精神科医・森川すいめいさんの生きやすくなるヒント2

人に対する見方を変えれば人付き合いはラクになる

公開日:2021/07/02

更新日:2021/07/08

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精神科医の森川すいめいさんが「生きやすくなるためのヒント」をお伝えする連載2回目は、人間関係がラクになる「人物本位」という考え方について教えてもらいます。偏見・肩書きで人を見るクセがあると、あなた自身の生きづらさにつながるんです。

自殺で亡くなる人の少ない地域では、偏見を持たず多様性を認めている

自殺が少ない地域では、偏見を持たず多様性を認めている

こんにちは、精神科医の森川すいめいです。前回は、主に悩みを抱えているときの助けられ方についてお話をしましたが、今回は他者を知るということについてです。相互に理解することがうまくできると、もっと人付き合いが楽になるかもしれません。

岡檀(おか・まゆみ)さんによる研究では、自殺希少地域にある自殺予防因子として、前回で紹介した「病、市に出せ」と「ゆるやかにつながる」の他に「人物本位」「多様性を重視する」ということも挙げられています。

人を肩書きで見ないで人柄やその人の持つ力で見るということと、異質なものや異端なものへの偏見を持たずに多様性の存在を認めるということです。

私は旅に出たら、旅先で自分の職業のことは明かさないようにしています。「精神科医」のイメージは強いので、そこで知り合った人とのコミュニケーションには必ず「精神科医」というフィルターが入ってきてしまうからです。すると途端に、旅は楽しくなくなります。ところが、自殺希少地域では私が精神科医という「異物」であると知られても、彼らが態度を変えることはありません。

「精神科の医師が来たよ」ではなく、「森川すいめいという人が来たよ。精神科の医師なんだって」と捉えてくれますし、人が多様であるのを知っているので、みんなと異なるものへの偏見も少ないからだと思います。
 
 

レッテル貼りがその人自身の人生を奪ってしまうことも

病名が、その人自身の人生を奪ってしまうことも

前回、精神科医療が抱えている診断と薬中心の医療の問題についてお話をしました。それは、医師はひとたびうつ病などと診断をすると、うつ病という病気に薬のみで治療を行いがちになるということですが、逆に自殺希少地域に暮らす人たちは人物そのものを見ることが上手です。

例えば、近所のおじいさんがうつ病だとしたら、「うつ病のおじいさん」ではなく、「おじいさんがうつ病になった」と捉えます。うつ病になる以前からおじいさんの人生はありますし、その人生について周囲の人は知っています。

そして、おじいさんには大切にしていることがあることも理解しているので、その人の背景に注意を向けることができます。病気を見るのではなく、本人を見ることができれば、「何言っているの? がんばりなさいよー」などと声をかけることができますし、「早く病院で診てもらいなさいよ」と言うことまでできてしまうようです。

"その人のため"ではなく"自分"がやりたいからと考えてみる

神津島の様子

自殺希少地域の一つ、東京都の神津島(こうづしま)にフィールドワークに行ったときのことです。洋菓子店を訪れると、お店には1個250円のおいしそうなケーキが並んでいました。「安いですね」と話しかけると、「これくらいにしないと売れないんだよ。食べていくのに精いっぱい」とお店の方は答えます。

そしてその後で、この洋菓子店をすすめてくれた雑貨店に戻ると「どうだった?」と聞かれました。「安かったです。でも経営は厳しいそうです」と伝えると、「そう。とてもおいしいのよ。だからみんなで順番に買いに行っているの」と答えます。

周りの人たちが心配して買い支えている面もあるのかなと私は感じましたが、ケーキを買いに行っている島の人たちは自分がそうしたいからするのだと言います。

神津島では、その人がその人らしく生きることが大切にされていて、相手を変えようとしませんし、変えられないこともよくわかっているように感じます。

他人はわからないものだからこそ、踏み込むことができる

他人はわからないものだからこそ、踏み込みすぎることも

ここまでいい面を紹介してきた自殺希少地域も、決して「天国」というわけではありません。数は少ないですが、自殺で亡くなる人はいますし問題も起きます。

それでも違いを感じたのは、自殺で亡くなる人がいた場合、家族を訪ねて自殺に至った背景を確かめに行ったりする人がいるところです。触れてはいけないものと思ってそのままにするということをせずに。

自殺希少地域の人たちは、人は多様であることを知っているので、他者と接するとき、「他人はわからないもの」という前提に立っています。だから知ろうとするし、何かが起こった場合、その起こったことを決まった見方で片付けることをよしとはしないのだと思います。

