【ラジオエッセイ】山本ふみこ「だから、好きな先輩」
2024.12.172023年05月20日
随筆家・山本ふみこの「だから、好きな先輩」14
かつて子どもだったことを忘れない「リンドグレーン」
「ハルメク」でエッセイ講座を担当する随筆家・山本ふみこさんが、心に残った先輩女性を紹介する連載企画。今回は、『長くつ下のピッピ』を書いた作家、アストリッド・リンドグレーン。かつては自分も子どもだったことを思い出させてくれます。
好きな先輩「アストリッド・リンドグレーン」さん
1907-2002年 児童文学作家
スウェーデンの田園地帯の農場で4人きょうだいの長女として育つ。44年に作家デビュー。翌年、娘に話して聞かせた話を元にした『長くつ下のピッピ』を刊行。数々の名作を生み出し「子どもの本の女王」と呼ばれた。
子ども時代をいつでも思い出させてくれる物語
アストリッド・リンドグレーンはスウェーデンの作家です。「なつかしい!」と跳び上がりそうにしている皆さんの姿が見えるようです。そんなあなたがまず思い浮かべるのはどの作品でしょうか。
『長くつ下のピッピ』『やかまし村の子どもたち』『名探偵カッレくん』……?
最初に出版され(1945年)リンドグレーンの出世作となったのが『長くつ下のピッピ』です。この物語はおもしろく、痛快ですが、子ども時代のわたしの胸をちょっぴり、ひりひりさせたのです。
半世紀前、住宅地として拓けたばかりの東京多摩地区のわたしの家の前は、牧草地でした。どこからか牛が連れてこられて、草を食(は)みます。
ある日、母に内緒でわたしは牛のあとをつけました。牛舎をつきとめ、牛たちの背後から覗きこんだら、おしっこが!全身ずぶ濡れで帰ったわたしが、両親にこっぴどく叱られたのは云(い)うまでもありません。わたしはそういう子どもでした。
物語の主人公である女の子ピッピがつぎからつぎへと起こす事件が、自分のいたずらと重なって見え、困っちゃったのでした。
そんなわけで(!)リンドグレーンの作品では「やかまし村」(3冊シリーズ1947-52年刊行)贔屓(ひいき)でした。
スウェーデンの田舎の、家が3軒しかなく、子どもが6人しかいない村での暮らしが描かれた物語に夢中になりました。いつしか子どもたちの仲間入りをして、大自然のなかで遊び、家の仕事を手伝い、学校に通い、時にはけんかしたりしていたのです。
いまでもときどき本棚から引きぬいて、読み返します。物語のなかで、なつかしい友だちと、わたし自身の子ども時代が待っていてくれます。
かつては自分も子どもだったことを忘れない
リンドグレーンは1907年にスウェーデンのヴィンメルビュー村で生まれました。若い日に小学校の先生を経験しています。
そのやさしいまなざしは、常に少年少女の世界に向けられ、何より子どもの空想、冒険心に対する深い理解がありました。明朗ないたずら、時としてわがままともとれるこころの動きにも寛大でした。
かつては自分も子どもだったということを決して忘れなかったのでしょうね。わたしは……、かつて牛のおしっこを浴びたことなんか、なかったような顔をしちゃってます。
随筆家:山本ふみこ(やまもと・ふみこ)
1958(昭和33)年、北海道生まれ。出版社勤務を経て独立。ハルメク365では、ラジオエッセイのほか、動画「おしゃべりな本棚」、エッセイ講座の講師として活躍。
※この記事は雑誌「ハルメク」2017年6月号を再編集し、掲載しています。
>>「アストリッド・リンドグレーン」さんのエッセイ作成時の裏話を音声で聞くにはコチラから
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