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- 夏バテ知らずの体をつくる「夏の食養生」
蒸し暑い日本の夏は過酷そのもの。夏本番になると「体がだるい」「食欲がない」といった夏バテの症状に悩まされる人が増えます。そこで取り入れたいのが、食事で健康を維持する「食養生」。夏バテを防ぐ食事について、国際薬膳師の岡尾さんに伺います。
教えてくれたのは……岡尾知子(おかお・ともこ)さん
鍼灸師、国際中医師、国際薬膳師。雑誌、新聞、WEBなどで健康に関する情報発信を積極的に行っている。本草薬膳学院講師、つぼみ堂はりきゅう院院長、ロータス薬膳教室主宰。著書に『はじめての薬膳生活』『野菜の事典と薬膳レシピ』(ともに法研)がある。
東洋医学の視点で見る夏バテとは?
暑さにプラスして、ジメジメとした湿気も襲ってくる日本の夏。国際薬膳師の岡尾さんによると、こうした蒸し暑さで最もダメージを受けるのは、消化機能と血液など水分のめぐりだそうです。
「東洋医学では、暑さの邪気(暑邪)が体に侵入すると、血液循環にかかわる五臓の心(しん)がやられ、多汗、不眠、脱水などの症状が出ると考えられています。
一方で、湿気の邪気(湿邪)が侵入すると、消化機能を司る五臓の脾(ひ)、つまり胃腸が消耗します。脾(ひ)は水分代謝とも深くかかわっているので、ここが消耗すると水分代謝も悪くなり、食欲不振、下痢、体の重だるさ、やる気が出ないといった、いわゆる夏バテの症状が起こります」(岡尾さん)
そしてこれらの症状は、それぞれが複雑に絡み合って夏バテをより深刻化させていきます。
「食欲不振からエネルギー不足になって疲れが慢性化したり、寝苦しさによる睡眠不足から疲れが回復しなくなったり……。夏バテは連鎖するものと心得て、早めのケアを意識してほしいですね」(岡尾さん)
夏バテを放置すると老化が加速する!?
夏バテは、秋になったら自然に回復するわけではなく、放っておくと秋以降の体調不良にもつながります。また、夏バテを放置すると、老化が加速する原因にもなるのだとか。
「東洋医学で体は、気(生命活動のエネルギー源)・血(血液)・津液(しんえき、血液以外の液体)の3つの要素で構成されると考えられています。夏バテは、この3つすべてが消耗した状態。中でも問題なのは、気が虚弱になることです。
気には、元気や気力といったエネルギーを生み出す、体温を保持する、体を病気から守る、代謝を促すといった作用があります。気が弱ったまま放置すると、疲れやすさややる気が出ないといった症状が秋以降も続き、カゼをひきやすいなどの不調も起こりやすくなります」(岡尾さん)
また、夏はたくさんの汗をかくことから、体の潤い成分である血・津液の両方が少なくなって、体内が水分不足になりやすいのだとか。
「血と津液が枯渇したまま秋、冬を迎えると、肌や髪が乾燥し、小じわや髪のパサつきといった悩みが深刻化します。さらに、気の不足によって新陳代謝も衰えますから、夏バテを放置すると一気に老化が進むリスクが高まると言っていいでしょう。特に、加齢による変化を実感している年代の方は要注意です」(岡尾さん)
健康のためにも美容のためにも、起こさない、長引かせないを意識したい夏バテ。そこで取り入れたいのが、食事で体のバランスを整える「食養生」です。
東洋医学に「医食同源」という言葉があるように、毎日の食事は、疲れやすい夏の体を整えるためにとても重要。岡尾さんに、夏バテ予防のために取り入れたい食べ物や食事法について教えてもらいます。
今日から実践!夏の食養生
岡尾さんによると、夏バテ予防で取り入れたいのは「脾胃(消化機能)の働きを助ける」「お腹を温める」「水はけをよくする」「血や津液を補う」「体の熱を取り除く」という作用を持った食べ物です。
■脾胃(消化機能)の働きを助ける食べ物
脾胃(消化機能)の働きを助けることで、エネルギーである気を補うことができます。
【脾胃(消化機能)の働きを助ける食べ物】
米、キャベツ、ブロッコリー、かぼちゃ、いも類、きのこ類、鶏肉、牛肉、サバ、いわし、かつお、はちみつ、ローヤルゼリーなど
中でも、夏バテ予防におすすめなのは山芋です。漢方では「山薬」という生薬で使われていて、気と潤いを一緒に補えるという特徴があり、老化防止にも一役買ってくれます。
「すりおろしてとろろにして食べるのはもちろん、加熱してもおいしいので味噌汁やスープに入れたり、肉じゃがやポテトサラダを作るときにじゃがいもの代わりに使うのもおすすめです」(岡尾さん)
■お腹を温める食べ物
消化器官などを温める食べ物は、冷房や冷たいものの取り過ぎによる冷えを防ぐと同時に、お腹を温めて胃腸の働きを助けます。
