私らしく、美しく。
尾上菊之助「憧れ、高みを目指す人は美しい。だから襲名の重圧はなく感謝」
尾上菊之助「憧れ、高みを目指す人は美しい。だから襲名の重圧はなく感謝」
公開日:2025年05月13日
「型」の先に、自由がある
―襲名披露公演は5月2日からの歌舞伎座から。昼の部では、『京鹿子娘道成寺』を踊る。菊之助さん、丑之助さん、そして坂東玉三郎さんが加わって、3人による「白拍子花子」という趣向だ。

女方の最高峰である玉三郎のお兄さんには、私自身、本当に多くのことを学び、成長させていただきました。丑之助(11歳)が一緒に踊らせていただくというのは本当にありがたいことで、彼にはとても貴重な時間になると思っております。
先輩方とお芝居をすると、自分の力以上のものが出ます。先輩方が作り出してくださる空気に乗れる。それが一番大きいのだと思います。
―菊之助さんは、女方も立役も幅広く兼ねる存在として知られている。どのように演じ分けているのだろう。

女方も立役も、一人の人間になるという点では同じです。女方は性を超えますから表現方法はより複雑になりますが、立役が単純かというと決してそうではありません。今とは違う骨格、動き方、精神性、そういったことをすべて学んで、初めて自分というものを捨てて役になりきることができる。それは女方も立役も同じです。
歌舞伎には「型」があります。型を学ぶとは、先人たちが苦心惨憺(くしんさんたん)して搾り出して来た知恵や経験をいただくということです。だから、繰り返し稽古する。やり込んでやり込んで、やり込んでやり込んで、100%できたかできないかぐらいまでになって、やっと自分というものが出てくる。型が自然と自分のものになってくると、自由になるんです。
だから息子には、どうしても細々と教えてしまいます。父(七代目菊五郎)の指導法は大づかみに説明し、あとは自分で考えさせるというものだったように思うのですが、私は細々と教えてしまいます。
型を通して先人たちの精神を受け継ぎ、その上で自分の心情で芝居をする。そういうふうになってほしいから、外れたことをすると「そこは違う」と言ってしまうんです。丑之助も、父の教え方はこういうものだとわかっていると思います。もう少し成長したら稽古方法も変わってくるでしょうけれど、今はとにかく素直にきちっとその役に向き合ってほしい。それが基本ですから。
「美しい人」だから、重圧にならない
―尾上菊五郎家の屋号の「音羽屋」は、歌舞伎界を代表する「名門」とされる。そういう家に長男として生まれた重圧を感じることはありませんでしたか、と尋ねたところ、「美しい人とは?」という話になった。

重圧というのを感じたことは、あまりないですね。
「美しい人」とはどういう人だろうかと考えると、自分の憧れたものや憧れた道、その高みを目指している人なのではないかと思っているんです。
父や祖父(六代目菊五郎)の芝居や踊りを見て、ああいうふうになりたいと憧れておりました。歩いても歩いても、追いかけても追いかけてもたどりつけない。そのような境地を見せていただきました。その姿を見せてもらえる、そのような道を歩いている。そのことに、ずっと感謝をしてきました。だから重荷というふうに考えたことがない。それが自分と音羽屋なのかな、と思いました。
菊之助を襲名するときは、自信がなさ過ぎました。歩いている道の先にあるものが大き過ぎて、菊之助を継いだときに自分はどうなるのだろう。そんなふうに思い悩みました。それで「今はまだ難しい、1年待ってください」と言ったのですが、やればよかったですね。あのときの自分に会えるなら、「自信なんて後からつくものだから、やれるだけのことをやりなさい」と言いたいです。
―菊之助さんの「菊之助」襲名は18歳、今回、丑之助さんは11歳で襲名する。

