奥野多佳子さんのガーデンダイアリー
北海道・上野ファームが壮大で美しい理由|デザイナー上野砂由紀さんに聞く
北海道・上野ファームが壮大で美しい理由|デザイナー上野砂由紀さんに聞く
公開日:2025年07月12日
お話ししてくださったのは、上野砂由紀(うえの・さゆき)さん
「上野ファーム」だけでなく、TVドラマで有名になった「風のガーデン」や、「大雪 森のガーデン」のデザインも手掛けられ、北海道を代表するガーデナーのお一人です。詳細はこの記事で書いていきますが、そのお人柄や、庭への思いがあふれる楽しいお話を伺えました。
北海道でしかできない庭…「北海道ガーデン」に挑戦!
旭川で100年以上続く米農家で育った上野砂由紀さん。大学卒業後はアパレル会社に勤務しましたが、退社して園芸を学ぶためガーデン研修生として渡英。イギリスでいろいろなガーデンを見て回り、ガーデンデザインや庭づくりの楽しさを学びます。
オープンガーデンが、単に花を見せるだけでなく人を集めるファクターになると感じ、イングリッシュガーデンを本格的につくったら北海道でも人が集まって楽しんでもらえるかもしれないと思ったそうです。
帰国後。農場や田んぼの脇に花を植えてお客さまをもてなしていたご両親と一緒に、家族総出で庭づくりを始めます。農業をしながら石を積んだり土を耕したりして、2001年オープンガーデンがスタート!「上野ファーム」のストーリーが始まります。
イングリッシュガーデンを目指して、まずは粘土質の田んぼの土壌改良から始めましたが、イギリスをお手本に!と言っても気候も土も違う、それにイギリスの庭は何百年もの歴史が背景にあるので、とても真似することはできないと気付きます。
雪の多い北国ならではの植物や文化、風土を大切に、北海道でしかできない庭があるはず! 「イングリッシュガーデン」ではなく「北海道ガーデン」をつくろうという考えにいきつきます。
その庭づくりのお話から何度も出てきたワードが「挑戦」でした。
庭づくりは植物との共同作業
上野さんは 雪に覆われて庭が銀世界になる長い冬の間に、想像力をフルに働かせて春から秋の景色を緻密にデザインされます。秋に植える春咲き球根から始まって、宿根草の開花期を分析して足したり引いたり、毎年さまざまな植栽を試していきます。
いつ、どの場所で、どんな組み合わせができるのか、ガーデンを歩いて植物が出す答えをくまなく見て回ります。自分でデザインした以外に、スポット的に植えた一年草、レースフラワーやポピーなどがこぼれ種で思いがけない場所から出てくることもありますが、それも、ここでもいいかな、と咲かせるそうです。
植物の生命力を信じて、植物と折り合いをつける。「庭づくりは植物との共同作業なんです」と話されます。
「今日だけきれい」ではだめ!
上野ファームはほとんどが宿根草です。
でも宿根草の見頃は10日から2週間ほどで、一年中咲くものはありません。4月から10月までの開園期間中毎日来られるお客さまに、いつでもきれいな庭を見てもらえるよう、宿根草をバトンリレーのようにつないでデザインしていかないといけないのです。
植え替えはしないので、たくさんの植物を用意して開花期を重ねていく……見えないデザインが必要だとか。
でもそれはやみくもにしてもダメで、7月上旬に咲くものは何か、その中で50cmぐらいの高さのものは……と自分の中のデータから「この花」と決めていくのだとか。そのデータは、新しい品種や試したい種類が出てくるので、常にアップデートしているそうです。
「今日だけきれい、ではだめなんです」とおっしゃる上野さん。感性だけでなく幅広い知識があって宿根草のバトンリレーはできるのだとわかります。
日々の失敗がなければ今の上野ファームはない
何度も失敗し、枯らした植物は数千株もあるとおっしゃいます。「でもその失敗を生かして学んできたので、知識が増え、できることが多くなってきました」と上野さん。とてもポジティブです。
北国の寒さでも大丈夫、と書いてくれる親切な園芸書はないので、自分の庭で試して耐寒性のあるものを見つけて育てていきます。「北海道はやってみないとわからないので、それは誰かに教えてもらうというより植物が先生ですね。庭は実験場なんです」と上野さん。
バラも凍害でなかなか育たず、宿根草と思って育てているとか。バラは本州にはかなわないと言われますが、冷涼な気候の中、鮮やかな色彩でふんわりと見事に咲いていました。旭川ではつるバラが難しいので、クレマチスやハニーサックルをたくさん植えているそうです。
自分の思い描く風景が現れる幸せ
庭と付き合って一番幸せを感じるのは、1年後2年後に自分の思い描く風景がそこに現れることだそうです。

