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- 小谷みどりさん「夫の突然死で気付いた必要な終活」
配偶者と死別した人のことを示す「没イチ」。シニア生活文化研究所所長の小谷みどりさんは、今から約10年前に働き盛りの夫を突然死で失い没イチに。そのとき直面した葬儀などの問題や後悔したこと、得られた気付きなどについて伺いました。
突然の出来事。ある朝夫がベッドで亡くなっていた
最初に思ったのは「なんで死んでいるんだろう?」
2011年4月29日の朝、小谷みどりさんは、にわかには信じがたい光景を目の当たりにします。出張でシンガポールへ向かう予定だった夫が出発時間になっても起床せず、様子を見にいったらベッドの中で息を引き取っていたのです。
「私は死生学を専門に研究してきたので、すでに亡くなっているのを確信できました。でも、いきなり警察に連絡するのもどうかと思い、まずは救急車を呼びました。駆けつけた救急隊員は夫の状態を見て、すぐに警察に連絡しました」
救急隊や警察とやりとりを行いながら、その最中に小谷さんの脳裏を駆け巡っていたのは、「なんで死んでいるんだろう?」という疑問だったそうです。突然死する数週間前に行われた健康診断でも特に悪いところは見つからず、前兆もありませんでした。
「ただ、人間の脳はうまくできているもので、あまりに予期せぬ出来事に遭遇すると意外とパニックには陥らない。私はすぐに、新潟にいる夫の母親や兄姉に連絡を取っていました。大変だったのは、夫の仕事関係の人や友人・知人への連絡です」
夫の仕事関係の人の連絡先がわからない
その日はゴールデンウィークの初日で、会社に電話をしてもつながりませんでした。上司が「田中さん」であることは知っていたものの、夫の携帯を見ると同じ姓の登録が複数あり特定できなかったそうです。
「困り果てて、とりあえず年賀状を引っぱり出して確認してみると、夫のシンガポール駐在時代の先輩で、私も面識がある方の連絡先が見つかりました。その方に連絡し、関係各所に伝えてもらったんです」
小谷さんは仕事柄、葬儀社や僧侶などに知り合いが多かったので、葬儀の手配・施行は滞りなく進んだとのことです。知らせを聞いて、夫の母親や兄姉が新潟から喪服だけを持って駆け付けてくれたのですが、連休中で日程的にも先延ばしが難しかったこともあり、突然死の2日後には荼毘(だび)に付していました。
自分もパートナーも元気なうちにやるべき終活
連絡先リストの作成と遺影の準備は絶対必要
小谷さんに限らず、パートナーの仕事上のつながりや交友関係を詳細に把握している人は、そう多くはないでしょう。苗字は知っていても名前までは知らず、連絡先の電話番号もわからないケースは珍しくないはずです。
「夫の突然死により、仕事や交友関係の連絡先リストの作成は、終活に絶対欠かせないものだと痛感しました。年賀状は、普段はあまり交流がない人ともやりとりするので、アテにはできません。連絡先リストは、夫婦が揃って整理しておいた方がいいでしょう」
また、それまで小谷さんは講演などで、「元気なうちに希望する治療や弔い方を家族と話し合っておきましょう」と呼びかけてきましたが、実際にはなかなか難しいことだと感じたとか。夫の葬儀も、存命中に意向を聞いてそれに従ったという内容ではなかったそうです。
「よほどの高齢にならない限り、自分の死を日頃からイメージすることはないでしょう。どんな葬儀にしてほしいのか具体的に考え、あらかじめパートナーに伝えているというのはレアケースのはずです。でも、遺影の準備はしておいた方がいい。私も遺影選びには悩みましたから」
連絡先リストと遺影の準備。これは夫婦でしておくべき終活です、と小谷さんは話してくれました。
鬼嫁と言われても、夫が一人で生きられるようにする
もう一つ、夫婦で行うべき終活があります。それは、二人だけの世界に閉じこもらず、それぞれの活動領域を持つことです。
