺活」、あわせてチェックしてみてくださいね。
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