予想通りにいかないことや、逆に想像をはるかに超える風景になったり、こうなってしまったんだと裏切られた感じだったり、すべて含めて面白い! 見に来てくれた人がそれをワ~~ッと楽しんで見てくれることが庭づくりの原動力になるのだそうです。だから庭にはいろんな驚きや不思議も詰め込みたいのだとか。

庭づくりは、一瞬でも同じ風景はなく、完成のないところや勉強すればするほどできることが多くなること、それには終わりはないこと、そのすべてが面白いと、目を輝かせながら話されました。
これからの庭づくりと北海道のガーデン仲間
旭川も夏は40℃ぐらいになる時もあるので、最近の気候変動や猛暑、干ばつ対策として植物選びや使い方が重要になって、庭づくりもどんどん変わってきているのだとか。

北海道ガーデン街道の8個のガーデンはみんな仲が良くて、冬はよく集まってこれからの庭づくりについていろいろな情報を交換するそうです。みんなでレベルアップして北海道のガーデンを盛り上げていきたいと話されます。

年齢に合わせた庭づくり
自分の体力に合わせて庭のスタイルを変えていくことも大切だと言われます。
個人の庭でも、庭仕事が自分のキャパを越えてきたら見直すことが必要だと。家を減築するのと同じようにに、力量や年齢のステージに合わせて、バラの本数を減らして宿根草を増やしたり、植物選びも、強くて管理が楽な品種に替えてがんばらない庭づくりにしていくことだと話されます。

上野ファームが楽しいわけ
上野ファームには植物の美しい景色だけでなく、クスっと思わず微笑んでしまうスポットがたくさんあります。それは来園される幅広い年齢層の方みなさんに楽しんでもらいたいという上野さんの思いが詰まっているからです。
ガーデンの後ろには、かつて屯田兵が射的訓練をしていた射的山があります。山道を登るのは……と思いがちですが、なだらかな小径の両脇は植栽されていて、見晴らしがよくて気持ちがいい!
またノームの庭では、夜中にこっそり庭仕事を手伝う妖精、ガーデンノームが住んでいる……。おとぎ話の世界のようで子どもたちは喜びますね。いえいえ、私でもウキウキしてしまいました。
そして庭の外塀には熊の親子が庭をのぞいています。石で作られたこの熊さんを見つけたとき、私はニンマリしてしまいました。どれも上野さんならではの楽しいワクワク感が伝わってくるからです。
苗や雑貨を販売するショップもありますが、納屋を改装したNAYA caféでは、カレーやサンドイッチ、おにぎりなどの軽食やスイーツがあって、テイクアウトしてガーデンでも飲食できるのでピクニック気分が楽しめます。
一瞬の美しさにかける!

実は「花少女」ではなく、ガシガシするタイプです……と、ご自分のことをおっしゃる上野さん。抜くときは抜く!と言われる潔さと決断力、そして女性らしい柔らかな花の組み合わせやデザイン、その感性が多くの人を惹きつけてやまないのだと感じました。何度でも訪れたくなるガーデンと言われ、リピーターが多いのもわかります。
一瞬の美しさにかける庭へのあふれる思いと、常に新しいことへ挑戦する強さが、チャーミングなお人柄から伝わってきました。
上野ファームの情報
北海道旭川市永山町16丁目186番地
2025年のガーデン公開期間:4月18日(金)〜10月19日(日)予定※ガーデン公開期間中は休まず営業
公開時間:10時〜17時
入園チケット料金:大人1000円、中学生500円、小学生以下は無料
上野ファーム公式HP
※イベント情報等は公式Instagramにて。
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