私が襲名を待ってもらっている間に、祖父が亡くなってしまいました。今回、父から丑之助に菊之助を継がせようと話があったとき、父が元気なうちにと私も思いました。「まだ丑之助でいたいな」と言っていた息子も、最後は「やります」と言ってくれました。
1年間、来年の夏まで襲名の興行は続きます。体力的にも精神的にも、過酷だと思います。体調管理も大変ですし、演じるのも大人の演目ばかりです。去年の夏から稽古を始めています。しっかりとお客さまにお見せできるよう、親子ともどもがんばろうと思っております。
―「菊之助」襲名時と「菊五郎」を襲名する今の心境の違い、そして丑之助さんへの思いを語ってくれた菊之助さん。記事後半では「音羽屋」のプリンスの美容法、そして「自然の美と作られた美」、二つの異なる美しさについて、歌舞伎俳優ならではの視点で教えてくれた。真剣な眼差しから自然な笑顔まで、「美しい」写真7種も必見だ。
乾燥は敵、秘訣は半身浴
―菊之助さんにお目にかかって驚いたのが、肌の美しさ。思わず尋ねたのが、「毎日、白粉(おしろい)でお化粧をして、どうしてキープできるのですか?」

顔にも体にも白粉を塗りますから、すごく乾燥します。油分をもっていかれる感じですね。乾燥してしまうと翌日、白粉がつかないんです。だから乾燥させないようにだけは気を付けています。楽屋にも家にも加湿器を置き、湿度はいつも意識しています。
白粉はよく落とす。それに尽きます。クレンジングはいろいろ試して、今は「アルティム8∞ スブリム ビューティ クレンジング オイルn」(シュウ ウエムラ)というのが合っている気がしています。丑之助も使っています。オイリーさから初めはちょっと嫌がりましたが、「乾くと白粉がつかないよ」と言って使わせています。
―他に潤いを保つ秘訣はありますか?

入浴ですね。気分もリラックスするし、湿度も保てると思います。長いときは30分近く浸かります。半身浴派ですね。湯船は心臓から下で、肩は冷やすとよくないので、タオルをかけてゆっくりと入ります。おすすめですよ。
自然の美しさ、作られた美しさ
―3月、菊之助さんが歌舞伎座で演じたのは塩冶判官だった(「通し狂言 仮名手本忠臣蔵」)。切腹して倒れた形で、微動だにしない姿が印象的だった。そんなつたない感想を口にしたところ、「そうですね、抑制された動きですね」と言ってから――。

切腹という儀式を芝居に落とし込んでみせるって、すごいことですよね。歌舞伎に残っている限り、切腹というものが後世に残っていく。その形をただいただくのでなく、発展させて伝えるのが古典芸能であり、襲名だと思います。祖父が塩冶判官を得意としていましたから、映像を繰り返し見て舞台に立ちました。
美しさって、さまざまですよね。先ほど(動画撮影で)「美しさとは?」という質問がありました。「自然です」とお答えしました。でも「美」には、作られていない自然の美と作られた美、二つあると思うんです。
自然の美しさは「企みがない美」で、大好きです。山に行くのも見るのも、雲を見るのも好きです。そんな「自然の美」を形に落とし込んだのが、歌舞伎の衣裳だと思っています。「動く錦絵」とも言われますが、色、柄の配置などから季節はもちろん、その役柄の心情までも表します。だから「作られた美」も、「自然の美」と同じく素晴らしい。そう思っています。
歌舞伎は、江戸時代の文化が最も花開いたときに発展しました。ですから衣裳に限らず、それを形作るすべてに職人の知恵が詰まっています。舞台美術も、音楽も、鬘(かつら)も、かんざしも、お侍の刀も、すべてがそうです。
日本の芸術の最高峰がぐっと集まったもの。それが歌舞伎だと思っていただいていいのではないでしょうか。
取材・文=矢部万紀子 写真=岡本隆史 ヘアメイク=高草木剛(VANITES) 企画・構成=橘美波(HALMEK up編集部)
【6月7日、24日】ハルメク歌舞伎鑑賞会「八代目尾上菊五郎襲名披露公演」開催

毎回大人気のハルメク歌舞伎鑑賞会。今回は新・菊五郎の誕生に立ち会えるプレミアムな公演をお届けします。
内容
2025年5月に尾上菊之助さんが八代目尾上菊五郎を、そして長男の丑之助さんが六代目菊之助を襲名。江戸時代から連綿と続く歌舞伎の名門「音羽屋」の八代目尾上菊五郎襲名という、まさに「今」しか見られない舞台です。文化継承される瞬間をその目で見届けてください。
詳細は下記ページをご覧ください。