「自分が先立ち、パートナーが“没イチ”になった後のことを考える終活です」と小谷さん。没イチとは、パートナーに先立たれて、ひとり身になった人を指す言葉で、小谷さんは自分をそう呼んでいます。
「食事から身支度まで、ほとんど妻任せだった男性は、ひとりになると本当に何もできない人になってしまいます。自分が今何を食べたいのかさえ決められないのです。また、パートナーを失い没イチになった途端、気力をなくして後を追うように亡くなってしまうケースも見受けられます」
そんなことにならないよう、夫婦揃って元気なうちに、それぞれが趣味などを持ち、自分の世界を広げておくことが大事です。
「たとえ鬼嫁と陰口を叩かれようとも、日頃から夫にも家事などをいろいろやらせて、没イチになっても一人で生きていけるようにしておくことが肝心です。そして、お互いに別々の楽しみを持ち、親しい友人や仲間を作っておくことも、ある意味大事な終活だと思います」
没イチになった後に考えるべき終活
支えてくれるのは地域のネットワーク
一方で、自分がのこされる側になった場合のこともしっかり考える必要があります。没イチになった途端に生活が一変するからです。
「私の場合は夫婦二人の生活だったので、いきなり一人になったインパクトは強烈でした。今は子どもと一緒に暮らしているご夫婦も、やがて子どもは独立するでしょうから、そうなってからパートナーと死別すると同じ境遇になります」
自分はこの先一人でどう生きていくのかについて考えたとき、やはり力になるのは地域の人とのネットワークだと言います。
「私はゴミ拾いの活動を行う地域ボランティアに参加しています。同じ目的を持った人とのつながりは程よい距離感です。特に親密な間柄というわけではありませんが、しばらく顔を見ないと安否は気になります。そういった緩い交友関係を築いておくことが大切なんです」
自分の世界を持ち、交友関係を広げておけば、いざパートナーに先立たれても、そのネットワークが生きていく力になると小谷さんはアドバイスしてくれました。
死後事務の備えもしておけば安心して暮らせる
自分とパートナーのどちらが先立つのかは誰にもわかりません。大事なのは、自分が先に亡くなる場合と、のこされる場合の両方の視点から終活を行うことです。
自分が先立つことを念頭に置いた終活では、パートナーが困らないように、連絡先リストや遺影の準備をしておくこと。また、可能なら葬儀や埋葬、大切にしていたものの処分方法などについてエンディングノートに記しておくのがいいでしょう。
のこされる場合に備える終活では、交友関係を広くしておくこと。これは、夫婦揃って元気なうちから意識してやっておくことが大切です。
そして、もし没イチになったなら、自分が死んだ後のことも考えておきたいものです。自分の葬儀や埋葬といった死後事務を誰に託すのか。これもまた大事な終活です。
頼れる人が身近にいない人であれば、専門家と死後事務委任契約を結ぶこともできます。例えば、三井住友信託銀行が提供する「おひとりさま信託」では、死後事務をトータルにサポートする一般社団法人を紹介してもらえます。
万が一の備えをしっかりすることで、自分の人生を輝かせることができます。あなたも今から終活を始めてみませんか。
小谷みどり(こたに・みどり)さんのプロフィール
1969(昭和44)年、大阪生まれ。奈良女子大学大学院修了。博士(人間科学)。シニア生活文化研究所代表理事。
専門は死生学、生活設計論、余暇論。大学、自治体などの講座で「終活」に関する講演多数。夫を突然死で亡くした後、講師をしていた立教セカンドステージ大学で、配偶者に先立たれた受講生と「ボツイチの会」を結成。著書に『ひとり終活 不安が消える万全の備え』(小学館新書)、『没イチ パートナーを亡くしてからの生き方』(新潮社刊)などがある。
※この記事は2022年1月の記事を再編集をして掲載しています。
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