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- 残間里江子さん「終活は先に向かう前向きな行動」
「終活で大切なのは、向かう力があるうちに、あいまいに開いている扉を閉じておくこと」とプロデューサーの残間里江子さん。物やお金の整理だけでなく、心を整理し「これから」に向かう前向きな行動だと話します。終活についての考え方を教えてもらいました。
終活を意識し始めたきっかけは?
残間里江子さんが終活を意識し始めたのは、2016年にご両親の死後の片付けをした時だと言います。
「小説家志望だった母は、70代後半でシナリオ教室に通うほどの熱量の持ち主でした。介護のために息子と私が住む東京のマンションに呼び寄せた時も本や原稿が多く、全盲になってからも右手を振りかざして宙に文字を書いていました」
お母様が99歳で亡くなった時には、ダンボール350箱分の原稿や大切にしていた文学全集などがあり、その片付けに半年ほどかかったそう。シュレッダーを3つ壊したとか。
「父はその前に亡くなっていましたが、当時も戦友の写真などたくさん出てきて。誰かわからないのですが父にとっては大切な物だったと思うので、一応すべて拝んでから処分しました」
終活として自身の片付けを始めた
その後、ご自身の片付けを始めたと残間さんは話します。
「両親の物の片付けがあまりに大変で、今は『息子の目線』で自分の物を片付けるようにしています。私はシングルマザーで、息子が26歳で独り立ちしたとき食器を送ったら。『僕の趣味に合いません』って全部送り返されたんです。シンプルな物が好きな息子に、私自身もあまり好きでなかった派手な有田焼とかもここぞとばかりに送りつけたのもよくなかったんだけど(笑)」
息子は少しシニカルなところがある、そんな息子が捨てないと思われる物だけを残そうと考えた残間さん。そのため残間さんのご両親の物と、残間さんご自身から息子さんに残したいものを、洋服ケース一つ分ずつ選んでいるといいます。
物の終活だけでなく、お金の終活にも取り組む
物の終活に加え、お金の終活も始めたという残間さん。
「そろそろ息子に銀行や保険のことなども伝えたいと思って紙にまとめて書きました。息子は毎年3月の私の誕生日と母の日に来てくれます。誕生日に来てくれるというのでその紙を渡そうと思っていたら、息子が何か持っていたんです。どうせお酒か何かだろうと思ったら、なんと猫でした。『猫を飼い始めたから見せてあげるのがプレゼント』と言うのですが、とにかく驚いたし、気が抜けました。
気を取り直して次は母の日にと思っていましたが、また息子は何かを持っています。この前の猫かと思ったらなんと別の猫で、しかも灰色のぼろ布みたいな猫なの。かわいいけれど、また気が抜けてしまいました。30歳になって猫2匹飼い始めてどうするのって」
予想外の展開に渡しそびれてしまった大事なものは、後日ちゃんと渡せました。
終活で大切なのは、力があるときに扉を閉じておくこと
「終活をしなきゃ」と頭ではわかっているものの、自分の死について考えると暗い気持ちにならないものでしょうか。その疑問を残間さんに投げかけてみたところ、「どうせ全員、最期は来ます」とキッパリとした返答が。
「母は最後まで自分の思いを遂げるのに必死で、日々の生活は二の次でしたが、私は必要なことは先にやっておくのが好きな方。何かを残せば周囲に迷惑がかかる。みんなが気を使わなくていいように、手立てを講じておきたいんです」
その手立てとして物やお金の終活をしてきた残間さんですが、「これからの自分が何をするか、すべきか考えること」も大事だと語ります。
「物事を締めくくって、自分がしたいことを考える。一度「閉じる」ことによって、これからの新しい扉を開くエネルギーが出てくるんです。終活を前向きな行動にするのです。
同世代の知人の葬儀に出るたびに『もっと生きたかっただろうな』『死んだらすべて終わっちゃうな』と思います。私は甲状腺や免疫系の病気があり、今も全身湿布だらけです。朝はさっと動けません。熱いお風呂に入っているうちにようやく動けるようになるような調子ですが、まだ外に出られるし、人にも会える。
何はともあれ生きているんだからきれいな花を見ているだけでなくて、もう一度自分の人生にもひと花咲かせたいと思っています。毎日夕方にドラマの再放送を見ているだけとか、なんとなく日々を過ごして本当にしたいことができないのはもったいないですよ」
人生の最期に自分らしい花を咲かそう
残りの人生でもう一花咲かせようと思うと、大層なことをやらねばとつい思ってしまいますが、「やりたいこと」は趣味でも旅行でも何でもいいと残間さんは言います。
「次の世代や、次の次の世代など、社会の役に立つことだとよりいいですけど。友人の夫は、小学生の通学路の見守りを始めました。いつのまにかそれが楽しみになり、卒業式では子どもたちから表彰状をもらって喜んで部屋に飾っているようです。私は哀しいことに趣味がなく、やりたいことを探している最中。「9」という数字が好きだから、79歳までの間に夢中になれることを毎日考えています」
残間さんは、「終活で大切なのは、次に向かう力があるうちに、あいまいに開いている扉を閉じておくこと」だと表現します。
「誰かに閉じてもらうのではなく、自分の手で閉じておく。そうして最後の日まで何をしたいか考える。物やお金は誰かが片付けてくれるかもしれませんが、自分の心は自分にしか整理できません。ぜひ人生の最期に自分らしい花を咲かせてください」
今から始めたい「3つの整理」
お金の整理
銀行口座や保険を整理しておきましょう。のこされた家族が扱いに困る物がないか
今のうちに見直しを。
物の整理
不要な物は片づけながら、本当に大切な物は自分がいなくなった後にどうしてほしいか、家族に伝えておきましょう。
心の整理
明日が最後の日だとしたら、何をしたいですか? 趣味でも仕事でも、本当にしたいことを見つめ、実行しましょう。
残間里江子(ざんま・りえこ)
1950(昭和25)年生まれ。アナウンサー、雑誌記者、編集者などを経て、現在はプロデューサーとして活躍中。2009年、大人世代のコミュニティ「クラブ・ウィルビー」を設立。著書に『もう一度 花咲かせよう 「定年後」を楽しく生きるために』(中公新書ラクレ)。
撮影=門間新弥 ※この記事は、2019年9月号「ハルメク」を再編集しています。
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■記事協力=三井住友信託銀行
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