今、心に響く瀬戸内寂聴さんの教え♯2

「独りの女性は絶対に応援する」寂聴さんが貫いた信念

公開日:2024.08.31

作品を通して多くの人に生きる力を与えてきた瀬戸内寂聴さん。40年近くにわたり親交のあった弁護士の大谷恭子さんは、重大な事件を担当するたびに寂聴さんに支えられてきたと言います。活動の原点となっている寂聴さんの言葉とは?

大谷恭子さんプロフィール

おおたに・きょうこ
1950(昭和25)年生まれ。弁護士。78年弁護士登録。永山則夫連続射殺事件、永田洋子連合赤軍事件、地下鉄サリン事件、重信房子ハーグ事件などに関わる。2016年、一般社団法人若草プロジェクトを発足し、困難を抱える若い女性を支援。20年7月、10~20代の女性が気軽に立ち寄れる相談室「まちなか保健室」を開設。

寂聴さんはどんなときも、味方でいてくれた

東京・秋葉原に近い「まちなか保健室」。寂聴さんから寄贈されたテーブルに、若い女性たちが集います

初めて瀬戸内寂聴先生にお会いしたのは、私が弁護士になりたてだった1984年。連合赤軍事件(※)の永田洋子(ながた・ひろこ)さんの控訴審の情状証人を瀬戸内先生にお願いするために寂庵を訪ねたときです。

83年の東京地裁での一審で永田さんの犯行は、「猜疑心、嫉妬心、敵愾心(てきがいしん)」「女性特有の執拗さ、底意地の悪さ、冷酷な加虐趣味」によるものとし、死刑判決を下されていました。

この判決は当時の世論を代弁したようなもので、裁判においても女性に対する偏見が強くありました。私はこの判決理由に納得がいかなかったのです。

瀬戸内先生は、女性蔑視がある実情を理解しておられ、「女性が一人で戦うのは本当に大変。でも、独りぼっちの女性は絶対に応援するわ」と、すぐに引き受けてくれました。

※1971年から72年、連合赤軍が山岳ベースで起こした、メンバー内で起きたリンチ殺人事件

若草プロジェクトは瀬戸内寂聴さんからの宿題

証言の日、先生は、革命や大きく時代が変化しようとするときに陥る過ちに触れ、その時代の責任について語ってくれました。

また命を落とした人への丁寧な思いも伝えてくださり、それでもなお、人が人の命を奪ってはいけないこと、国家もまた人の命を奪うことはできないと明確に死刑反対の立場を宣言してくれました。凄惨な連合赤軍事件の長い裁判の中でこの証言は、唯一最大の華だったと私は思っています。

その後、私は重大な事件の弁護を引き受けるたび先生に支えてもらいました。「幾百万の人が敵になっても被告人から絶対に離れるんじゃないよ。大谷のことは私が支えるから」と、言ってくれた先生の言葉は何よりも心強い、私の弁護士活動の原点になっています。

その後も先生の支えを後ろ盾に弁護活動をしてきました。死刑を避けられなかった重罪事件で、先生にお経をあげてほしいと言うと、「お経はいらないわ。祈りましょう」と言って私の手を握りしめてくれました。

テーブルは寂聴さんが執筆机として愛用していたもの。
「先生がこぼされたインクの染みも愛しいです」

「一人じゃない」孤立している女性に伝えたい

先生は90歳を超え、終活の話をするようになりました。「何か女性のためにできることはないかしら」と言うので調べると、貧困、虐待、性的搾取などで生きづらさを抱えた少女や若年女性が増えていることがわかりました。

私はこの話を瀬戸内先生にし、当事者の少女を寂庵に連れていきました。先生は少女の話をよくよく聞いてくれ、隙間なくリストカットの跡が刻まれた腕をさすりながら「よく生きてきたね、よくがんばったね」と少女の苦しみを労わってくださいました。

こうした少女・若年女性を支援しようと、私たちは「若草プロジェクト」を立ち上げました。気軽に寄れる居場所「まちなか保健室」や緊急避難先の設置、LINE相談など、支援が必要な人とつながる取り組みの他、支援する側もつながるための研修会などをしています。

寂庵のお堂で開催させていただいた研修会で先生は「女の子たちのためにがんばれ」と励ましてくれました。私は、先生が私にしてくれたように、社会で孤立する女性にこう伝えたいと思います。「あなたは一人じゃない。支える人も一人にしない」と。

【まちなか保健室】


住所:東京都千代田区外神田2-1-8
https://wakakusa-mh.net

瀬戸内寂聴さんのプロフィール

せとうち・じゃくちょう
1922(大正11)年、徳島県生まれ。小説家、僧侶(天台宗大僧正)。東京女子大学卒業。57年に『女子大生・曲愛玲』で新潮同人雑誌賞を受賞し、本格的に作家活動を開始。女流文学賞、谷崎潤一郎賞、野間文芸賞、泉鏡花文学賞など受賞歴多数。73年に得度。2006年、文化勲章受章。著書に『夏の終り』『美は乱調にあり』『源氏物語』(現代語訳)など多数。21年11月9日、99歳で逝去。

取材・文=大門恵子(ハルメク編集部)、撮影=中西裕人

※この記事は、雑誌「ハルメク」2023年11月号を再編集しています。

ハルメク365編集部

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