向谷地生良さんの自分を助けるプログラム(2)
実践できる!向谷地さんの問題を手放すためのワーク
実践できる!向谷地さんの問題を手放すためのワーク
公開日:2021年08月14日
「弱さの情報公開」のやり方とは?

私は、統合失調症など心の病を抱えている人たちと一緒に行動しています。どうすれば、お互いが生きやすくなるのかを考え、試行錯誤してきました。その答えの一つが、「弱さの情報公開」であることは前回お話ししました。弱さの情報公開とは、自分が抱えている悩みや苦労を表に出すことで、自分だけで抱えていた悩みや苦労を、みんなで抱えていくものです。今回はその方法をお伝えします。
まずは、浦河べてるの家(以下べてる)で行われている弱さの情報公開の場「当事者研究」が大切にしていることを紹介します。
1.本人と「問題」を切り離す
ある「問題(苦労)」があり、それをどうしようかと話し合うとき、なりがちなのが、「本人に問題がある」という考え方です。これを防ぐために人と問題を切り離します。
例えば、月末になると必ず「金欠」になってしまう人がいたとします。そのとき、「金欠を繰り返すAさん」ではなく、「金欠を防ぎたいが、防げない苦労を抱えているAさん」と、「金欠」と「本人」を切り離すのです。
2.自分の病名「自己病名」を考える
抱えている苦労に自分で「名前」(自己病名、苦労ネーム)をつけます。べてるでは「月末金欠バクハツタイプ」や「人間アレルギー症候群」など、さまざまな病名や苦労ネームがあります。ユーモア感覚で名前をつけることで、自分の問題と距離を取ることができます。
また、この場を「当事者研究」と名付けているのは、問題を「自分の心の問題」ではなく「研究テーマ」と捉えることで、あたかも実験を行うように、取り組むことができるからです。
3.苦労が起きるパターンや構造を解明する
苦労が起きるのには必ず規則性があり、その状態は反復されるものです。「なぜ、金欠になってしまうのか」を仲間と共に話し合いながらパターンや構造を明らかにしていきます。
4.苦労との付き合い方を考えて、試したり練習する
最初に自分を助けるのは「専門家」や「仲間」ではなく、常に「自分自身」であることを忘れないように。新たなアイデアが生まれたら、実験したり、時にはそれを練習します。うまくいかなければ、また他の方法をみんなで研究すればいいでしょう。
5.実践する
1~4で研究したことをノートなどに記録して、実践します。
6.結果を検証する
その結果を検証して、「よかったところ」と「さらによくする点」などを仲間と共有します。本人の次の研究にも、他の人の研究にも役立ちます。
当事者研究で、人とのつながりを取り戻す

当事者研究は、一人で行う孤独な作業ではなく、複数人で行います。苦労を一人で抱えていると孤立してしまいますが、研究を通して、人とのつながりを取り戻すことができます。
べてるで生活している人たちは「ここが暮らしやすい」「ここがあってよかった」などと言って、自由にのびのびと生活をしています。当事者研究は、そう思えるための一翼を担っているのです。
べてるの家の「弱さの情報公開」を日常的に取り組むには?

べてるでは「弱さの情報公開」を大切にしていますが、みなさんの場合は、日常の困りごとや経験を身近な話しやすい人に発信すればいいと思います。情報公開すると、自分の経験に他人の視点や考え方が加わります。そうすることで、自分でも気付いていなかった、経験の背後にある大切なことが見えてきます。その気づきは、よりよく生きるきっかけになるかもしれません。
研究の進め方は簡単です。日常生活の困りごとなどを、思い切って「研究テーマ」に格上げして自分が研究者になったような感覚でテーマに向き合う、情報を集める、仲間と一緒に考え、結果を分かち合う。その繰り返しです。ポイントをいくつかお伝えします。
- 自分の経験を、他人事のように眺め、発信する
べてるで行われている先述の1や2と同じことですね。自分の経験に対して他人事のように接するのは難しいですが、何度かやっているうちにわかってきます。やってみてください。
- 経験した出来事を書く
「自分」と「出来事」を切り離すために、ホワイトボードや紙に、その「研究テーマ」とそれにまつわる出来事を書いていきます。イメージは、ホワイトボードを前において、話題提供者と参加者が三角形になる感じです。「出来事」に対して、話をする人と、聞く人が等しく距離を持つのが重要です。
そうすることで、みんなが「人」と「出来事(問題)」を切り離して眺めたり、それに対して意見を言えたりして、出来事の背後にある意味や本当のテーマが見えやすくなります。
- 発信する人と聞く人は、対等な立場で
上下の関係ができてしまうと、対話は成立しません。必ず対等な立場で。そのためにも、「三角形」であることが大切です。そこで大切なのは、研究と言う形で苦労に向き合おうとする人に対する連帯、応援、尊敬の念です。
- 「聞く」「話す」のメリハリをつける
テーマを共有しながら一緒に考えます。ポイントは「聞く」「話す」のメリハリを大切にして、リズムよくキャッチボールを行うこと。ものごとが立体的に見えてきます。
当事者研究を家庭で行う「家族会議」のススメ

最近は、当事者研究を家庭で行う取り組み「家族会議」が広がってきています。家族会議も、ここまでお伝えしてきた方法で行うことができます。
あなたが「最近、夫とうまく話せない」とします。夫が急に怒りっぽくなった、話しかけても答えなくなったということが起きていて、それに対して、「そんな言い方をしないで」とか、「ちゃんと答えて」などとあなたは言っているかもしれません。もしくは、黙ってしまい、会話がなくなってしまうとか。
そんなときは、家族会議が役に立ちます。夫がそういう態度になるのにはいろいろな理由や背景があるはずですから。例えば、最近、仕事上の悩み事をかかえて、誰にも相談できなくて、ストレスを抱えているのかもしれません。
よりよい夫婦のコミュニケーションを行うワーク

まずは、「よりよい夫婦のコミュニケーション」というテーマを、紙やノートに書き出して二人の間に置く。それを見ながら、二人の間に現象として「何が起きているか」、それがどんな時におきるか、起きているか、その時の気持ち、考えを自由に書き出します。イラストや図を使っても面白いです。
さらにそれらに対して、お互いにどんな対処、工夫をしているかなども挙げていきます。「返事をしない」も立派な自己対処で、火に油を注がないための効果があります。でも、副作用もあります。相手にストレスが溜まるわけです。こんなやりとりの中で、あなたは「出来事と夫」を切り離して考えるきっかけにもなります。
このやり取りを行う中で気を付けたいのは、「何が問題?」「何が原因?」などと「犯人捜し」をしないことです。あくまでも「現象」として向き合うことです。こどもの参加も大切ですね。
家族会議をすることで、お互いが抱えていた苦労を家族間で共有できるようになります。重要なのは、解を導くことではなく、そこに至るまでの過程です。何度も何度も家族会議を行えば、お互いが相談上手にもなっていき、一人で問題を抱えなくてもよくなります。
向谷地生良さんのプロフィール
むかいやち・いくよし 1955(昭和30)年、青森県生まれ。ソーシャルワーカー。北海道医療大学(大学院・看護福祉学部・先端研究推進センター)特任教授、浦河べてるの家理事。大学卒業後、浦河赤十字病院の精神科専属のソーシャルワーカーとして赴任し、84年に浦河べてるの家を設立。『安心して絶望できる人生』(NHK出版刊)他、著書多数。
取材・文=井口桂介(編集部)
※この記事は「ハルメク」2020年2月号掲載「こころのはなし」を再編集しています。
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