向谷地生良さんの自分を助けるプログラム最終回

向谷地さん「引きこもりは家族だけの問題ではない」

公開日:2021/08/14

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ソーシャルワーカーの向谷地生良さんが関わる福祉施設「浦河べてるの家」で行われているワークから生きやすくなるヒントを教わる連載。最終回は「引きこもりと社会」について伺います。原因はその家族にあると考えられがちですが、そうではないんです。

向谷地さんの自分を助けるプログラム3

引きこもりは家族と社会の間に起きている問題

昨今、引きこもりに関連した悲しい事件がたびたびニュースになっています。引きこもりは、悩みや苦労を家族で抱えているので、「原因はその家族にある」と考える人が多いですが、そう単純なことではありません。

引きこもりの子を持つ親の年齢であるみなさん世代は、比較的お金に余裕がある方かもしれません。ですから、社会に頼らずに、自身の経済力で子どもを養い続けられることも多いために、引きこもりというものはその家族の問題であるというイメージが持たれやすいのです。

でも実際は、引きこもりは、その家族と社会の間に起きている問題です。

「自己責任論」が強い日本だからこその風潮

「自己責任論」が強い日本だからこその風潮

日本には健康で文化的な最低限度の生活を営むために、セーフティネットとしてさまざまな社会保障のサービスが用意されています。それらの社会保障を活用するのは、私たちの権利で当たり前のことです。

でも今の日本では、社会保障に頼ることに後ろめたさがあり、「私的」に解決する方がよいという風潮があります。何か問題を起こした人がいたとしたら、その責任は本人が負うべきで、他の人に助けを求めるべきでないという「自己責任論」が強く、自分の面倒が見られない人が社会保障に頼るという思い込みが、社会全体に強い。それがあるから、引きこもりは「その家の問題」となってしまうのです。

私たちは、誰もが交通事故に遭ったり、大切な人を亡くしたり、いろいろな理由で突然生きにくさを抱えてしまう可能性があります。 引きこもりもその結果の一つ。そういうことと背中合わせだからこそ、お互いが支え合う仕組みによって生きていることを再認識しないといけないのです。

社会保障は、この社会は自分と他人がお互いに支え合って生きるものだということを、誰もが了解して成り立つものです。引きこもりも、みんなで支えるものであるという認識が必要です。

自分の子を「問題」と思うのではなく、応援しよう

自分の子を「問題」と思うのではなく、応援しよう

引きこもりの子を持つ親は、育て方が悪かったと自分を責めてしまいがちで、当の子どもは自分が怠けているからと考えてしまうものです。親も本人も自分を見るまなざしが厳しいのです。

何でも自分で抱え込んでいても、解決はできません。実は、引きこもりである本人は、「引きこもりである今の状態はよくない」と問題意識を持っているものです。現状を脱却したいのだけど、うまくできていない状況で、社会に復帰してほしいと考える親と、実は一緒の方向を向いています。

家族はそのことを認識してください。自分の子を「問題」と思うのではなく、応援してあげてください。

相談することは恥ずかしいことではない

相談することは恥ずかしいことではない

元農林水産事務次官の家族の悲しい事件がありましたね。親は支援機関に相談しようと思ったけれど、子どもに恥をさらすなと言われるのではないかと考えて、窓口へ相談に行かなかったということです。そういう意味では、「恥をさらさない」という日本の家族の文化が出てしまったのかもしれません。

相談しやすい身近なところに、ちょっと相談してみましょう。決して恥ずかしいことではありません。家の中で抱えている引きこもり問題を社会に発信しましょう。社会全体で担わなければならないものですから。

相談の窓口はどの地域にもあるので、そことつながってください。本人が窓口まで行けないのなら、親が訪ねてもいいでしょう。べてるでもそういうことはあります。15年間引きこもっていたある人が危機感を抱き、「自分は困っているから、誰かに相談してほしい」と言われた親がべてるに来た例がありました。その引きこもりだった子どもは、今ではべてるの職員として働いています。

今は日本中どこでも相談できる窓口がある時代ですから、最初から求めた答えに出合えなくても、諦めずに相談を続けて社会とつながっていきましょう。「自分の苦労」を「社会の苦労」に。そうすれば、新しい方向性が見えてくるでしょう。

問題を抱える人に原因があるわけではない

問題を抱える人に原因があるわけではない

これまでの連載3回を通して、自分の「悩み」や「苦労」を自分一人で抱えずに、身近な人たちに相談していくことの大切さを伝えてきました。べてる流に言うと、「弱さの情報公開」です。

悩みや苦労を表に出せば、自分だけが抱えていたその悩みや苦労を、みんなで抱えていくことができます。一人で苦労していると、どうしても孤立してしまいます。しかし、情報公開を行えば、人とのつながりを取り戻すことができます。

ある問題をテーマに弱さの情報公開をするとき、その場にいる人たちは、その問題を抱えている人に原因があると考えがちです。それを防ぐために「人」と「問題」は切り離してください。その上で、なぜ問題が起きてしまうのか話し合います。

すると、苦労を抱えていた本人も思いもしないところに、その問題が起きてしまう構造があることに気付き、対策を講じることができるはずですから。

当たり前のことですが、人間関係は難しいものです。私たちは、その難しい社会の中で自分の居場所を模索しています。

ため息をつくことでストレスを解放するAさん

ため息をつくことでストレスを解放するAさん

べてるには、ため息をつくことでストレスを解放するメンバーのAさんがいます。ため息を聞いた周りのメンバーは、「私がここにいるのが嫌でため息をついたんでしょ?」と怒り出して、けんかになってしまうことが幾度もありました。

そこで、弱さの情報公開を行うと、ため息をつくAさんは「ため息は私の癖で、ため息をつくと心が楽になる」と言い、周りの人は、「ため息を聞くと、不快に感じる」などと情報を出し合っていきました。このやり取りを経て、Aさんは、ため息を多くつきそうなときは、「今日はため息が多くなるかもしれないから」とあらかじめ周囲に伝えるようになりました。

すると周りの人も、自分へのため息でないことがわかるので、以前のようなトラブルは起きなくなりました。

情報公開で、ぎすぎすしない居心地のいい場所を

情報公開で、ぎすぎすしない居心地のいい場所を

弱さの情報公開という作業を一つ一つ行うことはとても面倒ではありますが、「思い」や「情報」を出し合って暮らせば、ぎすぎすしない居心地のいい場所がつくられていきます。

弱さを情報公開すると、自分が見ている世界が、この世界のすべてではないということに気付くことができます。そしてお互いに認め合い、支えられる世界が出来上がっていくのです。

ぜひ積極的に、自分の弱さを情報公開して、人とつながっていってください。

向谷地生良さんのプロフィール

むかいやち・いくよし 1955(昭和30)年、青森県生まれ。ソーシャルワーカー。北海道医療大学(大学院・看護福祉学部・先端研究推進センター)特任教授、浦河べてるの家理事。大学卒業後、浦河赤十字病院の精神科専属のソーシャルワーカーとして赴任し、84年に浦河べてるの家を設立。『安心して絶望できる人生』(NHK出版刊)他、著書多数。

取材・文=井口桂介(編集部)
※この記事は「ハルメク」2020年3月号掲載「こころのはなし」を再編集しています。

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