もし明日、がんと診断されたら4

賢い患者になる!よい医療の見つけ方・付き合い方

公開日:2020.03.12

更新日:2023.03.15

病院、医師、治療法……。「よい医療」とめぐり合うためには、自分が「賢い患者」になることが大事。その方法を、ささえあい医療法人COMLコムル理事長の山口育子さんに聞きました。

「よい医師」と「よい病院」はどう見極める?

■教えてくれたのは……

山口育子さん

ささえあい医療人権センターCOML 理事長 山口育子さん
1965(昭和40)年大阪府生まれ。25歳で卵巣がんを発症し、約1年半にわたって治療。92年、ささえあい医療人権センターCOMLのスタッフとなり、2011年より理事長。医療者へ向けた講演会も多数行う。新著に『賢い患者』(岩波新書)。

テレビや雑誌では、さまざまな著名な医師が紹介されています。また、友人からは「この先生が優秀らしいよ」と噂を聞くこともあるでしょう。どんな医師が〝名医〟なのか。みなさんが医師に求める基準は治療経験の豊富さでしょうか。親身に話を聞いてくれる丁寧さでしょうか。何を優先させたいかによって各人の「いい医師」は違ってきます。

山口さんは「人それぞれ相性があるので、万人に合う医師はいません。自分がどんな医師がいいのか、基準を明確にすることが大事」と話します。

一方で、山口さんは「医師ばかりに目を向けることは、得策ではない」とも。現在のがん治療は、違う分野の医師、看護師、薬剤師などの複数の専門職による「チーム医療」が主流。「むしろ、注目すべきは病院としてのサポート体制がしっかりしているかどうかです」

覚えておきたいのは、がん診療連携拠点病院の存在。厚生労働省が指定した質の高いがん医療を提供する病院のことで、全国に401か所あります。併設の「がん相談支援センター」は、がんの患部別の治療法や地域サービスなどの情報を、その病院の患者であるかどうかにかかわらず、無料で教えてくれます。

病院の信頼度は、意外な部分にも表れます。山口さんによると、受付が声を掛けやすいか、トイレが清潔かどうかも重要だそうです。

いずれにせよ、がんと診断されたときに大事なのは、一人で悩まず相談先を確保することです。後述するCOMLの電話相談などの窓口を積極的に活用しましょう。

自分に合った「いい治療法」の探し方は?

自分に合った「いい治療法」の探し方は?

近年は、治療法の選択肢が増え、医療者側が、「これが一番適している」ということが明確に言えなくなってきています。がんになったら、自分が医療者側の説明を理解し、医療者と共に考え、自分にとってベストな治療法を選び取ることが重要です。

ポイントは「人生において何を一番大切にするか」。以前山口さんが受けた相談の中に、口腔がんと診断され、上あご半分を取り除く手術を医師に説明されたものの、それによって食事や呼吸に支障をきたすことに不安を感じている男性がいました。彼は、治療後も普通の生活が送れることを望んでいたため「手術以外の治療法の選択肢はないのか確認してみては」とアドバイスしたそう。

複数の治療法の長所・短所を知った上で「自分のQOL(生活の質)を維持できるかどうか」を考え、選択するようにしましょう。

後述する日本医療機能評価機構のインターネットサイト「Mindsガイドラインライブラリ」は、治療法探しの参考情報におすすめです。

雑誌やブログ……あふれる情報の中からどう選び取る?

インターネットの普及

インターネットの普及によって医療や健康に関する情報は、かつてより得られやすくなりました。でも、だからこそ、間違った情報に惑わされない判断能力が大切です。

ネット上には、さまざまながん体験談が書かれたブログ(個人の日記)も数多くあります。こうした情報は手当たり次第に読んでしまいがちですが、注意が必要。体験談には自分とまったく同じケースがあるわけではなく、不安をあおることばかり書かれていることも。「治療法の探し方」と同様、自分が何を重視するかを明確に持った上で情報を参考にすることが、前向きな治療につながります。

書籍を参考にする場合は、治療法や制度など情報の「鮮度」にも気を付けながら読むようにしましょう。後述する国立がん研究センターのインターネットサイト「がん情報サービス」は、最新の知見をわかりやすく紹介していると、山口さんもおすすめします。

親や子ども、家族に病気をどう伝える?

