ハルメクオリジナルドラマ「母の背中」

【美和55歳の場合】母の背中が小さく見えた日

【美和55歳の場合】母の背中が小さく見えた日

公開日:2025年06月03日

【美和55歳の場合】母の背中が小さく見えた日

仕事に追われる毎日を送っていた美和は、妹の美穂からの電話がきっかけで、しばらく帰っていなかった実家を久しぶりに訪れました。そこで目にしたのは、少し小さくなった母の背中。忙しさの中で見過ごしていた親孝行や家族の絆について、改めて考えさせられる時間を持った美和の物語。

登場人物

美和(私)

55歳。キャリアウーマン。仕事に忙しく、実家の母のことを気に掛ける時間が、今まではあまりなかった。実家から電車で1時間くらいの場所に住んでいる。

美穂

45歳。美和の妹。子どもが手から離れてから、実家近くに住み、週1~2回くらいは母の元へ通い、家事や食事の手伝いをしている。

節子

78歳。美和と美穂の母。夫は美和たちが成人したのち先立ち、今は1人暮らし。

妹から突然の電話。「来週の土日って空いてる?」

ある日の午後、私はオフィスの給湯室で紅茶を淹れながら、妹・美穂とスマホで会話していました。「来週の土日って空いてる?」と、久しぶりに連絡してきたのです。

「たまにはお母さんに顔見せたらどうかなーって思って」と言う美穂に、私は「ちょっとスケジュール見てみるから、待ってて」と返しました。

仕事に追われる日々で、実家のことはつい後回し。美穂が母の近くに住んでくれている安心感もあり、私はすっかり実家から遠のいていました。

パソコンのカレンダーを確認しながら、「母と最後に会ったのはいつだったっけ?」と思い返してみます。年末年始も帰れなかったし、その前も何年も前のこと。そんな自分に、少しだけ後ろめたさを感じました。うん、帰ろう……。

久しぶりの再会

週末、久しぶりに実家の玄関を開けると、奥から美穂の声が飛んできました。

「遅いよ~、何してたの?」リビングから顔を出す美穂に、「ごめんごめん。ちょっと仕事が残ってて」と苦笑い。

母の節子は、ソファーで雑誌を読んでいました。「おかえりー」と優しく迎えてくれる母。

キッチンで夕飯の支度をする美穂に、「もうちょっとかかるから、座って待ってて」と促され、私は所在なげに、母の正面に座りました。

変わらぬ母の笑顔と、家族の会話

「なに読んでるの?」と尋ねると、母は「美穂が持ってきた雑誌。ちょっと私には若すぎるけどね、ハハ」と笑います。その笑顔に、どこかほっとしました。

「仕事は?相変わらず忙しいんでしょ?」と母に聞かれ、「うん、まあね」と答えると、「忙しいうちが花だからね」と母。

すかさず美穂が「お母さんも何かしないと、ボケちゃうよ」とキッチンから声をかけると、「ボケないわよ!まだね」と母が返します。

家族の気さくなやりとり、これぞ実家に帰ってきた感じ!思わずうれしくなりました。

母の背中に感じる変化

「痛っ!」そのとき、美穂が包丁で指を切ってしまい、絆創膏を探しにバタバタし始めました。

「美和、ちょっと煮物見ててくれる?」と頼まれて、立ち上がろうとする私に母は、「いいよいいよ、美和はゆっくりしてなさい」といそいそとキッチンへ向かいました。
私はその背中を、リビングからじっと見つめていました。

いつもと変わらない、力強い母の姿。でも、どこか小さくなったような気がして、急に胸の奥に淡い不安が広がりました。これが“衰え”というのだろうか……。

家族の時間を大切に思う夜

キッチンからは、母と妹のやりとりが聞こえてきます。

「あれ、なんか色薄い?」「まだ味付け足りないかも」「じゃあ醤油入れとくよ」「入れすぎないでね、すぐ醤油入れたがるから」
――そんな会話の一つ一つが、懐かしく、愛おしく感じられました。

私は、母と過ごせる時間が、あとどれくらいあるのだろう、とふと考えます。忙しさにかまけて、見ないふりをしてきた現実。

けれど、母の背中が少しずつ小さくなっていくのを目の当たりに見て、これからの時間を大切にしたい、しないといけないと思い始めていました。それは焦りにも似た感覚でした。

次の週末も、また実家に来てみようか――そんな思いが、静かに胸に芽生えていたのです。
(つづく)


美和と家族の物語は、〈本編〉ショートドラマシリーズ「母の背中」全3話で配信中。
ぜひ本編【動画】で、家族の“これから”を見届けてください。


 

【母の背中】キャスト・スタッフ

美和=栗田桃子
美穂=増岡裕子
節子=倉野章子
中川=大原康裕

監督・脚本=五十嵐浩之(GENSHOW)
ヘアメイク=徳地美奈

 

HALMEK up編集部
HALMEK up編集部

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