特別連載〜こころがたり 花の来た道〜
横山タカ子さん第3回|新しい年を迎える楽しみ
横山タカ子さん第3回|新しい年を迎える楽しみ
公開日:2018年09月05日
型にはまらない "横山流"で
横山タカ子さんの家では、新年を迎える準備が始まりました。「あの器に合う料理は何かしら」「ここに羽子板を飾って、玄関には――」
年の瀬は慌ただしくはあるけれど、横山さんにとって、1年で一番、心躍る時期です。
師走に入ると、信州の空気は一気に真冬の冷たさになります。寒さに身が縮むような日も、台所のラジオから流れるジャズのリズムに乗って軽やかに炊事をこなしていく横山さん。その姿はどこか嬉々としています。
「お正月支度は新年に向けた”助走”の時間。せわしいけれど心が躍るんです。一年の中でもやっぱり特別ですね」
その年のカレンダーが残り1枚になるとすぐ、横山さんは正月花の準備に取り掛かります。毎年決まって注文するのは、春を告げる花・越前水仙。枝ものは、年末に剪定した庭の花木の枝を捨てずに生けます。「梅や蠟梅は室内で飾っていると花が開いて、外より一足早く甘い香りを味わえるんですよ」
縁起物の松は正月飾り用にはこだわらず、庭の松の枝をチョキンと切って大胆に白い花器へ。赤唐辛子を添えて、あっという間に正月飾りが完成。
「『こうでなければ』と型にはめるのは、何事も好きじゃないの。生け花もいろいろな型や流派がありますが、これは"横山流"(笑)。自分の家ですから、自分が心地よく感じられる空間になるならそれでよし、です」
なるほど、この潔さがよそでは味わえない横山家の心地よさにつながっているのかもしれません。
食材の手配も重要です。毎年、正月魚の鰤を能登から丸ごと1匹取り寄せ、最初の3日はお刺身で、続いて焼き魚、最後はかぶと煮と、年末から年始にかけて尾頭まですべて食べつくします。野菜は地元の直売所で買い求めた新鮮なものをかごに盛り、玄関に並べます。紫白菜や大根、カボチャなど彩り豊かな野菜はディスプレイとしてもきれいですが、玄関に並べるのにはもう一つ理由が。
「真冬の玄関は寒くて、まるで天然の冷蔵庫。野菜や果物の保存にちょうどいいの!」
お正月のお膳も味付けは しょうゆ、酢、みそで 手軽に、おいしく、丁寧に。


1.紫白菜のサラダ
紫白菜は彩りが美しく、テーブルを華やかにしてくれる。食べやすい大きさに切った紫白菜、ルッコラ、ニンジンを酢じょうゆと菜種油を混ぜたドレッシングであえる。
2.白菜の重ね蒸し
いいことが重なりますように、という思いを込めた「重ね蒸し」。巻きすの上に白菜と豚肉を交互に重ねて巻き、蒸し器で蒸す。酢じょうゆでいただく。
3.日の出卵
おめでたい初日の出を表現した一品。フライパンに油を敷き、溶き卵を流して中央に生たらこを置き、くるむようにして焼く。巻きすで巻いて形を整える。
4.根菜の素揚げ
根菜はいいことが「根付く」という縁起物。ニンジン、紅芯大根、ジャガイモを切って素揚げにして、黒竹の葉で刺す。根の付いているものは、切り落とさずにそのまま使う。
5.柿なます
紅白なますの「紅」を柿に。柿を皮ごと横に半分に切り、中心部分をくりぬいて器に。千切りの大根と柿に塩を振り、水分を絞って砂糖と酢、食用菊の花びらを加え、柿に盛り付ける。
6.松風焼き
鶏ムネとモモのひき肉を半々の量で合わせ、長ネギのみじん切りと溶き卵、パン粉を加える。砂糖、酒、しょうゆ、みそを加えて形を整え、オーブンで焼く。
7.鰤のみそ焼き
出世魚の鰤。照り焼きはおせちの定番ですが、信州はみそ焼き。鰤の切り身に味噌を塗り、ひと晩冷蔵庫で置く。味噌は洗い流さず表面を軽く落として焼く。
お正月の思い出は 秘密のノートに
正月料理は、毎年そっくり同じレシピにはならないよう、その年に作った料理を写真に撮ってメモし、ノートに記録しています。「娘にも見せたことないのよ」と少し恥ずかしそうに開いてくださった秘密のノート。料理だけではなく、どんな器にどんな花を生けたのか、来客と一緒に撮った写真も合わせて丁寧に筆で記録され、横山さんが新しい年を迎えることをいかに大切に、そして楽しみにしているのかが伝わってきます。
「このノートのおかげか、夫は『こりゃうまいなぁ』と初めて食べる料理みたいに喜んでくれるんです。何年か前のお正月に食べたはずなのにね」
料理のプロは、器にもこだわります。長野といえば、木曽漆器の産地。
「漆には抗菌作用があって漆器に盛った料理を食べると長生きする、なんて言われているんですよ」
代々使われてきた切溜や吸い物椀、横山さんが自分で買い求めた鉢。特別な日のための漆器を桐の箱から取り出し、一つ一つ丁寧に磨きながら「どの料理に合うかしら」といとおしそうに見つめます。
「人が来ない 家じゃだめよ」
年末年始の横山家は、人の出入りが絶えません。冬のおもてなしには特段心を配ります。来客にはまず、温かな自家製の甘酒を。脱いだコートは「帰るときに冷たくないように」とリビングに。暖をとる手段は薪ストーブと火鉢。火の温もりは冷え切った体を芯からじんわり温めてくれます。薪ストーブの上に載った鍋から湯気とともに立ち上る煮物のおいしい香りに、訪れた人はほっこり。つい長居をしてしまいます。
「私の母は『人が来ない家じゃだめよ』と言っていました。だから居心地がいい家、と言ってもらうのはとてもうれしいの」。そう笑顔で話す横山さんの姿を見て、最初にお会いした日に「趣味は『暮らし』です」と自己紹介してくださったことを思い出しました。
「暮らしは手の掛かることも多い。でもね、布一枚、野菜一つ手に取っても『こうしたら面白くなりそう』ってアイデアが次々浮かんできて、際限がない。私にとっては暮らしが一番の楽しみかな」
手を動かしながら工夫を繰り返し、毎日にひとさじの自分らしさを足していく。横山さんの「楽しみ探し」はこれからも続いていきます。
横山タカ子さんのプロフィール
よこやま・たかこ
1948(昭和23)年、長野県大町市生まれ。長野の郷土食の知恵を生かした家庭料理や保存食を提案。NHK「きょうの料理」などテレビ・ラジオで活躍。年300日は着物で暮らし、古き良き生活の知恵を取り入れたライフスタイルも人気を集めている。新著に『信州四季暮らし』(地球丸刊)など。
取材・文=小林美香(ハルメク編集部) 撮影=安部まゆみ
※この記事は、「ハルメク」2018年1月号で掲載された『こころがたり花の来た道 料理研究家 横山タカ子さん』を再編集、掲載しています。
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連載担当者の執筆する、編集部コラムでも横山タカ子さんについてご紹介しています。
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