「種種雑多な世界」水木うららさん
2024.11.302023年07月25日
通信制 青木奈緖さんのエッセー講座第6期第3回
エッセー作品「可愛くしてやって下さい」中田富子さん
「家族」をテーマにしたエッセーの書き方を、エッセイストの青木奈緖さんに教わるハルメクの通信制エッセー講座。参加者の作品から青木さんが選んだエッセーをご紹介します。中田富子さんの作品「可愛くしてやって下さい」と青木さんの講評です。
可愛くしてやって下さい
夫の生家の兄嫁から「孫息子が結婚するので式と披露宴に出席して欲しい」と夫に電話があった。
変形性膝関節症と股関節症の私は出席は夫だけで良いとほっとしたが、再度兄嫁からの電話で私も出席することになった。
後日招待状が新郎新婦の連名で届き、再び兄嫁から留袖の着付けの件で電話があった。
この頃家の中でも杖を突く状態なので洋服にすると伝えた。
「紫のニットスーツと真珠のネックレスとイヤリング、指輪で十分、誰もあんたの事なんて見ていないから」と娘。
確かにそうだと納得した。
後は髪にパーマをかける事だが、形に拘る娘は「私が付いて行って注文してあげる」と言った。
予定を入れて式の1週間前に行くと、娘は大きな声で、「可愛くしてやって下さい」と先生 に言ったので、私は年を考え内心、それは無理でしょと気恥ずかしかった。
今回着て行く予定の紫のニットスーツは、平成27年の日本編物検定協会主催の技能検定のレース編み3級の優良賞を頂いて、国立オリンピック記念青少年総合センターでの表彰式の時も着用した。
また70歳の歳祝いに夫と娘と共に名古屋へ向かった時もこの服を着て、神前で節目の儀式を受けた。
行く途中で寄った豊田市の喫茶店で大きな真っ白なシベリアンハスキー犬を連れた上品な御夫婦の奥様が声を掛けて下さり、私のスーツを見て、「素敵なお召物ね」と言った。
娘も会話に加わり、奥様は「小雪ちゃんよ」と犬の名前を教えてくれた。
我家でも中型犬を飼っていたので、娘は「小雪ちゃん、長生きしてね」と言って別れた。
慶事の時に着た服なので自信を持って出席させて頂こうと思った。
私の祖父の生家でもあるので、4代後の跡取りの結婚式に、祖父も喜ぶ事と思っている。
青木奈緖さんからひとこと
レース編みのニットスーツ、見ず知らずの方が思わず声をかけるほどすばらしいのですね。スーツに編み上げるのにどれだけ精魂傾けられたことでしょう。七十歳のお祝いを意識して紫を選ばれたのでしょうか。
淡々と抑えた筆致ですが、ほのぼのとした情景が描けています。
ハルメクの通信制エッセー講座とは?
全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は毎月1回家族の思い出をエッセーに書き、講師で随筆家の青木奈緖さんから添削やアドバイスを受けます。講座の受講期間は半年間。
ハルメク365では、青木先生が選んだ作品と解説動画をどなたでもご覧になってお楽しみいただけます(毎月25日更新予定)。
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