エッセイスト青木奈緖さん「ハルメクのおせち」体験談
2022.10.112022年10月11日
文筆家一家・青木奈緖さんのお宅の「おせち」とは・1
エッセイスト・青木奈緖さんのお正月の料理帳
文豪・幸田露伴を曽祖父に、作家・幸田文を祖母に持ち、自身もエッセイストとして活躍する青木奈緖さん。長年お正月は「おせちは家族の好きなものだけ作って、あとは少し買い足して」というスタイルだったそう。そんな青木さんのお正月をご紹介します。
青木奈緖さんのプロフィール
1963年(昭和38年)、東京都出身。エッセイスト、作家、翻訳家。曽祖父に幸田露伴、祖母に幸田文、母に青木玉をもつ。新刊『オーライ ウトーリ ひなた猫』が春陽堂書店より発売中。
お正月は、家族の好きなものを心ゆくまで味わう
『幸田家のきもの』(講談社刊)、『幸田家のことば』(小学館刊)など、自身の著書にて家族との暮らしに関する著書も多い青木さん。4代続く文筆家一家です。
青木家さんの実家のお正月は、「伝統や格式」というよりも「家族で味わうお正月」。「年末ぎりぎりまでみんな慌ただしくて、パタっと動きを止める日が元日です。ですから、おせちに必須の黒豆やかまぼこは好みの店のものを買ってきて、他は自分や家族が好きなものを作る。そんなお正月です」と話します。
「母は『伊達巻』、私は『錦卵』というように、似ていてもそれぞれ好みは違います。普段なら似たものをわざわざ二種類は用意しませんが、せっかくのお正月だから、と気に入ったお店のものを買って準備していました」
お正月しか食べられない、とっておきのおいしいものを味わう。しかも、家族それぞれの好物をおせちにたくさん詰め込んで。まさに「家族みんなが満足するおせち」ですね。
また、青木家ではお煮しめの代わりに作る、オリジナルの煮込み料理があったのだそう。
「我が家では鶏もも肉とうずらの卵を醤油と生姜で炒め煮にした料理が定番でした。父のお酒のアテにちょうどよく、子どもたちも好きで、家族みんなが喜ぶメニューでした」
食卓に家族が集まってくる様子が目に浮かぶようです。お正月料理は作るのに時間がかかるので、そうそう作れませんが、それだけに特別感が増しますよね。
そんなご実家でのお正月の思い出を胸に、59歳となった現在は、どのようにお正月を過ごしているのでしょうか?
「結婚してからはお雑煮に鴨を入れています。12月29日か30日の夜に焼いて、漬け汁に浸しておきます。他の料理は時間があるときにちょこちょこと作り、お正月に備えるのがここ数年の過ごし方ですね」
「せっかくのお正月だから、自分たちが食べたいものを中心に味わう」というお正月の楽しみ方。青木さんが話してくれたメニューはどれも身近なものですが、その食材にはほんの少しひねりがあって、「食」へのこだわりが感じられます。
定番スタイルは「お重」プラス「折敷」と「豆皿」
結婚後はおせちの楽しみ方をさらに「バージョンアップさせた」と語る青木さん。比較的味の変わらない、保存の効くものしか詰めず、それ以外のものはその都度、折敷(おしき:懐石で使う食台)に盛り合わせて楽しむと話します。
「家族それぞれに折敷を用意して、その上に豆皿も何枚か置いて、好きな料理を少しずつ味わうのがここ数年のおせちの定番です。柚子の香りをつけた小鯛のささ漬を中央に載せ、数の子やアワビの煮貝のように汁けのあるものや、バターで軽く炒めた銀杏は豆皿を使うと盛りつけに便利です。あとはスナップエンドウも欠かせません。塩辛いものが多いから箸休めになるし、彩りも豊かになるので必ず盛りつけます」
実はこのスタイル、おせちの「見栄え」に関するメリットもあるそう。ここには青木さんの強いこだわりがありました。
「おせちのお重って、元旦はすべての料理が揃っていてきれいだけど、それ以降は見た目が少しずつ寂しくなりますよね。でも、折敷と豆皿のスタイルに変えてからは、2日目、3日目でもきれいに整えることができるので気に入っています」
これまで三が日はお重の料理がなくなるたび、自ら料理を詰めてきれいな状態に戻していたそう。このスタイルなら冷蔵庫で食材別に保管ができ、突然の来客にも便利だと語ってくれました。
ちなみに、上の写真の豆皿はどれも青木さんの私物。実際に使っているものばかりです。最前列の左と中央はおばあさまの幸田文さんの時代からあるもの。小さいのに花が丁寧に描かれ、脚もついていて、文さんの時代の意匠を感じます。
最前列の右は青木さんが台湾旅行で購入したそう。最後列の左の華やかな丸皿とガラスの小鉢は、ご主人の家に古くから伝わるものです。
お正月のちょっと変わった習慣とは?
ここ数年のお正月はコロナ禍ということもあり、青木さんとご主人の二人で過ごすことが多くなったそう。お酒を飲まない二人には、ちょっと変わったお正月の習慣があるといいます。
「主人も私もお酒をいただかないので、お屠蘇(おとそ)は形ばかりです。その代わり、元旦の朝はお抹茶を立てています。いきなりおせちを口に入れるより、元日の朝の少し改まった気持ちにぴったりです」
お抹茶と一緖に食べるお菓子として、青木さんは友人から教えてもらった「干し柿の柚子巻き」を毎年手作りしているそうです。
今回は特別に「干し柿の柚子巻き」のレシピを教えてもらいました。
「大きくしっかりした干し柿を開いて、その上に千切りにした柚子をたっぷり乗せて巻くんです。あとは巻き簀でギュッと丸めて、少しおけば完成。輪切りにしていただきます」
柚子がふんわりと香り、さっぱりと味わえる点がお気に入りなんだそう。「おせちやお雑煮の前に食べ過ぎないよう、いつも気をつけているんですよ」と青木さんは笑います。
おせちもお屠蘇も、伝統や形式にとらわれず、自分たちのスタイルでお正月を楽しんでいる様子が印象的でした。
撮影=平林直己 フードスタイリング=綾部恵美子 文=丹羽里奈 取材=小林さやか(ハルメク 健康と暮らし編集部)
■もっと知りたい■