【お腹を温める食べ物】
唐辛子、ニラ、シナモン、しょうが、こしょう、山椒、鮭、アジ、黒砂糖など
七味唐辛子や山椒は、味噌汁やそばのトッピングに使えば手軽に取り入れられます。シナモンも、コーヒーや紅茶、トーストなどに振りかけて使えますよ。
■水はけをよくする食べ物
体に停滞した余分な水分を排出する働きのある食材は、体の水はけをよくしてむくみを防ぎ、重だるい症状の緩和につながります。
【水はけをよくする食べ物】
とうもろこし、黒豆、そら豆、枝豆、冬瓜、ハト麦、レタス、はまぐり、豆乳など
「夏バテ予防で特におすすめなのは、ホットの黒豆茶です。黒豆茶は利尿作用がある他、血を補い、血のめぐりをよくするとされていますから、むくみ予防や乾燥対策、血行不良の改善にも役立ちます。温かい黒豆茶を食後に飲むのを習慣にするのもいいですね」(岡尾さん)
■血や津液を補う食べ物
体の潤い成分である血と津液を補う食べ物は、汗で失われた水分を補給し、乾燥を防ぐ働きがあります。
【血や津液を補う食べ物】
にんじん、ほうれん草、小松菜、ぶどう、ピーナッツ、ごま、豚肉、卵、乳製品、はちみつなど
中でもごまは、ちょい足しでも使えるので取り入れやすい食材です。硬い殻に包まれているので、すりごま、練りごまで取るのがポイント。また、中医学の世界で生薬に分類されているはちみつも、体の潤いを補う効果が高いおすすめ食材なのだそう。
「夏場なら、スライスしたレモンにはちみつをかけた『はちみつレモン』で取り入れてみては? 漢方には『酸甘化陰(さんかんかいん)』という言葉があり、酸っぱい味と甘い味が合わさると潤いに変わるとされています。レモンの酸味は、汗のかき過ぎを抑える働きも期待できますよ」(岡尾さん)
■体の熱を取り除く食べ物
夏野菜など、熱を冷ます作用のある食べ物は暑気払いに役立ちます。
【体の熱を取り除く食べ物】
トマト、なす、セロリ、スイカ、きゅうり、ゴーヤ、メロン、豆腐、緑茶など
特に、スイカ、きゅうり、ゴーヤなどの瓜類は利尿作用もあるので、暑さと湿気の両方の対策に役立ちます。ゴーヤのように苦みのある食材は、熱を冷ます作用がより高いそうです。
夏バテ予防のために控えたい食べ物
夏バテ予防につながる食事では、できるだけ控えたいものもあります。それが、「冷たいもの」と「甘いもの」。
「暑いからと冷たいそうめんやうどんで食事をすませたり、冷えた麦茶やジュースを飲む生活が続くと、胃腸が冷えて消化不良を起こしやすくなります。
また、東洋医学では甘いものを取り過ぎると脾が消耗するとされています。冷たくて甘いアイスクリームを毎日食べたりすると胃腸がさらに弱ってしまいますから、食べ過ぎには注意しましょう」(岡尾さん)
冷たいものを食べた後はホットの黒豆茶を飲んだり、甘いものを食べたいときははちみつをうまく使うなど、ちょっとした工夫でも体の負担が軽減されます。いつもの食事を少し見直して、疲れやすい夏の体を労わっていきましょう。
夏バテ症状には薄味で温かい食べ物を
最後に、夏バテの症状が出てしまってつらいときの食事法についても教えてもらいました。
夏バテでしんどいときの食事で意識したいのは次の2つです。
■消化のよいものを食べる
「温かいおかゆやスープなど、消化の負担が少ないものを食べるようにしましょう。味付けはなるべく薄味に。脂っこいものは胃腸に負担をかけるので控えます。
食欲がないときは、肉類より野菜の方が食べやすいはずなので、スープに使う具材も野菜を中心にするといいですね」(岡尾さん)
■ビタミンB1が豊富な食べ物を
「夏バテの主な原因の一つに、そうめんやうどんといった糖質中心の食事による栄養不足があります。こうしたときに不足するのは、糖質の代謝に必要なビタミンB1。ビタミンB1は玄米、大豆、豚肉などに多く含まれています。豚肉も脂の少ない部位であれば消化の負担が少ないので、無理のない範囲で取り入れていくと体力回復の助けになります」(岡尾さん)
なお、夏バテでしんどいときは、おかゆやスープなどのレトルト食品を利用するのも一つの手。
「夏バテしてしまうと、料理をするのも億劫になると思います。こういうときは、まずは休養や睡眠を取ることが先決。手軽に食べられるおかゆやスープ、味噌汁などのレトルト食品もうまく活用して、体を休める時間をしっかりと取りましょう」(岡尾さん)
季節に合った食養生は、健康な体づくりを助けてくれます。過酷な夏を乗り切るために、毎日の食事から疲れ知らずの体を目指していきましょう!
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