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- 認知症の人に言ってはいけない言葉&接し方のポイント
認知症の人と接するときには、本人に言ってはいけない言葉・やってはいけないことに注意することが大切です。出来事を忘れても「感情」は長く残り続けるため、不用意な発言が悪化を招くことも。注意点やコミュニケーションのポイントを解説します。
認知症のケアではコミュニケーションが大切
認知症の人と接する上では、コミュニケーションが非常に重要です。
コミュニケーションの重要性について考えるときにまず知っておきたいのが、「認知症とはどんな症状なのか」ということ。
認知症の症状は大きく分けて「中核症状」と「周辺症状」の2種類があります。
- 中核症状
病気などが原因で脳の機能低下が原因となり起こる症状。記憶障害、見当識障害、理解力や判断力の低下、実行機能障害など - 周辺症状
中核症状が原因となって起こる二次的な症状。不安や抑うつ、徘徊や妄想、睡眠障害など
中核症状は、病気などが原因で脳の機能低下が起きた結果、起こる症状です。
一方、周辺症状は、本人の性格や人間関係、ライフスタイル、生活環境など複数の要因が症状に影響しています。本人を不安な気持ちや悲しい気持ちにしたり、怒らせたりすると、それが認知症の症状悪化につながることも。
人はそれぞれ個性があり、性格やこれまでの経験、好き嫌いなどが異なります。
そのため、「認知症の人とのコミュニケーション」に正解はありませんが、多くの場合で共通する「言ってはいけない言葉」や「やってはいけないこと」はあります。
普段認知症の人と接する機会がないと、どうしても戸惑ってしまうものです。認知症の介護では「症状を理解することの難しさ」が非常に大きな問題の一つといわれています。
適切な対応ができるよう、認知症について理解を深め、コミュニケーションを取る上で注意したいポイントを知っておきましょう。
物事を忘れてしまっても「感情」は心に残り続ける
認知症では、自分が行動したこと・話したこと・聞いたことを忘れてしまう「物忘れ」の症状が見られます。しかし、出来事は忘れてしまっても、それに伴う「感情」はしっかりと残り続けます。
これを「感情残像の法則」といい、抱いた感情はまるで残像のように長い期間続くといわれています。
強い口調での忠告や無理な説得は、たとえそれが本人のためと思ってしたことだとしても、「この人は怖い、怒鳴られた」など負の感情だけが残ってしまう可能性が高いため注意が必要です。
反対に、良い感情も残ります。穏やかに対応すれば、「優しくされた、楽しい、嬉しい」など良い感情が残り続けることになります。
認知症の人に言ってはいけない言葉
認知症の人と接するときに注意したいのは、以下のような言葉です。
- 否定する言葉・現実を突きつける言葉
- 間違いを無理に正す言葉
- 強制する言葉・脅かす言葉
- 急かす言葉・ペースを乱す言葉
- 責める言葉・バカにするような言葉
- 試す言葉
- 尊厳を傷つける言葉
ここからは、それぞれの言葉について詳しく見ていきましょう。
否定する言葉・現実を突きつける言葉
認知症では、食べたはずの朝食をまた食べたいと言う、借りてないはずのお金を返してほしいと言う、退職したはずの仕事に行こうとするなどの言動が見られることがあります。
そんなときに「ご飯はさっき食べたばかりでしょう」「お金なんて借りてないよ」「仕事はもう辞めたよね?」など、本当のことを伝えるのは避けましょう。
本人には間違っている認識はなく、自分が言ったことを事実と感じているためです。周囲の人が現実を突きつけると、本人を混乱させてしまうことになります。
「ご飯の用意をしてるからもうちょっと待っててね」など、本人の世界に合わせた対応をするといいでしょう。
間違いを無理に正す言葉
間違いを無理に正す言葉にも注意が必要です。周囲から見ると間違った行動に見えても、本人は「なぜそれをするのか」という理由をしっかり持っています。
そのため、間違ったことをしたときに「そんなことしたらダメ」「それは◯◯じゃないよ」と間違いを無理に正そうとすると、恥ずかしい気持ちにさせたり、怒らせてしまうことがあります。
間違いを否定して無理に正そうとせず、その行動の背景に寄り添った言葉をかけるといいでしょう。