家族

「家族には、自分がこれからどう治療していきたいのか気持ちを整理してから伝えるのがベスト。思いや願いを正直に伝えれば、『ここは手伝ってほしい』などと具体的に今後について話し合うことができます」と山口さん。

中には治療法など重要な決断を「自分で決めたくない」と、家族に任せる人もいます。「家族は自分の代わりに生きてくれるわけではありません。一緒には考えてもらうけれども、最終的に決めるのは自分だと、どこかで腹をくくることが大切です」(山口さん)

「家族を心配させたくないから伝えたくない」という方もいることでしょう。でも、告げられないと蚊帳の外に置かれたような気持ちになり、悲しむ家族もいます。山口さんは「話題にしてもシビアになり過ぎない元気なうちから、家族とがんになった場合のことを話し合っておくといいでしょう」とアドバイスします。

がんになったとき、頼れる窓口&情報サイト

がんになったとき、頼れる窓口&情報サイト

インターネットの普及によって医療情報は、かつてより得られやすくなりました。でも、だからこそ、間違った情報に惑わされない判断能力が大切です。そんな時に頼れるのが、心に寄り添う電話相談窓口や、最新の知見をわかりやすく紹介する国立がん研究センターのサイトです。

■COML電話相談窓口
費用は電話料金のみ。相談スタッフ(医療者ではない)が医療費、転院に関する悩み、医療者とのコミュニケーション法などについて答える。一般を対象に、「賢い患者になりましょう」を合言葉にした有料ミニセミナー「患者塾」も、隔月で行っている。

・東京
TEL 03-6459-2660
水・木・日 13時〜17時

・大阪
TEL 06-6314-1652
月・水・金 9時~12時、13時~16時(15時30分受付終了)
但し、月曜日が祝日の場合は翌火曜日に振替。
土 9時~12時

■Mindsガイドラインライブラリ
診療ガイドラインや各種医療情報を医療提供者向けと一般向けに公開。トップ画面から「一般向け」に進むと、がんなどの各種疾患別の詳しい解説(症状や治療法、注意点など)を読むことができる。

■国立がん研究センター がん情報サービス
がんの種類や治療法といった基礎的な情報から、再発、転移、術後や化学療法中の食事に至るまで、がんに関する情報を幅広く提供。相談窓口の案内も掲載している。

山口さんが考える「よい患者」

賢い患者になるコツは、日常生活の中にあります。COMLでは、病気を「自分の持ち物」だと自覚し、人任せにしないことが大切だと伝えています。そのためには、健康なうちから日常的に“トレーニング”しておくこと。例えば「ニュースでわからない言葉があっても、そのままにしない」ということもその一つ。こうしたことを習慣化しておけば、病気や治療のことでわからないことがあっても、すぐに調べたり、人に聞いたりして自分なりに解決できるようになるはず。

同じように医療者や家族との関わりで必要になるコミュニケーション力も、日常の心掛けで養えます。日頃から人と積極的に関われる人は、いざがんになったときにも、スムーズに医師や看護師と意思疎通が図れるものです。

私は25歳で卵巣がんを経験しました。やりたいことを積み残すことだけは絶対に嫌だったので、がんと、とことん向き合いました。この経験を通して思うのは、健康なうちから「自分がどう生きたいか」を問い、それを日常の中で実践していけば、人生もより充実するということです。

この記事をきっかけに、家族で「がんになったとき」のことを話し合い、わからないことを聞いたり調べ合ったりするだけでも、人生の見え方が違ってくるはずです。

取材・文=清水麻子
※この記事は2018年10月号「ハルメク」に掲載された内容を再編集しています


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