日本大学初の女性理事長と作家を両立する忙しい毎日
作家・林真理子の挑戦!「年を重ね、人は変われる」理事長と小説家の現在地
作家・林真理子の挑戦!「年を重ね、人は変われる」理事長と小説家の現在地
公開日:2025年10月05日
林真理子さんのプロフィール
はやし・まりこ 1954(昭和29)年山梨県生まれ。日本大学芸術学部卒業。82年『ルンルンを買っておうちに帰ろう』がベストセラーに。86年「最終便に間に合えば」「京都まで」で直木賞、95年『白蓮れんれん』で柴田錬三郎賞、98年『みんなの秘密』で吉川英治文学賞、2013年『アスクレピオスの愛人』で島清恋愛文学賞を受賞。18年紫綬褒章受章。20年菊池寛賞受賞。近著に『小説8050』『奇跡』など。
今の心境はまさしく「真理子は闘うことにした」
日本大学理事長に就任してから「小説を書く時間は全然なかった」と林真理子さんはいいます。
「毎日のように大学に出勤して会議に追われ、土日もオープンキャンパスとか交流会で本当に忙しくて。とても小説に手をつけられませんでした。小説家というのは職人と同じですから、頭と手を動かしていないとどんどん錆びてしまう。“このまま書かないでいたら、私は忘れられちゃうんじゃないかな”という不安もありました」
そんなとき、理事長就任前に小説『李王家の縁談』のスピンオフとして書いた短編がいくつか塩漬けになっていて、「あと2つ書いたら本になる」と編集者から励まされたそう。
「最初はリハビリのような気持ちで、ゴールデンウィークと夏休みを使って書いてみたら、本当にスルスルと筆が進んで、すごく楽しくて。“ああ、まだいけるな”と思えました」
こうして完成したのが、皇室を舞台にした5つの短編からなる『皇后は闘うことにした』。
「タイトルの皇后を、美智子さまじゃないかと思う方がずいぶんいるみたい」という表題作の主人公は、大正天皇の后、貞明皇后。わずか15歳で天皇家に嫁ぎ、重圧に耐えながら4人の皇子を生み、やがて皇后として激動の時代をたくましく駆け抜けていく姿を描いた力作です。
最後の一編「母より」は、貞明皇后と嫁である秩父宮勢津子妃の葛藤がテーマ。林さんならではの細やかな筆致で、雲の上の人と思われていた皇族たちが、とても人間らしく魅力的に感じられます。
皇室関係の本や資料をむさぼるように読んできた
「私は一種のオタクと言っていいくらい昔から皇室が大好きで、皇室関係の本や資料をむさぼるように読んできました。いつから興味を持ったのかなと振り返ると、美智子さまのご成婚。
保育園児だった私は、記者会見を見て“こんなキレイな人がいるんだ”と衝撃を受け、おもちゃの車に友達を乗せ『ミチコさまのお通ーり』と引っ張って遊んでいました。以来興味は薄れることなく、今も私の本棚にはずらりと皇室にまつわる本が並んでいます」
そんな“皇室オタク”の林さんにとって、近年の偏った皇室報道やネットでのバッシングは見るに堪えないそう。
「愛子さまは確かに気品があって素晴らしい内親王です。だからといって秋篠宮家の方たちを比較して叩くのは失礼なこと。『小室さん問題』がいまだに尾を引いているんでしょうが、お立場上、何も反論できない方々について好き勝手書くのはよくないと思います」
年を重ねていろんなことが起こると、人間って変われるんだなと思います

2023年夏、日本大学のアメリカンフットボール部で違法薬物事件が起きた際は、大学の対応の甘さが問題となり、理事長である林さんもマスコミやSNS上で矢面に立たされました。
「全然わかっていないのに、なんでこんなひどいことを言うんだろうと思うこともありますよ。でも理事長は法人のトップですべての責任を取る立場ですから、批判はちゃんと聞いています。事件が起きたときすぐ情報が入ってこなかったのは私の責任ですし、もっと私が強くならなきゃいけないんだと反省しました。
若い頃は、自分くらいちゃらんぽらんな人間はいないと思っていましたけど、年を重ねていろんなことが起こると、ちゃんと立ち向かっていかなきゃいけなくなる。人間って変われるんだなと思います。まさしく『真理子は闘うことにした』わけです」
週1回のバレエヨガ教室が息抜きの時間
そんな忙しい日々の中、貴重な息抜きになっているのが、週1回通うバレエヨガ教室。マットに寝転がりながらゆっくりバレエの動きをし、4時間かけて全身をストレッチしていくそう。
「みんなお菓子を持ってきていて“もぐもぐタイム”があり、先生のお話を聞きながら体を動かしていると気持ちがよくてだいたい寝ちゃう。ゆるい教室で楽しいからほぼ皆勤賞です」
マンモス大学の理事長として、作家として今年も奮闘する日々が続きます。
※この記事は、雑誌「ハルメク」2025年3月号を再編集しています。
林真理子さんが皇族の葛藤を鋭く描く2つの小説

『皇后は闘うことにした』文藝春秋刊/1870円
九条家の子女・節子は15歳で嫁いだ。のちの大正天皇の后(貞明皇后)である。夫は妻を顧みないにもかかわらず子ばかりが生まれ、節子は悲しみに歯を食いしばる――。表題作「皇后は闘うことにした」をはじめ、さまざまな立場に葛藤する皇族を描いた5つの短編集。

『李王家の縁談』
文春文庫/792円
美貌と聡明さで知られる梨本宮伊都子妃。愛娘を皇太子妃にと望むが叶わず、朝鮮の王世子との縁談を思いつく。娘の幸せを願い奔走するが……。明治から昭和にかけて波瀾の生涯を送った女性皇族の視点で、華麗な世界と高貴な者の知られざる内面を描く歴史小説。
取材・文=五十嵐香奈(ハルメク編集部)、撮影=中西裕人