強制する言葉・脅かす言葉
本人の気持ちを無視して「早くこっちに来て座って」「お風呂入らないと体がかゆくなるよ」など、強制したり脅かす言葉をかけると信頼関係に影響するため注意が必要です。
例えば食事を拒否している場合、「口内炎があって痛い」「体調が悪く食欲がない」などの理由があるかもしれません。拒否するのには、本人なりの理由があります。理由を聞いた上で対策すれば、介護もスムーズに行いやすいでしょう。
急かす言葉・ペースを乱す言葉
何かをするのに時間がかかってしまっているときに、急かしたり焦らせたり、ペースを乱す言葉をかけることは避けましょう。
認知症になると、これまでは簡単にできていたことでも時間がかかり、うまくできなくなります。自分でももどかしさや不安を感じている中、周囲から急かされると自信を失い、意欲低下につながってしまうことも。
気持ちに余裕を持って見守り、あまりに時間がかかってしまうようであれば、助けが必要かどうかを尋ねてみるといいでしょう。
責める言葉・バカにするような言葉
「どうしてそんなこともできないの?」「(物を盗まれたという言葉に対して)自分でどこかに置いて忘れてるんじゃないの?」のような責める言葉やバカにするような言葉も、認知症の人の心を傷つけてしまうためNGな言葉です。
認知症では「物盗られ妄想」が見られることもありますが、本人は事実だと思っています。「一緒に探してみようか」と伝えたり、別の話題を振ったりするといいでしょう。
試す言葉
家族に認知症の傾向があると、ついやってしまいがちなのが「今日、何月何日かわかる?」「ここがどこだか覚えてる?」など試す言葉をかけることです。
病院では、認知症の症状の進行段階の確認のために時間や場所を正しく把握できているかの検査を行いますが、それを家族や周囲の人にまでやられるとプライドが傷つき、ストレスになってしまいます。
尊厳を傷つける言葉
本人の前で排泄の話や介護の愚痴、もの扱いなど、尊厳を傷つける言葉は、心を深く傷つけてしまうことになります。
言われた言葉や出来事の事実関係は把握できなくても、傷ついた悲しい気持ちは残り続けます。それが意欲低下や気分の落ち込みなどにつながることもあるため、十分注意しましょう。
認知症の人にやってはいけないこと
認知症の人と接するときは言葉と合わせて、接し方にも注意が必要です。
- できることを奪ってしまう・子ども扱いする
- 行動を制限する
- 励まし過ぎ
特に注意したいのが、上記の点です。ここから、詳しく解説します。
できることを奪ってしまう・子ども扱いする
家事や趣味、仕事など、認知症になるとこれまで当たり前にできていたことがスムーズにできなくなってしまいます。
しかし、時間をかけ、周囲のサポートがあればできることもたくさんあります。
できることまで奪ったり、子ども扱いしたりすると、「自分はもう必要ない」「私はこんなこともできなくなってしまったんだ」と自信を失わせてしまい、さらに脳の刺激や運動の機会が減り、認知機能の低下につながる恐れも。
自分の役割や責任を果たすことは達成感や自己肯定感の向上につながり、プラスの効果が期待できます。
行動を制限する
認知症の人の行動を制限すると、孤独感が高まり、周囲の人や社会との関わりが減ってしまい、症状が悪化してしまう可能性があります。
認知症の人の徘徊に困っている場合は、無理に行動を制限するのではなく、危険のないよう環境を整えたり、見守ったりして対処することが大切です。
- 玄関にセンサーを設置して徘徊のタイミングがわかるようにしておく
- 持ち物にGPS端末を入れておく
- 身につけるものに名前と連絡先を書いておく
- あらかじめ近隣の交番に協力を依頼しておく
常に見守るのは難しいため、上記のような対策が有効です。
励まし過ぎ
初期の認知症の場合、以前できたことができなくなってしまったことを自覚し、焦りや不安を抱えていることも多いです。
何度も強く励ますことは、見方を変えれば「まだできていない」「もっとがんばらなくてはいけない」というとらえ方もできます。
自分のがんばりが否定されているような気分にさせたり、不安を強くさせてしまう可能性があるため注意しましょう。
認知症の人との接し方・コミュニケーションのポイント
