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- 【医師が解説】認知症介護のコツ5か条と家族の接し方
笑いがあれば、認知症の治療も介護もうまくいくーー。「笑いの力」を借りると、症状が和らいだり、介護のストレスが減ったりして、患者さんも家族もずいぶん楽になるといいます。認知症専門医・榎本睦郎さんに介護のコツと家族の接し方について聞きました。
認知症介護に笑いを!正しい接し方が症状の進行を抑える
榎本内科クリニック院長の榎本睦郎さんは、毎月1000人近い認知症の患者さんを診ています。日々の診療から実感するのが「笑うこと」の大切さ。認知症の治療と介護に、もっと笑いをーーと呼びかけます。
「患者さんと家族が笑顔だと、ああ治療も介護もうまくいっているな、と思えます。そういう方は認知症自体もゆっくり進行することが多いものです。ある70代の男性患者さんは6年前から通院していますが、早期から薬の服用と定期的な診察を受け、症状はほとんど進んでいません」
「『体調はどうですか』と聞くと、『絶好調です!』などとユーモアたっぷりに返してくれる。一緒に来られる奥様もいつもニコニコしていて、『先日は麻雀で勝ったんですよ、ねえ、あなた』などと、ご主人をうまくサポートしておられる。もちろん、現実には介護の悩みもあるのですが、ご本人の前では絶対に口に出さず、メモをそっと渡して相談してこられます。お見事な対応です」
認知症専門医がおすすめ「認知症介護のコツ5か条」
では、この夫婦のように、認知症の患者さんも家族も笑顔で過ごせる秘訣は何なのでしょうか? 榎本さんに認知症介護のコツを聞きました。
1.「認知症」はNGワード
「もの忘れ」という言葉で十分。不安にさせる表現は避けましょう。
2.ストロングポイントを見つける
できなくなったことより、「できる」ことを尊重しましょう。
3.ちょっと離れた外野席から見る
同じ土俵に入らず、傍観者のスタンスを取ることも大事。
4.役者になりきって笑顔で接する
真面目すぎる対応より、役者になったつもりでユーモアを忘れずに。
5.手抜きではなく、“息抜き”介護を
介護サービスを活用して、気分転換の時間を確保。心に余裕を。
認知症の人にやってはいけないことは?安心・笑顔が大切
逆に、患者さんにダメ出しをしたり、できないことを言い立てたりするのはNGだと、榎本さん。
「例えば『家に帰る』と言って自宅を出て行こうとする患者さんに『ここが家よ』と正論で説得しても納得してはもらえません。真面目な顔で説得しようとするほど怖い表情になり、ご本人には“敵”に見えてしまう。認知症の患者さんは人の感情に敏感で、表情をよく読み取りますからね。だからこそ、笑顔で『じゃあ、一緒に帰りましょうか』と話を合わせ、少し散歩をするくらいの方が問題は早く解決します」
そう、笑顔は「あなたの味方ですよ」というサインであり、問題を早く解決するためのコツでもあるのです。
「役者になったつもりで、とにかくニッコリ笑ってみてください。患者さんだって、つられて笑顔になりますよ」
まさに笑顔は効く!のです。もの忘れや判断力といった認知症の中核症状は改善できないにしても、徘徊やもの盗られ妄想といった周辺症状(BPSD)は、笑顔で接することで確実に減っていくと榎本さんは話します。
でも、そうは言っても笑えないときも……。
「もちろん、あるでしょう。でも笑えない自分を責める必要もありません。ただ、笑顔で接すると患者さんが変わり、“結果”が違ってくる。それに気付けば、『次こそ笑顔で』と思えるはず。半年くらいで、そう気付く方が多いようですね。認知症は早期に見つけて適切な診断と治療を受ければ、怖い病気ではありません。笑ってお付き合いしましょう」
病気の症状が改善!研究データで見る笑いの健康効果
笑いの健康効果が注目されるようになったきっかけは、米国のジャーナリストのノーマン・カズンズが1976年に著した闘病記。
彼には膠原病の持病がありましたが、ビタミンC大量療法と笑うことで病気を克服できたと発表したのです。これを機に笑いに秘められた治癒力が医学的にも研究されるように。彼の本は日本でも『笑いと治癒力』の題名で出版されています。
日本でも、漫才で血糖値が低下した事例があります。
対象になったのは19人の糖尿病患者。退屈な講義を受けた日と漫才で爆笑した日とで、食後の血糖値の上がり方を比較したところ、漫才の日は講義の日より血糖値の上昇が46mg/dLも抑えられていました。
不安などのストレスがあると血糖値が上がりやすくなりますが、笑うと逆の現象が起こったのです。
その他にも、免疫力アップなど、笑いが心や体に良い影響を与えることは、多くの研究で報告されています。
■教えてくれた人
榎本睦郎さん
えのもと・むつお 榎本内科クリニック(東京都調布市)院長。1967(昭和42)年生まれ。東京医科大学卒業後、老年病科(現・高齢診療科)入局。東京都老人総合研究所で認知症・神経疾患を研究。七沢リハビリテーション病院脳血管センターなどを経て、2009年から現職。東京医科大学高齢診療科客員講師も務める。著書に『笑って付き合う認知症』(新潮社刊)。
取材・文=佐田節子
※この記事は、「ハルメク」2017年1月号に掲載した記事を再編集しています。
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