マスクとドラマ

2020年09月22日

Withコロナ時代のドラマはどうなっていくのか

ドラマとマスク、作り話に表れるリアルをどう思う?

50代コラムニストの矢部万紀子さんによる、月2回のカルチャー連載です。「朝ドラ」に関する本も上梓するドラマウォッチャーの矢部さん。非常事態宣言後に制作されたドラマを鑑賞して感じた違和感とは。withコロナ時代のドラマに切り込みます。

シュールなドラマ「植物における生存戦略」で感じた異変

 

NHKホームページより引用
NHKホームページより引用

ドラマとマスク、これからどうなっていくんだろう。この頃、そんなことを考えています。

きっかけは2020年8月26日に放送された「植物における生存戦略4」(NHK・Eテレ)を見たことです。ひと言で説明するなら、俳優の山田孝之さんが植物の生存戦略を解説する番組です。2018年から不定期に放送されていて、山田さんが「話す人」という位置づけ。眉間にうっすらシワを寄せながら解説します。「聞く人」はNHKの林田理沙アナウンサー。「なるほどー」を多用し、クールビューティーな対応を見せてくれます。

「4」で取り上げられたオオバコの場合、野球選手の新庄剛志さん、タレントの武田久美子さん、安倍晋三首相(当時)が同じ生存戦略をとっているという解説でした。それぞれ「白い歯」「貝の水着」「小さなマスク」という運命を受け入れることでオンリーワンの輝きを手に入れた、と言うのです。

さっぱりわからないですよね。これは科学番組のように見せた、シュールなドラマ。個人的にはそう理解しています。画面を見ながら、小さな劇場のようだなーと思うのです。と、ここでマスクです。「4」では出演者全員が、マウスシールドをしていました。
 

マウスシールドのイメージ
マウスシールドのイメージ


 

「ドクター彦次郎」ではマスクをしたり、しなかったり

緊急事態宣言が解除されてから、テレビにも人が戻ってきました。出演者同士をアクリル板で仕切るワイドショー、フェイスシールドをして街歩きをするタレントさん。「新しい放送様式」でしょうか。ですが、マウスシールドは初めて見ました。小さくて透明で、それがかえって大げさで、「ああ、これは小道具なのだなあ」と思いました。

そして、少し時は流れて9月13日、日曜の夜です。何気なくテレビをつけると、ちょうど「ドクター彦次郎5」(テレビ朝日系)が始まりました。2時間で完結する、いわゆるサスペンスドラマです。冒頭、寺島進さんが演じる彦次郎がいる「東山三条医院」が映りました。なんと、院長先生と看護師さんと彦次郎、全員がマスクをしています。驚きました。

マスクをした人が出るドラマを見たのは、初めてではありません。「MIU404」(TBS系)という刑事ドラマの最終回、最後のシーンで主人公2人がマスクをしていたのです。渋谷のスクランブル交差点をマスク姿の人々が歩く。そんな情景も映り、「時の経過」を示す演出としてのマスクでした。

でも「ドクター彦次郎5」の場合は、そうではありません。彦次郎はマスクをして、オンライン診察をしています。「コロナ禍の日常」の中に彦次郎がいる。そういう始まりだったのです。その後、彦次郎は「こういう診察より、対面が性に合っている」と言って外出します。京都が舞台で、清水寺辺りでのロケシーンです。そこでは彦次郎も道ゆく人も、みなノーマスクでした。

次が料亭のシーンで、マスク姿の彦次郎は殺人事件に出くわします。そこに来た京都府警の捜査員や鑑識課員は全員マスク、そこからは料亭の女将も居合わせた怪しい女性(矢田亜希子さんなのですが)も全員マスクになるのです。その後、料亭の中を川床に移動すると、そこではマスクなし。マスクありとマスクなし、辻褄はあまり合っていません。

その後もシーンによってマスクありとなしが規則性なく現れました。撮影した日によって違うのかなあ。そんなふうに想像しました。

 

作り事のドラマに、マスクは必要か?


それにしても、不思議な気持ちでした。「ドラマ」というのは、すごくざっくり言うなら「作り話」です。その中に「新型コロナウイルス」という現実が入り込んでいるのです。矛盾を感じるとは言いません。興ざめと力むほどでもありません。「コロナという現実を見ながら、ありえない殺人事件を見る」という状況が、何だか居心地悪い。そんな感じでした。

寺島さんがオンエア直前に受けたというインタビューを読むと、「少しでも感染予防につながるように」とマスクの意図を語っています。ふむふむなのですが、不思議な感じは残ります。

ふと気になって、裏番組の「半沢直樹」(TBS系)にチャンネルを替えました。もちろん誰もマスクなどしていません。「歌舞伎」とも評されるドラマの中で半沢直樹というバンカーがマスクをして「悪」と闘うというのは、やはり想像ができません。両方の番組を行ったり来たりしながら、きっとドラマ制作に携わる人たちは、すごく悩ましいに違いないなーと思いました。

新型コロナウイルスが収束し、マスクなしで出歩けるようになるまで、かなり時間がかかると思います。「withコロナ」としてのドラマはどうあるべきか。「作り話」なのだから、マスクはない方がいいのか、それでは逆に不自然なのか。どちらになっていくのでしょうか?

ドラマとマスク。みなさんは、どう思いますか?
 

 

■もっと知りたい■

 

矢部 万紀子
矢部 万紀子

1961年生まれ。83年朝日新聞社に入社。「アエラ」、経済部、「週刊朝日」などで記者をし書籍編集部長。2011年から「いきいき(現ハルメク)」編集長をつとめ、17年からフリーランスに。著書に『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』(ちくま新書)『美智子さまという奇跡』『雅子さまの笑顔』(幻冬舎新書)

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