50代・60代女性に!おすすめ本90冊を一気に紹介
2023.04.292024年08月06日
ようこそ読書の森へ(8)
本格長編時代小説『欅しぐれ』
今回ご紹介する本は、山本一力さんの『欅(けやき)しぐれ』です。著者の山本一力さんは、30年程前に楽器メーカーの季刊誌にエッセーを書かれていて、それがとても面白く、届くたびに真っ先に読んだ記憶があります。
直木賞受賞作『あかね空』から始まる
最初に作品に触れたのは、映画『あかね空』でした。
原作があの山本一力さんと知り、すぐに購入して一気読み、すっかりファンになりました。
以来『蒼龍』『損料屋喜八郎始末控え』『だいこん』『辰巳八景』『ほかげ橋夕景』『ほうき星』『カズサビーチ』『銀しゃり』『梅咲きぬ』『いっぽん桜』『菜種晴れ』『たまゆらに』『まねき通り十二景』など夢中で読みました。
山本一力さんに、外れなしでした。
『欅しぐれ』
江戸の深川にある大店の履物問屋、五代目当主、老舗桔梗屋の太兵衛と、深川の渡世人、霊巌寺の猪之吉との信頼と友情の物語です。
時代小説と言っても、剣豪や英雄は登場しませんで、江戸に生きる庶民が、丹念に描かれています。
やがて、騙り屋と呼ばれる一味が現れ、桔梗屋を乗っ取ろうと企みます。猪之吉は、店の後見に立つようにと、亡くなる間際の太兵衛から頼まれます。その言葉を胸に、知力と死力を尽くして闘い、主人なき桔梗屋を守り抜きます。
その姿に心を揺さぶられ、途中から、江戸の世界に迷い込んだような錯覚さえ覚え、ぐいぐい惹きこまれて読みふけってしまいました。堅気とやくざ者というまったく違った世界に生きる二人に、友情が生まれ、信頼し合い、心底互いを思いやる関係が清々しく、読み応えのある作品でした。
江戸の食事事情と心意気
おいしそうな食事のシーンが、しばしば登場します。それもこの小説を読む上での、楽しみのひとつです。
今も、時々買ったりする老舗辨松(弁松・べんまつ)の名前が出てくるのも興味深いです。辨松のこわめし(もち米を蒸したもの)と、玉子焼きとしいたけの甘煮など、想像しただけで、自然と笑みが浮かびます。すぐにでも買いに行きたくなりました。
嫌なニュースが溢れる昨今ですが、この小説には、損得勘定では決して動かない、自分の発した言葉を、命がけで守る男たちがいます。そんな人々ばかりなら、平和で素晴らしい世の中になるはずと、しみじみ思いました。
作者の山本一力さん
1947年高知県生まれ。会社員を経て、97年に『蒼龍』で第77回オール讀物新人賞受賞。2002年『あかね空』で第126回直木賞受賞、2012年歴史時代作家クラブ賞受賞、2015年代50回長谷川伸賞受賞。
おすすめの本
『あかね空』文春文庫
『粗茶を一服』文春文庫
『早刷り岩次郎』朝日時代小説文庫
『花だいこん』光文社
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