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- 「こうあるべき」をはみ出て生きた画家・秋野不矩さん
「ハルメク」でエッセイ講座を担当する随筆家・山本ふみこさんが、心に残った先輩女性を紹介する連載企画。今回は、画家「秋野不矩」さんです。5男1女の母でありながら、最後まで旅をしながら描き続けた母として、画家としての規格外の生き方とは……。
好きな先輩「秋野不矩(あきの・ふく)」さん
1908-2001年 画家
静岡県生まれ。官展で実績を重ね、戦後、新しい日本画の創造を目指す。62年に大学客員教授としてインドに滞在した後、渡印を重ねて作品を描く。アジアやアフリカを旅し、93歳で亡くなるまで絵筆を執り続けた。
晴れ晴れとはみ出す生き方
これこそは宝物だと思う1冊の本、それが『きんいろのしか』(福音館書店刊)です。秋野不矩60歳(絵)、石井桃子(いしい・ももこ)61歳(再話)のときの作品です。
バングラデシュの昔話がもとになっている(ジャラール・アーメド案)このうつくしい本を手にしてから2週間後、東日本大震災が起こり、わたしは東京の家で被災地を思って、ろうそくの火を頼りに暮らすようになりました。
そのとき『きんいろのしか』が家のまんなかで、静かな光を放っていたことをいまでもはっきりとおぼえています。
秋野不矩と聞いてすぐに浮かぶのは、〈自由〉ということばです。画風にも人生にもそれはあらわれていて、からだ全体、魂全部をつかって描き、生きたひと、と思います。
画家とはこうあるもの、母親とはこうあるもの(不矩には5男1女があります)なんてこととは無縁でした。世の中とは大抵こうなってございます、ということがあったとしても、そこからはきっぱりと、晴れ晴れとはみ出していました。
それが証拠に、秋野不矩の絵の前に立っていると、せせこましいことに馴れたこちらまで、のびのびとしてくるのです。
のびのびと自由に!今後を生きる
ところで『きんいろのしか』、これは、踊ると金を生みだすことができるかしこい鹿と、やさしい男の子の物語です。本には、1通の手紙がはさんであります。
「秋野不矩美術館が天竜(静岡県浜松市)にあります。故郷に建ったすばらしい空間です。画家ご自身がとても気に入られていたそうです。ぜひいらしてみてください。できたら晩年のインドをモチーフにした作品を多く展示している時期にいらして、木の床に寝ころんで見上げてみてください」
この本をわたしに贈ってくれた、友人でもあるわたしの先輩のメッセージなのです。先輩とは、なんとありがたいものでしょうか。
浜松市秋野不矩美術館への訪問はいまだかなってはいません。この先、どうかかないますようにという思いを灯しながら、わたしはこれを書いています。それもまた、よきかな。
54歳の年インドと出合い、晩年秋野不矩の創作活動はいよいよ輝きを増したそうです。あやかろうではありませんか。のびのびと好きにやろうではありませんか。
随筆家:山本ふみこ(やまもと・ふみこ)
1958(昭和33)年、北海道生まれ。出版社勤務を経て独立。ハルメク365では、ラジオエッセイのほか、動画「おしゃべりな本棚」、エッセイ講座の講師として活躍。
※この記事は雑誌「ハルメク」2017年4月号を再編集し、掲載しています。
>>「秋野不矩」さんのエッセイ作成時の裏話を音声で聞くにはコチラから
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