また、その上で自分ができることを探しているようでもありました。

人間関係をたくさん経験すれば偏見・肩書きで人を判断しなくなる

人間関係をたくさん経験すれば偏見・肩書きで人を判断しなくなる

どうすれば、人物本位の視点を持つことができて、いろんな人がいていいと考えられるようになるのでしょうか。

自殺希少地域のフィールドワークに行くと、いろいろな人に話を聞きます。もちろん、その話の中には近所の人の陰口や悪口もないわけではありません。でも、それがヒートアップして、陰湿ないじめに発展することはない印象を受けます。

どの程度まで言えるものなのか、何度も試してきたことで加減を知っているのでしょう。人との上手な距離のとり方は人間関係をたくさん体験することでしか得ることはできないからです。

夫を亡くした80代の女性がいました。今まではご主人と二人の世界だったので、孤立しないようにと自殺希少地域の話を紹介しました。彼女はさっそく実行しました。

初め、60代・70代の人たちの集まりに参加したら、「若い人とは意見が合わない」と言いに来ました。でもその後、夫を亡くした自分のことを心配してくれていた人に出会ったり、同じように孤立している人とも知り合ったり、積極的に人と接することで、さまざまな体験を積むことができ、人と話をしたからこそ、「意見が合わなかった」体験も含めて、「多様な人々」を知ることができたと言います。そして今、その女性は孤立せずに暮らしています。

自殺希少地域は「対話」を大切にしている

精神療法も自殺希少地域も「対話」を大切にしている

自殺希少地域を回っているのと同じ頃、私は「オープンダイアローグ」というものと出合いました。前回にお話しした、とにかく精神の病とともに生きる人の話に耳を傾けるというフィンランドの心のケアの取り組みです。

そこで行われていることは、偶然にも自殺希少地域で実践されていることと通じるところがあると感じました。彼らが大切にしていることは「対話」です。

対話とは人の話を丁寧に聞き、自分の話を丁寧にして、話すことと聞くことを丁寧に重ねていくことです。オープンダイアローグでは、心の病のきっかけとなるようなことを含めて、問題は人と人の間に起こるものと考えます。だからその問題を解消するために、丁寧に対話を続けていきます。

他者を認め、理解するための5つの心構えと行動

他者を認め、理解するための5つの心構えと行動

心構え1:人物本位

行動:人を肩書きで見ない
人にレッテルを貼らないようにしましょう。レッテルを貼ると個人と向き合わなくても物事が進むこともあって効率的ではありますが、人の本質を見ることができなくなってしまいます。肩書きを取っ払い、その人自身を見ましょう。

心構え2:相手は変えられない

行動:山や海へ行く
山や海や森など自然を前にすれば、自分ではどうにもできないものがあることを体感します。相手は変えられない存在だと認識できれば、変化するのは自分の方だと考えやすくなるでしょう。

心構え3:いろんな人間関係を経験する

行動:愚痴、悪口も言ってみる
極端ですが、悪口を言うのも一つの経験です。そこでどんなことが起こるのか。成功も失敗も経験を積むことで、自分がどうされたら嫌か、これ以上やると相手がつらいことになってしまうとか、加減がわかるようになっていくでしょう。ある日、私のクリニックで前向き発言禁止、愚痴しか言ってはいけない会議というのを試してみました。その後、互いの関係性がとても良くなった体験をしました。

心構え4:みんな違っていい

行動:新しい集団にも参加する
いつものグループではないところに参加すると、自分とは意見の違う人に出会う可能性が高くなります。最初は居心地が悪いかもしれませんが、それを続けるうちに自然と違いを楽しめるようになるかもしれません。相手を通して自分のことをより理解できるようになる機会も増えます。

心構え5:相手を知りたい

行動:対話をする
対話とは他人の話を丁寧に聞き、自分の話を丁寧にすることです。対話をすることでいろんな考え方があることを知り、人生経験が豊かになっていきます。人は多様であることを実感し、その違いを受け入れやすくなるでしょう。

最終回となる次回は、オープンダイアローグと対話について一緒に考えましょう。公開は、7月4日予定です。
 

森川すいめいさんのプロフィール

森川すいめいさん
もりかわ・すいめい 1973(昭和48)年、東京都生まれ。精神科医。鍼灸師。みどりの杜クリニック院長。老年期の内科・精神科の往診や外来診療を行う。ホームレス状態にある人を支援するNPO法人「TENOHASI(てのはし)」理事。「オープンダイアローグ・ネットワーク・ジャパン」運営委員。著書に、『漂流老人ホームレス社会』(朝日文庫)、『その島のひとたちは、ひとの話をきかない』(青土社刊)がある。

取材・文=井口桂介(ハルメク編集部)※この記事は、雑誌「ハルメク」2018年4月号を再編集、加筆しています。

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