言ってはいけない言葉や、やってはいけないことに注意することに加えて、以下のようなポイントを押さえておくと、スムーズなコミュニケーションにつながります。
- 話をよく聞いて気持ちを理解する
- 感謝・共感・肯定の3つを意識する
- 前もって対応や言葉を準備しておく
それぞれ、詳しく解説します。
話をよく聞いて気持ちを理解する
認知症では物忘れが多く見られますが、何もかも忘れてしまっているわけではありません。自分の症状についてある程度理解し、できないこと・忘れてしまうことに対して不安や悲しい気持ち、葛藤を抱えています。
「理解したい」という気持ちを持って本人の話にしっかり耳を傾けることが大切です。
また、話をするときは目線を同じ高さにしましょう。そうすることで誠実な気持ちや対等な関係として接していることが伝わります。
感謝・共感・肯定の3つを意識する
認知症の人とのコミュニケーションのときに大切なのが、以下の3つの言葉です。
- 【感謝する言葉・褒める言葉】
「ありがとう。助かったよ」「上手だね」 - 【共感する言葉】
「大変だったね」「ご飯おいしかった?よかったね」 - 【肯定する言葉(事実でない場合も認める)】
「そうなんだね」「教えてくれてよかった」
「そうなんだ」「よかったね」「私もそう思う」など相槌を打ち、共感や肯定を示すと「この人は私の話を聞いてくれる人だ。理解してくれるんだ」と安心でき、信頼感が高まります。
また、何かをしてくれたときは「ありがとう」「さすがお母さん(お父さん)、すごいね」など感謝を伝えると、本人の自信につながります。
前もって対応や言葉を準備しておく
介護は、精神的にも身体的にも負担がかかるものです。
介護をする側も余裕がなくなり、ダメだとわかっていてもどうにもならず、強い言葉が出てしまいそうになったり、今は優しく対応できないと判断し無視してしまったりすることもあるでしょう。
不適切な対応を回避するためには、前もって対応や言葉を準備しておく対処が有効です。
例えば「今度の病院はいつ?」と聞かれたときに「さっきも教えたでしょ。何度も言わせないで!」と言ってしまうのであれば、あらかじめカレンダーに日付を書いておき「カレンダーに書いてあるからね」と伝えるなどです。
有効な対応は状況によって変わってきますが、先回りして対応を用意しておくことで余裕を持って対処しやすくなります。
認知症の人と接するときに気を付けたいこと
ここでは、認知症の人と接するときに気を付けたいことを紹介します。
自分だけ・家族だけでがんばり過ぎないようにする
認知症の家族の介護が必要になったとき、自分だけ・周りの家族だけでがんばり過ぎず、外部のサポートを頼ることも大切です。
「家族だけでなんとかしないと」と抱え込んでしまうと介護負担が大きくなり、孤立や精神的に追い詰められることにつながります。
介護サービスを上手に活用して余裕を持つようにすれば、介護をする側も心に余裕ができるでしょう。
自分自身の心のケア・ストレス解消も忘れずに
厚生労働省が公表する『平成28年国民生活基礎調査の結果』によれば、在宅介護を行っている女性の72.4%、男性の62.0%が、悩みやストレスがあると回答しています。
介護疲れや、それが続くことで起こる介護うつを避けるために、介護サービスなどで負担を軽減しつつ、相談相手を見つける、ストレス解消をするなど自分の心をケアすることも大切です。
認知症の人を尊重する言葉や話し方をすることが大切
認知症の人は何もかもすべて忘れてしまうわけではありません。言葉や行動自体は忘れてしまっても、そのときに感じた感情は残り続けることになります。
否定する言葉や責める言葉、強制する言葉などは本人の心を傷つけ、不安を強くし、認知症の症状を悪化させるきっかけとなることも。
注意したいポイントに気を付けつつ、個性やそのときの状態に配慮したコミュニケーションを心がけてみてください。
監修者プロフィール:渡邊 耕介さん
桜木町駅から徒歩1分、横浜の野毛で『のげ内科・脳神経内科クリニック』を開業しております。頭痛、パーキンソン病、てんかん、認知症が専門です。訪問診療も行っております。4月よりパーキンソン病のリハビリを行い、地域医療に貢献することを目標にしております。
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